顔向けできない。
7月19日の午後。
LINEが五月蝿い。
夏山 今日いなかったけどどうした?
夏山 熱でも出した?
夏山 家行くか?
まだ、アキラに顔向けできない。あんだけ教師みたいに偉そうに振る舞って、偏差値で負けただなんて言ったら笑われるかな。失望されるかな。
[俺から賢さがなくなったらなにが残るんだ]……
またあの言葉が頭を反芻する。
明日には退院するはず。早く寝よう。
心配だけさせないように、返す
中野 いらない
夏山 わかった。なにがあったの?
中野 なんでもない。
翌日、特に後遺症などはなく退院することができた。
「安静にって言われたけど。勉強はそんなエネルギー使わないよね。」
夏山に追いつかなくちゃ、賢くなくちゃ、
私は………
どれくらい勉強を続けただろうか。単語帳3周と、英数の参考書2周、理社国1周ほどした。あと英数1周したら寝よう。
そう思っていたらふと通知が来た。
確認すると144件も溜まっていた。
そのうち121件が夏山からだった
夏山 よかったらまた水族館行かない?
夏山 聞こえてるー?6時間経っても返信こないけど。
夏山 生きてる?
夏山 返事しろ!いつも10分以内に返すだろ
「アキラ。心配してくれてる。」
心配してくれている。だからこそ、もっと賢くならなくちゃ。期待に、応えないと。
「理社国も1周するか。」
それから参考書を半分くらい進めた時。
ピーンポーン、ピンポーン
インターホンがなる。
「誰?」
扉を開けると、目の前には、心配そうにする夏山がいた。
その顔は時間が経つほどに青ざめていっていた。
中野はどうしてるんだろう。
7月20日。終業式の翌日に水族館の誘いをしたが、いつもは10分で返す中野から丸3日も返信が来ない。
終業式も欠席してたし、大丈夫か?
そんな不安が渦巻いていた。
そして、
夏山 返事なかったら家凸るから。
そうLINEに書いて中野の家に走った。
中1の頃からマンションで一人暮らし。最悪の想像が過ったが、それでも走るしかなかった。
インターホンを連打する
「頼む……出てくれ…」
そして、案外その願いはすぐに叶う。
扉が開いた瞬間、血の気が引いた。
そこには中野がいた。
クマだらけの肌が青白くなった姿で
「は?え?どうして?」
「ごめんね、アキラ。私不甲斐なくて。ちゃんと勉強するから」
泣きながら立っていた。
「違う違う、なんでそんな青白くなってるの?」
「私ね。今日単語帳3周と英数の参考書2周、理社国のワーク一周したの。だから、」
「バカじゃねぇのおまえ!?」
「ごめんね。こんなしかできなくて」
「は?話噛み合ってない。」
「うん?なにが?」
「単語帳3周と英数2周、理社国1周?」
「私じゃこれくらいしかできなかった。」
「違う。多い。多すぎる。1日で終わる範囲じゃないだろ。」
「ちゃんとやったよ?これ、見て?」
「文字が崩れてるぞ?え?今何日だと思ってる?」
「え?7月20日でしょ?」
「まじでいってる?」「そうでしょ?」
「寝ろ!まじで!」「勉強?わかった」
「耳までいかれてるじゃんベッドまで連行しないと」
「どこに連れてくの?そっち参考書ないよ?」
「ベッドだよ!」
ベッドに強制的に横にする。
びっくりするほど軽かった。
「軽!?ちゃんと食べてるお前?」
「ちゃんと単語帳やったよ」
「頭おかしくなってるなやっぱ。」
横にしたら一瞬で眠りについた。やはり、体は疲弊し切っていたのである。
「中野が起きた時のために飯用意するか。」
調理器具を確認する。さすが一人暮らししてるだけあって炊飯器など粗方の調理器具。そして鍋が置いてあった。
「鍋だな。米3合は腹の中ぶちこんでやる。」
そう言いながら俺のなけなしの金を握りしめてスーパーに向かうのだった。




