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十人十色

3月9日金曜。卒業まで、あと6日。

教室の中。受験の緊張した空気はどこかへ行き、卒業の、穏やかで、楽しげで、どこか寂しい雰囲気が漂っていた。

「みさき〜次の時間なんだっけ」

「合唱練、楽譜持って。」

「あーそうだったわ」

「まったく…アキラは忘れん坊なんだから。」

そう言っていたが、美咲の顔は優しい微笑みが浮かんでいた。

「北中でもなんか忘れてたらよろしく」

「自分で管理しなさい」

「は〜い」

そう言って合唱練のために体育館に行く。

道中の渡り廊下、そこから見える梅の花はもう鮮やかに咲き誇っていた。

「桜はまだ咲かないのかな」

「桜はあんま卒業式には咲いてない。どっちかっていうと多分入学式の時じゃない?」

「そっか、じゃあ桜が舞う卒業式はきついか」

「まあ、桜の品種にもよるけどね。」

そんなことを美咲と駄弁りながら体育館に入っていった。

整列が終わり、先生が話し始める。

「合唱コンクールと違って卒業式の合唱は順位がつかないんだ。当たり前だけどね。じゃあ、なんのために合唱するか。あくまで俺も意見だが、3年間の楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、全部をこの合唱に込めて、きっぱり前に向くためだと思ってる。」

「だから、どんだけ下手でもいい。リズムが乱れてもいい。だから、3年間を振り返って、ちゃんと想いを込めて歌ってほしい。」

ほとんどの生徒は真面目に聞いていないかもしれない。

だけど、きっぱり前に向くため。それが俺の心に響いた。

「……流石にリズムはとってほしいんですけど大体私もおんなじ気持ちです。じゃあ合唱練始めます。楽譜開いてー」

そう音楽科の先生が言って楽譜を開いた。

歌う曲は「十人十色のキャンバス」だ。

「まず、歌詞を読んでみましょう。心に響いたものがあったらいいですね。」

歌詞を読んでみる。

『それぞれのキャンバス、同じ絵描いてもつまらないからさ、また会った時に自分のキャンバス見せ合おう』

その歌詞が、別れを惜しむ俺の心の奥深くに響いた。

三浦と鷹宮の方を向いてみる。

三浦も、鷹宮も浮かんでいるのは寂しさじゃなくて、笑顔だった。

「俺も、前を向かなくちゃだな」

そう言って先生の方を向いた。

そうして音取りから始まる。

もう合唱曲は何曲もしている。だから、この曲も歌うだけなら簡単にできる。だけど

「感情を込めて歌おうとするとリズム崩れたりするんだよなー。」

「アキラ?なんか言った?」

「美咲。いや、感情込めようとすると、リズムが速くなったりするのよ」

「あーその、多分感情の押し売りみたいな感じになってるんじゃない?」

「ほぉ?」

「ここぞ!って時だけにして、あとは綺麗に、美しく歌うことを意識した方がいいかも」

「でも先生は……」

「だって保護者も来るんだよ。見苦しい合唱見せたくないじゃん」

「だけど……」

「フォルテとか、ピアノとかと一緒。ずっとフォルテとかずっとピアノだと飽きるでしょ?ここって時にあるから効くのよ」

「確かにな」

「じゃあ、放課後うちの家で練習する?」

「お願いします」

そうして、勉強会は終わったのに、また中野に世話になることになった。

「十人十色のキャンバス」も「あの空の向こう側」も実在する曲・本などとは全く関係ありません。ご了承ください

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