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少女、五月を克服せよ!  作者: 白崎イチイ
少女、五月を克服せよ! ファミリーレストランの巻

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五話 にらめっこ

「おいひい。」


 両手でコップをしっかりと掴み、だらけた顔でストローから謎の液体を吸い続けている。


「えー。なんか負けた気がして納得いかないな。」


 そんな華をテーブルの向かいから頬杖をつきながら眺め、口を尖らせなんだかなあという感情を顔全体で表す。

 吐くほど酷かったにも関わらず美味しそうに飲まれるとまるで自分が間違っていたのかという気がしてくる。


「そういう風にされるとちょっと飲んでみたくなるけど。」


 華の横でオムライスを食べながら少しだけ沸いた好奇心を素直に告げる。


「ん、飲む?」


 その言葉を聞いてはいとコップを差し出す。

 なんならゆーかが全部飲んでも別にまた作ればいいのだ。


「絶対いらない。」


 差し出されたコップが押し返される。


「えええええなんで!?」


 ひどい裏切りにあったという顔で驚いている。

 微塵も断られるとは思っていなかったらしい。


「いや無理だから。普通の人間は町田の反応になるから。」


 冷静に言うと自分のコップを手に取って水を飲む。

 あんな事件があった後だ、例え一人の味覚音痴が美味しく飲めたからといって自分まで飲む気にはならない。


「まあ流石に町田のあれはびっくりした反射もあったと思うけど......にしたって美味しく飲めはしないと思う。」


「確かにね。飲めなかな無い、飲めなかないんだけど売られてたら絶対買わない。」


 ゆーかの言葉にうんうんと頷きながらあの味を思い出す。

 あの時は水だと思っていたものが奇妙な味の飲み物だったことで思わずという感じだったが、後から思えば砂漠のど真ん中で売られていたら全然飲めるレベルだった。


「いや、丸二日何も飲んでなかったらギリ買うレベルかな?」


「ふつうに美味しいけどなぁ。」


 一体この子の何が不満なんだと首を傾げる。

 その様子を見てむしろ何がそんなに好きなんだと首を傾げる二人。


「あ、ていうか飲み物忘れてたからとってくる。」


 ぎぎと椅子を引いて立ち上がる町田。

 

「お茶は?」


「もう飲んだよ。」


 先ほど華が注いできた空のコップを持つとからからと氷を鳴らしながら歩き始める。


「もしかして町田も作ってくれたりして。」


 どこかうきうきと目を輝かせて、一口食べられたドリアをスプーンですくう。

 さっきの事故で町田もドリンクバーミックス協会に入ってくれるかもしれない。

 もっともその場合ゆーかに頭を叩かれてすぐさま元に戻るだろうが。


「うーん美味しい。」


「そりゃそれはね。」


 呑気にそういう華はなんの反省もしていないのは間違いない。

 反省している人間はこんなに美味しそうにドリアを食べれないのだ。

 

