七話 かき氷の味って全部でいくつ?
「かき氷だ!」
通常のメニューとは別の小さなポップにわーいと飛びつく。
「おー美味しそう。ちょっと早い気もするけど。」
華が引っ張ったメニューを反対側からぐいっと身を乗り出して覗く。
そこには大きなかき氷の写真がでかでかと載っている。
「だからこそ美味しくない?こたつアイスじゃないけどさ。」
「かき氷なんていつ食べてもおいしいよ!」
まだ五月とはいえ日向を歩くだけでも平気で汗を掻く気温で、涼しい店内で食べるかき氷は実に美味しそうだ。
「大丈夫?寒くなったりしない?」
「しないしない。」
わくわくとポップを眺める華の腕は白い素肌が直に見えている。
「結構種類あるよ。」
横からおっきなかき氷の写真を見ていたゆーかがそのまま視線を下に下ろして言う。
小さなポップは華の手元にあり、なかなか見にくい。
「何味がある?こっちからじゃぎり読めない。」
反対から無理くり読んでいた町田もポップの下の方の文字を読むのは諦めた。
「えっといちごでしょ、ブルーハワイ、メロン、オレンジもある!オレンジ珍しくない?」
「あーたしかに?あんま見ない気はするような。」
おれんじおれんじと呟いて声は上げたものの目線はポップのままである。
その横でゆーかは腕を組んでどうだったかなとお祭りの屋台を思い出している。
「マンゴーじゃない?」
対してお店で売っているかき氷を想像した町田にとっては同じオレンジ色の果物マンゴーの方が印象が強かった。
「マンゴーは結構見るね。けどお祭りのときマンゴーあるっけ。」
「うわー覚えてな。」
一々屋台のかき氷屋のメニューなんて覚えたりしない。
ましてや出店を見ることも、かき氷自体頼むことも昔と比べて減ってしまった。
「いやーまああるでしょ多分。オレンジも。」
「オレンジとマンゴー並べて置くかな。」
出店の屋根から吊り下がる品書にオレンジとマンゴーが横並びになった景色を想像してちょっとだけ笑う。
味は全く異なるとは言え、どことなく似ている気がする二つが並ぶのはなぜか面白い。
「あとは抹茶ぐらいかな。」
ひとまず全ての味を読み上げた華はどれがいいかなーとポップと向かい合って真剣に考えている。
「あ、え、何の味があったんだっけ。ゆーか覚えてる?」
「なんだっけ。マンゴーは覚えてる。あと抹茶。」
どれどれと華の横から覗き込む。
「あマンゴーじゃなかった。オレンジだ。」
「んっふ。ごっちゃになってんじゃん。」
真顔でそう告げるゆーかが面白くて思わず笑ってしまう。
「ふふ、違った。」
町田が笑うのに釣られて笑う。
「マンゴーってなに。てかオレンジ色が何。代表ヅラしすぎ。」
「いないよ色に怒る人。」
その横で華は黙々とメニューを見続けていた。
上から下まで何度も視線をやって散々迷った挙句ようやく言葉を発する。
「んんんん。ここはやっぱいちご?」
ポップの一番上を陣取る写真はいちご味のかき氷。
「いちご良さそうだけどね。だってこれいちご乗ってくるんでしょ?」
「そう!そこだよね。」
写真にはガラスの器の上にどかんと盛られたかき氷といちご色のシロップ、そして何より本物のイチゴがその周りにぐるっと盛り付けられている。
これはいちご味にだけ許された贅沢で、他の味では本物の果実が飾られたものはない。
「おいしそうだなあ。」
ひんやりとした器とあのつべたいかき氷。
「けど苺はほんと当たり外れがあるのがなー。」
「くうう。」
ふわふわと幸せな妄想をしていた華が地上に戻ってくる。
「世の中のすべてのいちごがやわくて甘ければいいのに。」
儚い夢を唱える。
「たまにあるよねー、なんか固めのやつ。」
「硬いのはまあ、それはそれで美味しいかなと思うけど。酸っぱいやつはちょっとやかな。」
町田とゆーかも口々にいちごへの思いを告げる。
「なんなんだろうねあれ。」
「まーそりゃ完全に同じものができるわけじゃない...けどせっかく買ったのに外れるとなんかなあ。」
