二十八話 どこで寝ようか
三人で話すわけでもなく。
ただなんとなく過ごして時間を潰していた。
ごろりと寝返りを打った華が漫画を読んでいるゆーかに声をかける。
「今何時?」
「あ、もう十二時すぎてるじゃん。」
ちらりと時計に目をやったゆーかは思わず二度見した。
まだまだ時間はたっぷりあると思っていたがそうでもないらしい。
「やっぱり?眠いと思ってたんだよ!」
「横になってるから眠いんじゃないの。」
ごしごしと目を擦りながらそう叫ぶ華だが、珍しいほどに静かに横になっていたので寝ているのかと思っていたほどだ。
眠いから横になっているのか横になるから眠いのか。
どちらが正しいのかは分からないが、とにかくもう寝る時間である。
「町田!」
「んぅ?」
一人ベッドの上で壁にもたれて座っていた町田はかろうじて返事を返す。
「もしかして寝てた?」
「寝てた...」
そう言いながら横になり再び眠りにつく気満々である。
「ちょいちょいちょい布団だけ出してよ!」
どかんとベッドの上に跨った華は先ほどまでの眠さはどこへやら張りのある声でお願いする。
下敷きになった町田はうごうごとどかそうと退かそうとしても全く動かないので諦めてなすがままだ。
「自分で出しなよ...」
「いやいやいや、自分だけ寝るつもりでしょ?」
そんなことは許さないと布団まで引っぺがすが気にせず目を瞑っている。
寝たいのはこちらも同じだというのに。
「そもそもどこあんのさ。」
布団がどこにしまわれているかなんて知らないのに部屋の主人が寝てしまったら困る。
このまま二人で町田の上に乗っかって寝るか硬い床の上で寝るかの二択になってしまう。
「布団なら押し入れの中あったよ。」
町田の部屋を探検していたゆーかは押し入れの中を覗いた時に見つけていた。
がががと押し入れを開けて町田に尋ねる。
「これでいいんだよね?」
「うん...」
「だって。」
押し入れの中には畳まれた状態の敷布団が何枚か積み重なっている。
町田の家族が布団を使わずに生活をしているということがなければ来客用のものだろう。
「華、手伝って。」
敷布団は意外と重い。
引っ張る分にはそうでもないが、人様のものを粗末に扱うわけにもいかないのでべちゃりと床に落とすわけにはいかない。
普通に取り出すのであれば横から二人で支えるのが一番確実だ。
「りょーかい。」
そう言ってゆーかとは反対側に待ち構える華。
「いよいしょ!」
受け取った布団を二人と運ぶと押し入れからは少し離れたところにぺとりと置く。
敷布団と掛け布団、布団を二人分だから六回か。
「やっぱ町田も手伝ってよ。」
「できるでしょ二人で...」
我関せずにベッドの上で夢の世界へ旅立とうとしているがそんなことはさせやしない。
「大体、町田がそこで寝るかも決まってないからね!」
「ええ...」
顔を壁側に向けていても困惑の声が漏れたのははっきりと聞こえた。
しかしまだどこで誰がどこで寝るかは決めていないので町田にそこで寝る権利はない。
部屋の持ち主といえどこればかりは参加してもらう。
「たまには床で寝てみたら楽しいよ?」
「ベッドで十分です...」
いつの間にか剥がしていた布団を再びかぶっている。
これは手強そうだ。
こうなると正攻法で攻めてもそのまま寝てしまうだろう。
「ゆーか、布団ベッドの方に寄せよう。」
「おっけー。」
ベッドから少しだけ低くなるように、かつ落ちても大丈夫なぐらいの高さに布団を積み重ねる。
これで準備万端だ。
「じゃあゆーかは上半身持って。」
自分は両足首を持った状態でそう言う。
町田の脇に腕を差し込んで上半身もゆーかによって持たれる。
「なにすんの...」
「起きないなら落とすからね!」
華の横暴な宣言にも梨の礫だ。
「好きにしなよ...」
「あ信じてないなこれ。やるからね?」
ゆーかと合図をとってうんしょと持ち上げる。
主に上半身を持つゆーかの力によって腰だけは接地しているがそれ以外は浮いている。
「うわこっわこれ。」
そんな状態にも関わらず危機感を感じていないのか呑気に感想を言う。
これをアトラクションか何かだと思っていそうだ。
「町田、横見てみなよ。」
「ん?おわ、絶対あれに落とすつもりじゃん!こわ!」
町田のためだけに用意したアトラクションとそのために敷かれたマットだ、存分に楽しんでほしい。
なんと今なら並ばずにもう一回楽しむこともできる。
「うおお危ないってちょ華はまずい!」
ゆーかはともかくとして自分より明らかに体格の小さい華に体を支えられているのはふとした拍子に事故で落とされそうで怖い。
自分の体が持ち上げられてようやく身に迫る危機に気づいたようだが今更止まることはできないのだ。
あとはこのまま横に動かして布団の上に落とすだけ、つまりこのアトラクションのメインイベントなのだから。
「わかったわかった起きるって!」
「ほんと?じゃあ起きる手伝いしてあげるよ?」
「いらないいらない。」
ばっちりと目が開いた町田はむしろ日中以上の元気を取り戻していた。
華の手伝いを断るぐらいなのだからそれはもう、すごい元気なはずである。
「布団敷いて場所決めるだけね。」
「そうそう。」
恋しかった地面に両足でしっかりと立って積み上げられた布団を見る。
絶対この時間があったら敷き終わっていた。
「...それぐらい自分たちでやりなよ。」
「アトラクションはまだ経営できるよ?」
ぼそっと呟いた言葉にすわキャストにならねばと動こうとするが、文句は言うものの手伝ってはくれるらしい。
机を退けてベッドから並んで一、二と布団が敷かれる。
「でどこで寝るかはどう決めんの。」
「それはもう、ドラフトで!」
自分がどこで寝たいかをドラフトして被ったらじゃんけん、被らなければそのまま決定だ。
「じゃあ私ここ。」
いの一番にゆーかが選んだのはベッドから遠い布団。
「なんでそこ?」
「ベッドは被るし、ベッドの隣は落ちてくるかもしれないから。」
そう言われると確かに、床に敷かれた布団にも序列があるのか。
そしてそれを聞いてすぐさま町田も指を指す。
「じゃあベッド行くよ。」
「あずる。私もそこがいい!」
ベッドと布団。
同じじゃんけんするにしてもより良いところで勝負した方がいい。
ゆーかは最善を避けて次善をとったようだが、華はそんな逃げるようなことはしない。
夜だというのに元気にじゃんけんを始める二人を既に決まった布団に座って眺める。
ベッドはじゃんけんでの取り合いになるのは目に見えていて、まさか布団に被せにくるわけがないので確実にとれると分かって選んでいた。
どちらも気合が入っているが気合いではじゃんけんの勝敗は変わらないので意味がないと思う。
「最初はグー!」
お互いの目を見て高度な心理戦が始まれば良かったが、あいにく考えるより感じろの二人なので何もなかった。
眠くて頭が考えることを放棄したとも言う。
「じゃんけんチョキ!!!!」
「パー!」
チョキを出した華は全国大会で優勝したかのようにぴょんぴょんと喜んでいる。
人のベッドをとっておいてすごい喜びようだ。
「まあなんでもいいや。寝よう。」
対して寝床を取られた町田は悲しむより先に寝たがった。
そんな町田を咎めるようにベッドの上に寝転んだ華が言う。
「いやいや、夜はこれからだよ!」
「まだなんかやんのか...」
三人の夜は長い。




