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【メーナの勉強ノート1】

8/21 くもり

せんせい:リステル


「えーと‥‥メーナには色々と覚えてほしいことがあるよ。わからないと危ないこともあるからね」

リステルはそう言ってマナミが以前作ってくれた、ダイニングテーブルに座り、メーナに話しかけた。

「うん、わかった」

メーナはリステルに視線を合わせない。

少し俯いて視界には入れるが、直接見ないのだ。

こちらに来てからずっとそうだった。

母親だと定義したリーベにだけ、目線を合わせる。

自分から話しかけてこないし、こちらの話にも上の空でしか答えない。

聞いていない訳では無いが、相手にしてくれないのだ。

「じゃあ、まずは1つ目だよ。お話している時は、相手を見て表情を確認する」

リステルは優しい声でそう言って、時間をかけて待つ。

「‥‥うん、わかった」

メーナは一度もリステルを見ないが、答えた。

リステルは別にイラっとしたりはしないので、にっこりと笑った。

(わたしも小さい時こうゆう子供だったよな‥‥おかあさんがいつも居なくて、淋しかったんだ)

ちょっと昔のことも思い出し、しんみりとした。

母リーシェは結局行方不明のままで、リステルはそれを悲しいとは思えなかった。

思えないままに故郷を離れ、今ここにいるのだった。

「今はリステルとお話ししているよ、こちらを見て欲しい。リステルの顔を見てね」

メーナはおそるおそるといった感じでリステルを見る。

にっこりと笑うリステルに、メーナもにこっと笑い返した。

「リステルはきれいなお顔だね」

メーナは初めて見たかのようにそう告げた。

「ふふ、ありがと!」

リステルは笑みを深くして、答えた。

メーナはリステルの顔に手を伸ばしてくる。

ぷにっと頬に触り、むぎゅうっとした。

「いたた、いたいよぉ」

リステルは痛がって見せるが、特に力が強いとかではないので、痛くはない。

「リステルの顔は色が違うよ?汚れているのではないのね?」

メーナは本当に不思議そうに、リステルの顔を撫で回す。

その小さな手のひらは、温度が高くやわらかい。

「ふふ、人によって色は違ったりするのよ、お顔をみないとそれも分からないでしょ?だからお話する時は、相手をちゃんと見るのよ」

リステルの説明を聞いて、メーナは納得したようだ。

「うん、わかった」

最初の頃と同じセリフなのだが、声の温度が変わった。

リステルに興味を持ってくれたのだ。

リーベ以外にも優しい人も居るのだと、認識を改めたようだ。

「よぉし、じゃあ今日覚えることはそれだけだよ!一緒にこ゚本を読もうかメーナ」

そういって、興味を引くためにと印刷して簡単な製本までした絵本を取り出す。

表表紙の絵がカラフルで、メーナは興味を持ってくれたようだ。

「うん、わかった!」

とことことリステルの側に来たメーナは、ひょいとリステルの膝に乗った。

ジャンプだけではなく、重力制御を使うのだ。

これはリステルも最近勉強しているAI達のもつ魔法にとても似ているが、実態は重力制御装置がインプラントされた義体ではないかと、マナミは言っていた。

そもそも光の玉から生まれて、この姿になったメーナにそんな常識は通用しないだろうと、リステルは思った。

こうゆう存在なのだと、認識するのが健全だ。

「じゃあ読むね」

「うん、わかった」

この子は「うん、わかった」しか言えないのかな?と心配になるリステル。

とは言え、せっかく聞いてくれるのだから、まずは読もうかなと絵本を開くリステルだった。


メーナはとても頭が良く、ストーリーの理解も早かった。

リステルとしてはもっと手こずると思っていたので、拍子抜けだった。

簡単そうなのを選んだので、時間もそれほどかからず読み終わった。

(一度も質問されなかったな?)

普通は読み聞かせていると、子供の理解が及ばず大人が噛み砕いて説明するものだ。

自分が幼い頃はそうして母が読んでくれたよなと思い出すリステル。

ちくりと心が傷んだが、それだけだった。

くるりとメーナがリステルをみる。

小さい手をのばして、またほほを撫でてきた。

じーっとリステルを見るのでニコッと笑って見せる。

今度はメーナは笑わなかった。


「リステルはどうして悲しいのに笑うの?」


そう告げて瞳をそらさずに見つめられた。

動揺したリステルはついたずねてしまう。

「どうしてわたしが悲しいと思ったの?」

何を見て感じ、そう告げるのかと。

リステルの思考は非常に回転が良い。

マナミと会話していても置いていかれない速度で速く正確に考えられる。

その思考がメーナに向けられてしまった。

「うん、わかんない」

そういって、ひょいと身軽に降りるメーナは、とことこと最初の席に戻る。

(な、なにを子供相手に本気で考えて、質問で探りをいれているの‥‥大人げないな‥‥)

ちょっと自分の行動を恥じるリステル。

にっこりと対面に戻ったメーナに微笑んでみる。

メーナはちょっとだけ間を置いて笑い返す。

「じゃあ、今日のお勉強はおわりだよ」

メーナの瞳はまっすぐにリステルを見ていて、言葉や表情ではなく、心そのものを見られているように幻視した。

「うん、わかった」

メーナはどこか淋しそうにただそう言うのだった。


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