思い出すのは一口食べて練乳をいっぱいかけなおした数多のいちごたち。
できることならそのまま食べてやりたい気持ちはありつつ、なんだかんだ練乳をかけた方が美味しいことの方が多い。
「とはいえいちごが乗ってるのこれだけだし。食べたいなら頼めば?」
プレーンのかき氷と比べれば、多少理想からは外れようといちごが乗っているだけで贅沢なものだ。
「うーん。」
しかしそれでもまだ迷う。
もう口の中はいちごを待ち侘びているが、果たして本物のいちごを食べるほどなのか。
「二人はいらないの?」
ふと二人が華に勧めるばかりで頼もうとしないことに気づいて尋ねる。
「んーまあいらないっちゃいらない。」
町田はあまり乗り気でないようで、軽く首を傾げる。
「どうしよっかな。さっきのでちょっと食べたくなってきた。」
町田と話している間にかき氷を久々に食べたくなったらしい。
華ががっしり握ったポップを二人の間にずらす。
「ありがと。」
ゆーかも少しだけずれて、片手をソファについた状態で覗き込む。
「メロンかなー。」
「あははっ、オレンジじゃないの?」
メニューを眺める二人をぼーっと眺めていたのに、ゆーかが聞き逃せないことを言い思わず笑いが出る。
「んふ、いや別にオレンジ好きなわけじゃないよ?」
「なにがなにが?」
何も聞いていなかった華は笑い合う二人を交互に見ている。
「ん?なんだろ、オレンジとマンゴーってほぼ一緒だよねみたいな。」
「いや違うよ!?」
色しか合ってないでしょと冷静に言うも、着いてこれてない華が困惑している様子がさらにツボに入る。
「かき氷頼むだけなのになんで笑ってんのさ。」
と言いつつ釣られて華の口角も上がっていく。
「ほら、決めるよ!ゆーかは何にすんの?マンゴー?」
このままでは収拾がつかないと、早くかき氷を食べたいので切り替えようとするが町田が耐えきれずに机をばんばん叩いて笑い出す。
「ふふふふ、面白すぎるんだけど!もういいってマンゴーは!無いんだよマンゴー味は!」
「え、そうなの?じゃあなんなのマンゴーの話は。」
ゆーかにとっては華がわからないほど面白いが、かき氷はさっさと頼んでおきたい。
ピークの時間は過ぎてるとはいえまだまだ人の多い店内で、今から頼んだかき氷が届くまでにはまだまだ時間がかかる。
「んもうなんでもないよ。あれ、メロンねメロン。」
「メロンでいいの?」
「うん、もうなんでもいい。」
笑い疲れてぐったりしながらメロンでお願いと華に注文をお願いする。
「あれあるよ、練乳。」
メロンはあるのかなとメニューを見直していた華が隅にかかれた一文に気づく。
そこには練乳がかかったものにすることもできますと、いちごのことばかり見ていたために気づかなかったオプションがあった。
「どっちでもいいけど、まあかける?」
写真がないためにどの程度練乳がかかっているのかはわからない。
「あったほうが美味しくない?」
「絶対あった方が美味しい。」
どっちでもいいと言った口でそのままそう言う。
どうせ食べるなら練乳がかかっている方が甘くて美味しい。
「えーじゃあそうするよ?」
なんていいながら目は再びメニューに落ちる。
練乳がかかったかき氷のことを想像していたら、自分の頼むかき氷にもかけられるのか気になったのだ。
「そうしてそうして。」
ゆーかがなげやりに答える。
そしてすぐに練乳がかかった写真を見つける。
一番大きな写真の横の写真が角度が違うだけかと思っていたら練乳がかかっているバージョンだった。
「じゃあ押しちゃうからね。」
ちゃんと練乳かけれますって書いといてよね!と思いつつ、再び店員さんを呼ぶ。
「ご注文お伺いいたします。」
「えっと、かき氷のメロン味と、いちご味でいちごトッピング、どっちも練乳付きでお願いします。」
メニューを町田に渡して戻してもらいつつ注文する。
そのまま店員さん食べ終えたお皿も持って帰ると、再びまっさらなテーブルが戻ってきた。




