三十一話 次から次に
「あっ町田!」
カートを転がし生肉コーナーへと向かう途中、すれ違った町田を大きな声で呼び止める。
「おー、終わった?」
「いや終わってはないけど。今からお肉選ぶ。」
町田は華の握ったカートの中身を覗き込む。
「色々買ったね。」
「そう?」
ハンバーガーというといかにも健康に悪そうなイメージがあるが、実際のところ野菜もちゃんと使われているのだ。
あまりにも野菜の占める割合が低すぎるというだけで。
「てか町田の分も買ってるからついてきなよ。」
二つ入りのトマトも、ハンバーガーにするのならそれでも多いくらいだ。
三つにそれぞれ分けてその上サラダまで作らないと消費しきれない。
レタスやじゃがいもにしたってそれは当然同じことで、わざわざ別で町田が買う必要はないのでここからは一緒に回った方がいい。
「おっけー。」
単に自分がこそこそと肉を買っただけにはなってしまったが、それを食べるのは二人なのでまあその分頑張ってもらったということにしておこう。
なにせこうして秘密にしてまで買ったお肉を目の前にすれば二人とも腰を抜かすに違いない。
「...なに気味の悪い顔してんの。」
「してないよ。」
つい笑いが溢れていたようで怪しげな目で見てくるゆーかだが、この態度もいざ完成品を食べる段となればころりと変わってしまうだろう。
「まあいいけど。」
なにか馬鹿らしいことを考えていそうな町田は放っておいて、ゆーかは自分の分に加えて華のパティのことも考える。
レンチンのを使えば簡単に出来上がるとはいえフィッシュバーガーにしようかと血迷っていたぐらいにはこのハンバーガー・バトルに対して真剣なようである。
となるとパティも手作りさせた方がきっと楽しめるはずだ。
「華、自分で作る?」
「うーん...作れるなら作りたいかも。」
遠慮がちに言っても表情が期待を物語っている。
これは絶対に自分で作りたいと言う顔だ。
とはいえ、ゆーかの横で同じように作って同じように焼くだけであれば負担もそこまでない。
「じゃあ一緒の買っとくね。」
「了解!」
なにもわからないので華に否やはない。
とにかくゆーかの言うことに対して頷くだけである。
「とりあえずこれで材料は一通り揃ったかな。」
相変わらず自分のカゴの中身を見せない町田が二人の方のカゴを覗いて言う。
「何買ったの?」
「内緒!」
後ろに回ってなんとか盗み見ようとする華の動きは軽々と交わされる。
第一カゴを頭の上に持って行かれた時点で物理的に見る方法がないのだからあまりにも不利すぎる。
ただまあ、行きに「チキンでも挟もうかな」と言っていたのに隠すと言うことはチキンバーガーではないんだろう。
鶏ではないとすると豚...?...トンカツバーガー...?
「そんなのあるのかな?」
サンドイッチならよく見るがしかしハンバーガーになっているのはあまり見ない気がする。
けど絶対美味しい。間違いなく美味しい。
「ああ、飲み物買ってない。」
「そうじゃん!」
レジに向かう途中ぽつりとつぶやいたゆーかの言葉で思い出す。
言われてみればジュースを買うのを忘れていた。
「やっぱハンバーガーにはコーラだよね!」
古今東西、ハンバーガーというのはコーラが合うものだと決まっている。
否、ハンバーガーだけではない。
そのサイドメニューであるポテイトだってコーラが一番合う。
「せっかく自分たちで作るんだから最高の状態で食べないと。」
想像するだけで涎がじゅるりと垂れてくる。
カリカリサクサクのポテトに、ザクっふわっとハンバーガーを頬張った口にコーラを流し込んでしまえばそんなのもう...
「汚いなあ...」
「まあ華はコーラでいいとしてゆーかは?」
自分の世界に浸っている華のことは放っておいて町田が聞く。
「どうしよっかな...華じゃないけどせっかくならジャンキーにコーラで行こうかな。」
「じゃあ全員コーラにしとこうか。」
それなら二リットルのコーラを一本買ったら十分だろう。
大きなボトルを足元から引っ張り出して、華の押すカートの中に放り込んだ。
「これでよしと。」
相変わらず上機嫌にカートを押している華は重みが増したことにも気づいていないらしい。
ひとまずこれで準備は万端なようにも思えるが、スーパーに来ると余計なものまで買いたくなるこの気持ちはなんなのだろうか。
「もう買うものない?」
なんとなく名残惜しくなって尋ねると、指折りカートの中を確認していたゆーかがそんな様子を見かねて提案してくれる。
「ないけどまあ、アイスとか買ってってもいいよ?」
「おーアイス忘れてたじゃん!」
せっかくこんなスーパーまで徒歩で十五分かけてきたのだから、そんな自分にご褒美があってもいい。
いや、人類皆んな頑張っているのだからそれぐらいのご褒美は毎日食べられるべきだ!
「華、アイス買うよ。」
「はーい!」
然しもの華といえどアイスとなれば目が醒める。
町田の声かけにぱっちりとした目を輝かせてアイスコーナーへと直行する。
「昨日食べたのにすごい食いつき。」
ごろごろとカートを押して走り去ってしまった華だが、どこにあるのかわかっているのだろうか。
残されたゆーかと町田は二人でくるりと後ろを向いて店の奥へと歩き出した。
「アイスはいつでも別腹だからね。」
「ここにもいたのか。」
町田に言わせれば昨日アイスを食べたからと言って今日食べたくないなんて、そんな人間がいたら驚きである。
たとえ熱が出ていても嵐が吹いても地球に隕石が落ちてきたってアイスはいつでも人間達を待っている。
そう講釈を垂れながら歩いていたらいつのまにやら到着していた。
残念ながら隣にいるゆーかも含め誰一人そのアイス談義を聞いている人はいなかったのだが、唯一付き合ってくれそうな華は既にアイスのショーケースをうっとりと眺めている。
「はや。もう華ついてるじゃん。」
「まあね!」
後ろを振り返ることなく右手でグッとサムズアップする。
華は今この無数にあるアイス達の中から今日のスペシャルを飾るにふさわしいものを選定するのに忙しいのだ。
なんたって、ハンバーガーに合うアイスクリームを探さなければならない。
「やっぱり普通のバニラアイスかな?」
なんにでも合うこのシンプルな味わいなら主張の激しいハンバーガー君ともうまくやっていけるだろう。
いやむしろ、パンケーキなんかだと挟んで食べるぐらいだからハンバーガーに挟んでも美味しいかもしれない。
「...何考えてるかわかんないけどそんなことしたらぶっ飛ばすからね。」
「へへ、冗談冗談。」
そういえば食べるのは自分じゃないんだった。
ぎらりと目を光らせたゆーかに睨まれながらも吟味を続けていく。
あれもいい、これもいい、それもいいなあと頭の中でアイスパーティーが開かれている華と違って二人は早々に選び終えて暇を持て余していた。
「どうする?もう置いてく?」
「あと五分決めなかったら帰ろう。」
「いよし決めた!」
まさか自分が悩んでいるすぐそばでそんな恐ろしい計画が建てられていたとはつゆ知らず、がちゃんとケースを開けた華は中からアイスを取り出した。
「この抹茶味がハンバーガーの濃い味をうまく乗りこなしてくれると信じて!」
華が選んだのはカップに入った抹茶味のアイスクリームだった。
いい加減待ち飽きた二人も口々に適当な褒め言葉を言って切り上げようとする。
「いいじゃん。デザートでお口をさっぱりってことね。」
「いや、コーラフロートにして飲むの。」
「さては懲りてないな?」




