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少女、五月を克服せよ!  作者: 白崎イチイ
少女、五月を克服せよ! 町田の家でお泊まりの巻

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二十七話 歯磨き

「まっはく、ひゃけにすなひょひゃとおもっひゃんひゃひょ。」


「なんて?」


 もごもごと口の中に歯ブラシを突っ込んだまま喋った華の言葉は解読不可能だった。

 聞き返された華は歯ブラシを動かす手を止めて誠心誠意を込めて言う。


「まっはく、ひゃけに、すなひょひゃと、おもっひゃんひゃひょ。」


 はっきりと伝わりやすいように言ってくれてることは伝わるが肝心の中身が分からない。

 まだ不思議そうな顔をしているゆーかに横から町田が現れた。

 

「全く、やけに素直だと思ったんだよ、でしょ?」


「ふん。」


 華の言葉を町田が翻訳して伝える。

 ふんという返事は偉そうにしているわけではなく鼻から出した精一杯の肯定の相槌である。


「あーなるほど。てかよくわかったね。」


 言葉の意味自体は置いておいて、まず聞き取れたことがすごい。


「華検定二級持ちだからね。」


「どこで取れんの。」


 褒められているのか分からないがとにかく町田は胸を張った。

 その横で喋れない華をおいて二人の会話は進んでいく。


「もう、ふひゃりひょもひゃんとひがきひゃよ!」


「...なんて?」


 もはや華に聞き返すこともしない。

 初めっから町田に翻訳を頼んだ方が確実である。


「もう、二人ともちゃんと磨きなよ。」


「あーはいはい。」


 といっても二人もきちんと歯磨き自体はやっている。

 単に歯を磨きながら喋る能力の差が出ているだけだ。


「てか華が歯磨き行こうよとか言うから来たのに一番話せてないけどね。」


「たしかに。」


 スプーンを下ろしにいかないことに気づいてまた五月蝿くじゃんけんやらあみだくじやらを提案してきたが、結局歯磨きをしに下に降りなければいけない。

 そのことに気がつくと三人で降りて三人で歯磨きをすれば平等だからと二人を部屋から半ば押し出すようにしてやってきたのだ。

 しかしその張本人は華と町田が話すのを聞くだけであった。


「かわいそうに。」


 ちっともそんなこと思っていなさそうな目で見られて睨み返す華。


「あでもいいこと思いついた。」


 完全にそのことはスルーしてぽんと手を叩く。

 行き場を失った華の睨みは今なお町田の後頭部に向けられているがもちろん本人は気づいていない。


「華が何を言ってるか当てるゲームしようよ。」


「...強くない?」


 面白そうではあるが如何せん先ほどから圧倒的な翻訳力を見せつけられている。

 どう考えても勝てる気がしないゲームだ。


「だから一旦ゆーかを挟むわけよ。」


「というと?」


 もちろん町田もそんなぬるいゲームがしたいわけではない。


「華のをゆーかが聞いて、それを真似してるのを聞いて当てるってわけ。」


「なるほどね。」

 

 伝言ゲームみたいなことか。

 華の言葉を聞いて、どうせ分からないので内容の理解よりもそのまま真似をすることに専念する。

 それを町田が聞いて当てられるかどうか。


「じゃあ協力ゲームってことね。」


「そうそう。」

 

 ゆーかと町田で競うというよりは、三人で協力して当てられるように頑張りましょうと言うタイプだ。


「ちなみに全然聞いてなかったけど華もいい?」


 黙って聞いていた華のことは無視して進んでいたが、華が乗ってこなければ町田と二人でやることになる。

 わざと言いにくくして解読するって結構ゲーム性が崩壊している。

 だったらまだジェスチャーゲームとかの方がマシである。


「ふん!はっひほい!」


 もがもが言う。


「町田、はっひほい!」


「ンフ。」


 華の真似をして舌っ足らずに言うゆーかの姿にツボる。

 真面目にやってるのはわかるのだが、真面目にやっているからこそ面白い。


「...これ町田だけ得してない?」


「気のせい気のせい。」


 参加したはいいもののまともに喋れない華とその真似をするゆーかを見て町田が笑うだけのゲームなのではないかと気づき始めた。

 

