【メーナの勉強ノート13】
11/9 くもりところによりくもり
せんせい:マナミ
陰鬱だった黒い森をやっとの思いで超えてきた、スパイラルアークⅡチーム。
後半は戦力的にオーバーキルになりがちで、緊張感はもうなかったが、狭く鬱陶しい森にはかわりはなかった。
最初こそ酸の沼に苦しめられたが、感覚が身に付くと焦りも少なくなりミスも減る。
良いループで戦果を上げてきていた。
そしてついに森を抜け荒野に至る。
敵機の強さに合わせて式神弐式改ⅡもメネシスMkⅡも機体を大きくしていた。
いまでは全高50mになり、母船のサイズから全て出撃させるのが難しくなっていた。
図らずも両チームで機体が同じサイズになるのは、同じクラスのコアユニットを使った最適解ということ。
整備が追いつかないので、出撃させられないというジレンマがそこにはあった。
お陰でパイロットの技量は上がり、機体も強化され、今ではメーナやアイ達は1:1でも敵機を倒してしまう。
「せっかく森を出たのに!」
メーなはぷっくりと不満そう。
外に出たらおひさまが見れるかもと、期待していたのだ。
「まぁ、明るくはあるよね」
アイ01は冷静にそう評価する。
「ここはいつもくもりだよね!」
アイ03はちょっと能天気に笑った。
アイ01・03とメーナの3人で偵察に出されている。
他の方面にも3機ずつ飛ばし、情報を精査している。
なにしろ詳細なマップデータがアイカ達から届けられるので、甘えないようにしたいとリステルの方針だ。
お陰で進行はかなり速いはずなのだが、スパイラルアークに追いつくことはない。
もしもリステル達だけなら、倍は日数がかかっただろう。
ぽーんとジャンプしてメーナが高度を取る。
「こらっ!メーナだめだよ!」
アイ01がメネシスMkⅡの足を捕まえて、引き下ろす。
「マナミが高度を上げないようにと、あんなに言ってたのに‥‥」
くすくすとアイ03は笑う。
「だってぇ‥‥」
メーナはあいかわらずのぷっくり顔。
最近のリーベのアップデートで、機体にインカメラが付いた。
これはログのためだけではなく、近距離通信でも伝え合い、チームとして動き安くしてくれる。
目は口以上に物をいうのだ。
わらっていてもアイ03やアイ01が、メーナを心配してくれているのが伝わり、メーナも機嫌を治す。
「どうやらママが言うには巨大な敵機がいるらしいよ?こちら側には」
アイ01の言うママは、自分たちのオリジナルたるアイカの事。
「無理はしないでねって言ってたね」
普段やんちゃなアイ03もアイカの話をすると、さみしげに視線を落とす。
アイカが想っているのと、同じ強さでアイ達も喪失を味わっている。
精神的に幼いアイ達の方が辛いくらいだった。
メーナにもアイ達の淋しさはわかるので、これ以上迷惑かけられないと、大人しくするのだった。
マナミが「絶対見つからないようにしなさい!」とこわい顔で言っていたのも思い出した。
メーナはマナミが苦手だ。
実はアイ達のママも苦手だった。
アイカは最初にメーナを見つけた者で、最初に叱った人でも有る。
その否定された記憶も薄れてきて、アイ達に接するうちに少しずつそのイメージは上方修正されてきてはいた。
結局敵機には見つからず、2体を目撃したメーナ達は所定のコースで母艦に戻った。
「おおお?!おっきくなってるよ!」
アイ03が最初に気づいて声を上げる。
「ほんとだぁ!格納庫が2本に成ってる!」
メーナもなんだか楽しくなってはしゃぐ。
無線で指定されて、右側の滑走路にと乗った3機が減速して止まる。
「おかえりなさい、エレベーターで下ろしてからでいいからデータちょうだいね。キッチンにおやつあるわよ」
やさしい声はリーベだ。
近距離無線で入り、3人ではーいと元気に答えた。
機体を整備ラックに収め、電磁ラッチで固定すると、メーナは魔力リンクを切った。
前はいちいち格納庫に行って自分の式だけ回収していたが、面倒になりいまはそのままだ。
横着から始まった習慣だが、緊急時に対応がしやすいと、アイ達以外はそうしていた。
メーナは操縦室から格納庫まで走っていく。
アイ達の式神弐式を運ぶためだ。
アイ達のこめられたアイカの式は、銀河連邦の技術なのでこの星で動かすと制御不足で危険なのだ。
そこで帰還してすぐ、リーベが現地の技術で作ったソリッドボディのアンドロイドに乗り換える。
マジックハンドを使ったオートで移動すると、時間がかかるので、メーナが手伝うのだ。
より早くおやつにありつくために。
「アイちゃん!」
メーナは身軽にキャットウォークから搭乗口に飛び移る。
高重力のこの星では自殺行為なのだが、メーナの魔法は無詠唱ながら正確にレビテーションをコントロールして、ふわりと降り立つ。
ちょうど機体から出てきた式神をわしっと掴み、搭乗ゲートのシートに座りぱかっと頭を開いているアイの体に差し込む。
ぱくんと頭がもとに戻り、動き出すのを見ずに、もう一台の式神参式改Ⅱに向かう。
「メーナありがとー!」
背中にかかるアイ03の声には片手を上げて答え、アイ01にも同じアシストをして復帰させる。
そうして3人で仲良く手を繋いでキッチンに向かった。
もうすぐキッチンというころ、両手にアイ達の手を握り嬉しそうだったメーナがビクンと固まる。
「?!!」
突然止まったメーナに驚いたアイ01達。
「どうしたのメーナ?」
「お腹空きすぎたか??」
すうと目を閉じたメーナはくったりとして、眠ったように動かなくなってしまった。
あんなに楽しみにしていたおやつを目前にして。
そこは漆黒の世界に白銀の大地がどこまでも続いている。
夜空に星はなく、ただ一つ青く美しいアルドゥナが浮いていた。
メーナの精神世界に外からの侵入者があったのだ。
(たすけて‥‥)
その声はか細くメーナに届いた。
どうやら知っている気配だと、メーナは緊張を解いた。
(だれ?!メーナはこれからおやつの時間なの、急いでるのよ?!)
手も洗わないといけないのにと、マナミの怒った顔を思い出し不満そうなメーナ。
メーナは無意識にも意識的にもアストラル・プロジェクションを使い、人のこころを覗くが、自分が同じことをされるのは初めてだった。
(たすけて‥‥だれか‥‥ルクール‥‥)
その心の香りに覚えがあったメーナは、早く会話を終わらせたくて声をかけた。
(メーナだよ!どうしたのルニーア?!)
そこに思いやりはなく、とても面倒そうにメーナは声をかけるのだった。
ルニーアはそのメーナの気持ちを受け取る余裕はなく、ただただ救いを求めた。
(た‥‥たすけて‥‥メーナ‥‥大人に伝えて‥‥メーナじゃわからないわ‥‥)
説明しようとして、無理だとルニーアも諦めた。
そもそもそれほど長時間意識をこちらに向けられなかった。
(大人をここにつれてきて‥‥星が大変なことになると‥‥)
ルニーアの声には焦燥が混じった。
(‥‥うん、おやつ食べてからね。じゃあね)
メーナとしては精一杯の譲歩だった。
ルニーアは無言で絶望を味わうのだった。
非常事態なのにと。