 ゆーかは半分は食べたオムライスを見て、それからまだちっとも食べられていない二人のパスタとドリアと見比べてた。

 なんの被害にも遭わなかった自分だけかなり進んでしまっている。

 二人が食べる進めるのを待つ間、暇を潰すようにじっと華の顔を見る。


「な、なにさ。」


 真横からの視線を受けてこちらも食べる手が止まる。

 なんとなく食べにくい。


「別に。」


 別に、なんて言いながら目がずっとこちらを見ている。

 一応スプーンの上に乗ったドリアをゆーかの口元に運ぶが別のところを見る気配がない。


「食べる?」


「食べない。」


 一口食べたいのかと思ったがそうでも無いらしい。

 しかし食べないと言いつつ目線はじーっとこちらを捉えたままだ。

 あ、わかった。


「しょうがないなあもう。」


 ゆーかったらなんて甘えん坊なんだ。

 まさか食べさせてほしいだなんて、一言言えばあげるのに。


「あーん。」


 しょうがないなあとドリアを口の中に運んであげる。

 食べないとか言っておいてちゃっかり口は開いている。


「どう?」


 もぐもぐと口が動くのを見て一応感想を尋ねる。

 まあ華より先に一口食べてるんだから、美味しいからもう一口食べたくなったんだろうけど。


「おいひい。」


「そりゃよかった。」


 よかったよかった。

 じゃあ食べますかともう一口掬ったところでこちらを見る視線に気づく。


「あの?ゆーかさん?」


 ドリアはもう食べ終えているのに微動だにしない。


「もうゆーかさんの分はないかなー、みたいな。」


「......」


 なんで何にも言ってくれないんだ。気まずい。


「なにしてんの華。」


「なんでこっちなのさ、言うならゆーかにでしょ。でも今はそんな言葉でも嬉しい!」


 飲み物を片手に立ち尽くし、無言で見つめ合う二人を変な顔で見ている。

 華は救世主だと嬉しそうな顔で町田を見て、ゆーかは静かに華を見ている。

 ここにへんてこトライアングルが完成した。


「ゆーかがずっとこっち見てくるんだよ!」


 むむむと負けじと見つめ返す。


「んふ、にらめっこでもしてんの?」


 顔に力を入れているせいで華が面白い顔になっている。


「違うよ!なんかゆーかも話してくんないし。」


「そーなの?」


 なんでか勘違いされたので見つめ返すのは諦めて町田に返事をする。

 また新しいいたずらを始めてるなとゆーかに尋ねるとふいっと顔を町田に向ける。


「そう。」


 ふんふんそうなんだと頷く町田とは対照に華は突然話し出したゆーかにびっくりである。


「なんで町田には喋るのさ!」


「ずっと見てたら食べにくいかなーって思って。」


「なんじゃそりゃ。」


 なんちゅうしょうもない理由だ。


「いやー二人ともあの飲み物にお熱で全っ然食べないから私だけめっちゃ食べちゃってるんだよね。」


「ほんとだ。オムライスもう半分減ってるのにパスタもドリアも八割方残ってるじゃん。」


 なんだか若干責任を感じなくも無い。

 全く誰だお騒がせドリンクを作った奴は!


「まったくまったく。冷めない内に食べちゃわないと。」


 なぜかこちらを向く二つの視線には気づかないふりをしてへへへと食べ始める。


「まいいや。実際冷めないうちに食べたいし。」


 そう言ってパスタをぐるぐると巻き取る。


「町田好きだよねー、パスタ。だいたいいつも選んでない?」


 なんだかいつも町田がパスタ食べてる姿を見てる気がする。


「そんなことないと思うけど。六割ぐらいだよ。」


「いやパスタだけで六割行ってたら十分すぎるでしょ。」


 呆れながらゆーかが言う。


「そうかも?」


 首を傾げながら巻き取ったパスタを口に入れる。

 ゆーかも普通にオムライスを食べている。

 さっきのお返しとばかりにじっと見ていると視線に気づいたゆーかがスプーンを止める。


「ん、こっちみないで普通に食べてよ。」


「人にはしてたのに!?」


 自分の方を向いた華のほっぺをうにっと掴んで正面を向かせる。


「普通に食べなさい。」


「ぐぬぬぬぬ。」


 なんだかいいようにされている気もするがこのままではドリアが本当に冷めてしまう。


「まだあったかい。」


「ゆーかも華見るのやめて食べなよ。」


「ん?」


 町田につられてゆーかの方を見るとまたこっちを向いている。


「いやー華が食べてるところ見るの楽しくてつい。」


「そんなことするなら私も見るよ!」


「...全然問題は解決してないような。食べてない人が増えただけだよ。」


 ふざける二人を他所においしくパスタを食べ進める。

 なんだかんだと少し冷めてしまってはいるが、それでも三人で食べる料理は美味しい。


「......」


「んふふふ、食べにくいってもー!」








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