「ばっちこいね。じゃあやってこう。」


 ゆーかに逃げられる前にさっさと始めてしまおうと手を叩いて催促する。

 ジト目のゆーかには薄々勘づかれている気もするがゲームを続けてくれるなら問題ない。


「はいふおいひはっはへ。」


 華の言葉をゆーかがそのまま耳コピする。

 町田がそれを聞いていると意味がないのでその間一旦廊下に出ている。


「いいよ。」


「お、じゃあ聞かせてもらいましょうか。」


 しゃこしゃこと歯を磨いていたところを呼ばれて戻ってくる。


「はいふおいひはっはへ。...なんて言ってんのこれ。」


「えー!簡単なのに!」


 真似しておいて分かっていないゆーかに驚く町田。

 これは当分検定には合格できなさそうだ。


「アイス美味しかったねでしょ。」


「ほー。」


 一発で完全正解した町田に流石の華も関心の声をあげる。

 

「なんでわかんの。」


「いやなんとなくわかるでしょ。」


 華まで当ててくれた町田に味方してうんうんと頷いている。


「でもこれあれだな、華のいいそうなこと考えたら当てれる気がしてきた。」


「ほう。」


 ニューチャレンジャーというやつだ。


「アイス美味しかったねとかいかにもいいそうじゃん。」


「でももうそれ言っちゃったから絶対普段なら言わないこと言ってくるよ。」


「たしかに。」


 そう考えると余計なことを言ったのは失敗だった。

 今のとか考えたら当てれそうだったのに。


「じゃあ次一回ゆーかがやってみなよ。」


「やってみようか。」


 そう言って部屋を洗面所を出る。

 廊下は電球が一つ灯っているだけで、廊下の奥の扉が見えない程度には薄暗い。

 

「おどしたの。」


 がちゃりとドアが開いた音に驚いて肩が跳ねる。


「びっくりしたあ。先に言ってから出てきてよ。」


「ごめんごめん。」


 なんの物音も立てずに突然ドアが開いたもんだからすわお化けかと思ってしまった。

 抗議の視線を受け軽く笑いながら洗面所のスイッチの下をぱちりと押す。


「ここで明るくできるから。」


「...それこそ先に言ってくれる?」


 それ教えてくれてたら絶対点けていた。

 聞かなかったゆーかも悪いとはいえ、自分もさっき廊下で待ってたんだから点けてれば良かったものを。


「じゃいきまーす。あひたのへんひははれへす。」


「明日の天気は晴れです。」


「おー正解。」


 正直問題がかなり簡単だったこともあるが、聞いているうちに慣れてきた。

 

「もうこれこのゲーム終わったじゃん。両方わかるようになったら崩壊するよ。」


 なんと消費期限の短いゲームだったことか。

 もう二人で華の言葉を聞いてどちらが先に当てるかしかやりようがない。

 

「えー。良さげなゲームだと思ったのに。」


「てかさっさと濯がないと華の口の中が終わっちゃうよ。」


 さっきから口の中に泡を溜め込んだままの華の口が死んでしまう。


「待って待って待って分かったじゃあ最後に一回だけやろ。」


「おひ。」


 コップに水を溜めていたというのに蛇口をぺしっと閉じられる。

 ついでにコップも取り上げられると泣きの一回の申し込みが入る。

 

「今度は二人が同時に言ってよ。でそれを聞き取るから。」


「...じゃあおんなじこと言ってもいい?」


「まあいいでしょう!」


 尊大に許可を出すとゆーかはひそひそと華の耳元で何かを囁いた。

 そしてぷふっと口の中から息を漏らした華が頷くと二人で町田に向き合う。


「はひだのはーか!」


「まひだのばーか!」


「うんそれもうほぼ言ってるよね?」





 

 

 


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