六話 嫌なことからは逃げてもいいと思う
「にしたってまあよくあんなに課題溜め込んでたもんだよ。」
ふうと一息ついて町田が言う。
「そもそも出しすぎなんだよ!あんな量終わるわけないじゃん!」
課題を提示された時の絶望感はすごかった。
ゴールデンウィークって遊ぶための期間じゃないのか。
「いや華と一緒にしないで。町田も終わってるでしょ?」
「まーね。やってないと顧問の先生から小言言われるから一応。」
ただでさえ素行の悪い町田なだけになにかにつけて小言を言われるため、暇な時間でちまちまやっていた。
しかしそうなると対比でより立場が悪くなるのが華である。
「私一人がやってないと絶対なんか言われるじゃん。」
拗ねてストローに息をぷくぷく吹き込み水面の泡で遊ぶ。
課題を提出する時のあの気まずさと言ったら他にない。
課題をやった方がいいと言う意識はあるので気まずくなれる。それでもやるかは別として。
「町田もやってなかったとして、何か言われるのは変わらないと思うけど。」
「だとしても一人で立つのと二人で立つのとではだいぶ違うよ!」
なんといっても町田と華が立てば身長差で圧倒的に町田が目立つ。
下手したら華の方に視線が向けられることがほとんど無く終わることすらある。
「盾にしてるだけじゃん。もう諦めて怒られたら?」
やってることは華と同じなのになぜか集中的に怒られる理不尽さを薄々感じつつ、その後に何かしら奢らせることで渋々、渋々盾になっているのだ。
決してどうせやらずに怒られるんだから、奢ってもらえる方が得だなんて考えのもと盾になっているわけではない。
「やだよ!」
「いやなら課題済ませなよ。」
「それもやだ!」
鞄の中の課題が泣いている。
「なにを堂々と言い切ってんの。」
何の迷いもなくやだと言い張る姿に呆れつつも話を前に進めようとする。
「いつも長期休暇の課題はなんだかんだ終わってるじゃん。」
それを聞いた華はどかんと背もたれに凭れ掛かって答える。
「夏休みは朝が涼しいし...冬もこたつの中にいるから...」
「理由になってないでしょ。」
「だったらゴールデンウィークだって普通にやればいいじゃん。」
よくわからない理由を答える華に容赦なく追撃する。
ゴールデンウィークだって別段過ごしにくい季節ではないのだから。
「だって今年は遊びにも行かなかったし...」
自分でもよくわからない原因をうーんと考えながら、ひとまず思いついたことを口にだす。
「まあ部活で忙しかったし。ゆーかは家族旅行行ってたんでしょ?」
今日のはじめに"はいおみやげ"とご当地クッキーをもらっている。
町田は町田で部活で忙しく、三人で集まるのはゴールデンウィーク前の学校で会った振りであった。
「うん。ホテルの割引券もらったらしくて。」
「いーなー。私なんてずっと家にいたよ。」
うにゃうにゃと再び身体中の力が抜けて沈んでいく。
部活と旅行、充実したゴールデンウィークを送っている二人と比べると家にいただけというのはいささか寂しい。
「どっか行ったりしなかったの?買い物とかでも。」
「買いたいもの無いし。」
すっかり溶けて軟体生物のような体勢で答える。
「映画とか。」
「見たい映画もない。」
町田からはもはや頭しか見えない。
「じゃあ別に外に出る理由がないんだから出なくてもいいじゃん。」
「そうそう。出ないなら出ないでやれること色々あるよ。」
すっかりしょぼくれたタコさんに励ましの声をかける。
そのかいあって少しだけ頭がひょいと出てくる。
「課題とか。」
「うう。」
また下がる。
「ちょっと町田!」
「ははは、ごめんってば華。」
机の縁からひょこひょこ見える頭に思わずツボる。
二人の姿を見てしょうがないなと華の体を持ち上げようとする。
町田と違いそれほど体格差もないゆーかでは一苦労である。
「華は華でそろそろ起きて。」
持ち上げた体がぐいーんとのびる。
「猫じゃないんだから自分で座りなさい。」
「ふぁい。」
持ち上げられて直ぐにまた溶けそうになるが横から一睨みされて慌てて座り直す。
「まあ実際課題する時間はいっぱいあったわけでしょ?今年はどこにも遊び行かなかったし。」
一人呑気にパスタの最後の一口を巻きながら聞く。
その横でゆーかもオムライスを片している。
「うーん。」
対する華はなんとも言えない表情で答える。
「なんかなー。そうなんだけどやる気が...」
思い返せば昼に起きご飯を食べ気づいたら夜という生活をしていた気がする。
もちろん机に向き合った時間もあったが、気がついたらベッドで寝ていた。
「やる気はどうしようもないなあ。」
ごちそうさまでしたと手を合わせ、食器を片しながら町田が言う。
「何でやる気出ないの...って言ってもしょうがないか。」
「なんでかなー。」
腕を組んで首を傾げる。
しかし特に心当たりはない。
「やる気なんて出そうと思って出るものでもないしね。」
「やる気の出し方があるわけでもないし。」
やる気が出ないと言われれば流石の二人もどうしようもない。
いやいっそやる気なんて関係ないからやりなさいと言えばいいのだが、なんとかして自分からやれるようにしてやりたいという思いがある。
「逆に今まではなんでできてたの?」
少しでもヒントはないかと振り返らせる。
「なんでって...なんでだろう?」
目をつむって思い返すも、なんとなくやっていたとしか言えない。
「逆にゆーか達はどうなのさ。」
「どうやってやる気出してるか?」
ぱんと手を叩き、ゆーかが思い出しながら話す。
「これ、とは言えないけど、とりあえず一ページ終わらせる気でやったらそのまま全部終わらせたくなる性格だからそれかな。」
「あー、ゆーかはそういうタイプだよね。この前部屋行った時もちょっと片付けるとか言いながら部屋中掃除始めてたし。」
町田は町田で部屋の主と、それに釣られて動き出す友人がバタバタと掃除している中を平然と茶菓子を食べていた。
とはいえそのことを指摘するわけでもなく、むしろお互いに気にしないでいれるからこそ友人なのだが。
「んー。部活行きたくないなって時は普通にサボっちゃうからなぁ。」
強制参加というわけではないので厳密にはサボりではない。
「課題はどうやってるの?」
「やりたくなかったらやらない。」
平然と答える。
「気に病むぐらいならやらない方がいいんじゃない?」
余計なことを言うなと睨まれるもののこれはこれで華を想ってのことである。
抜けているところもあるが根は真面目な友人だからこそ、やる気が出なくてもやらなきゃいけないことはやるだろうという思惑があった。
「いや、やらなきゃなって思ってるからいいんだけど...ほんとやる気だけ出ない。」
うおおおと机に向かって課題をやっている姿なんて想像できない。
大抵寝る前に慌ててやり始めることばかりである。
「やる気がでなくても明日はやるでしょ?」
「やる!ゆーかの家?」
明日一緒にやらなければいよいよ徹夜したところで終わるわけがなくなる。
「うちでやる?荷物運ぶの面倒だから華の部屋でいいんじゃない?」
「そうかも。」
そういえばあのカバンを持って帰らなきゃなのかと一瞬頭によぎったが、考えたくないので頭から消した。
「明日の予定も決まったところで、これ見てよこれ。」
「町田は来てくれないんでしょ?ってわあ!」




