二十六話 裏の裏
「あけてー。」
「あ来た。」
ついに待望のアイス、じゃない町田の帰還である。
「もってきたよーん。」
「おーありがとー!」
両手に持った三つのアイスがそれぞれ華のバニラとゆーかのバナナ、それともう一つが町田の選んだ味なのだろう。
「どれどれどんなアイスよ。」
机に並べたアイスをうきうきで眺める。町田の仕掛けも気にはなるが、それ以上にどんなアイスを持って来たのかの方が大事だ。
「えっと...これがバニラか。」
蓋に書かれた文字を読んで判別する。どれも同じ姿形で、カラーこそついているもののどれがどれかは分からなかい。
「はいこれ。」
「ありがと。」
華の後ろで順番を待つように立っていたゆーかの分も取ってあげ、余った一つを町田が取った。
「...なに?」
じーっと見つめる視線に気づいた町田が怪訝そうに言う。
「な、なんでもないよ?」
慌てて目を逸らして手元のアイスを見ているふりをする。ふんふん、植物油脂ってやつが入ってるんだねえ。勉強になるなあ。
「...まあいいけど。」
ぱかりと蓋を開け、持って来ていたスプーンで表面から一掬い。
「んーおいし。」
そのままぱくりと口の中に運ぶと、舌の上で溶けるひんやりとした感覚と甘い味わいがお風呂上がりの身に嬉しい。
「うん、普通においしいね。」
「ね。」
その横で既に食べ始めていたゆーかもバナナアイスの味にご満悦である。ぱくぱくと食べ進める姿に華も急いで後を追う。
「いただきまーす。」
スプーンもきちんと三人分持って来てくれている。大きすぎず小さすぎず、アイスクリームを食べるのにちょうどいいサイズだ。すっとスプーンを入れ、目の前で観察するように眺めるが至って普通のバニラアイスでしかない。
「おいしい。」
ちゃんとバニラの味がして、何事もなくおいしい。
「よかったね。」
「うん。」
ぱちくりと合図を出しながらそう言うゆーかだが、今のところ特におかしな点は見当たらない。普通のアイスを普通に食べている。
「...だからなにさ。」
スプーンを運ぶ手を止めて町田が尋ねる。
「いや...」
「いや、なに?」
煮え切らない態度の華にむしろ距離を詰めてくる。その様子はまるでなんの負い目も感じていないかのようで、まさか何もないというのか。
「なんか...普通だなって...」
「えアイスが?とんでもないこと言ってるけど大丈夫?」
もごもごと口を動かし言うと全然意図してない返事が帰って来た。
「違う違う違う!アイスはめっちゃ美味しいから!」
大急ぎで訂正するが笑っているあたり絶対確信犯である。ちょっと隙を見せたらすぐにあげあしを取られるおっかない空間である。
「そうじゃなくてなんかこう、町田がしてくるかなって。」
「ええ?心外だなあ。」
およよと心を痛めるふりをしているがそれには乗っからずに続ける。
「じゃあ何もないの?」
「ないよ?」
平然とそう言ってくれるが全然信用ならない。なにせもう目がありますと訴えるかのように笑っている。
「そもそもアイスでどう何かするのって話じゃん。」
「まあ...」
バニラじゃない味を持ってくるとか、一人だけ全然違うアイスを食べるとか、色々手段は思いついたがそのどれでもなかった。こうなるとなんかそれを思いついたこちら側が悪いやつみたいな感じになるのでやめてほしい。
「じゃあ食べる?これ。食べたら普通ってわかるでしょ。」
カップを傾けて見せた中身は派手な紫色。
「えこれ何味?あ、紫芋か!」
「そうそうせっかくだから食べてみるかって。」
一瞬食欲減退色にしか見えなかったが、紫芋としてみると...いや紫芋として見ても食べるの躊躇する色だなあ。
「紫のアイスってなんか毒持ってそうで怖いね。」
「怖いこと言わないでよ食べてんだから。」
そうだった。しかし町田が食べて平気なのだから多分毒はないはずだ。
「華が食べないなら先食べようかな。」
横からスプーンを出したゆーかが言うと、掬いやすいようにカップをそちらに向けて持つ。
「あむ。」
スプーンの上には見慣れない紫色が乗っているが、気にせず口の中へぱくり。
「ん、あー、さつまいもだね。まあ美味しいは美味しい。」
「なんともいえない味じゃん。」
少しの間味を確かめていたゆーかから出た感想はかなり濁している感じはあるが、まあ美味しくないと言わないあたり合格点は貰えているはずだ。
「じゃあ食べてみる!」
「いいよ。」
スプーンの上のアイスをまずは鼻まで持ってきて匂いを嗅ぐ。
「慎重すぎる。私が食べてんのに。」
「いやいやこれは味わってるだけだから!」
失礼な。これは毒の判別じゃなくて普通に臭いが気になっただけだ。
「匂いはスイートポテトみたいな甘い感じだけど...香料感強めかも?」
ほくほく感がなくむしろ冷たさが際立っているので不思議な感覚になる。しかし問題は味だ。味が美味しければ全てが許される。
「んー...ん!おいしいじゃん!」
さつまいもの甘さが冷たく閉じ込められていて、溶けた時にぱっと広がり無駄なく消えていく。
「え美味しいよ普通に。」
「でしょ?」
こればっかりは選んだ町田のファインプレーだ。あんまり食べたことがなかったがこれからは食べてもいいかもしれない。
「でも焼き芋でよくない?」
「いやそれは...それはでも方向性が違うじゃん。」
そんなこと言ったらバニラアイスじゃなくてソフトクリームでいいじゃんってなる。なぜならソフトクリームの方が甘くて濃厚でおいしいから。
「二人のも食べさせてよ。」
町田がスプーンを手に持ちながらそうお願いする。お願いするというか既に華のアイスを掬っているが。まあ一口もらって断るつもりも元からないけど。
「うん、普通だね。」
バニラアイスの感想なんてそうとう美味しくない限りこんなもんである。久しぶりにアイスを食べるとかならともかく今アイスを食べている最中なので。
「バナナは...バナナだ。」
「どういう感想?」
ゆーかのところからも一口食べた感想にすかさずゆーかが詰めよる。
「いやなんか...バナナだなあって。」
「感想になってないじゃん。一口もらっていい?」
「いいよ。」
この食レポへたっぴ大魔神の代わりにお手本をみせてやろう。
「えー、このバナナの甘味がアイスの甘さになってより濃縮かつ増幅されていてまるでバナナスムージーのような味です。」
「スムージーじゃん。」
「うるさいな。」
バナナのことバナナで例えた人には言われたくない。
「華のも一口もらっていい?」
「もちろん!」
まさか断るわけもない。
「もらっていい?」
「さっき食べたでしょ。」
呆れながら渋々向ける。
「一口ね。」
「流石、優しい。でも一口ってどのくらいのサイズか」
「私の一口。」
いちいちちょっかいを出さないと気が済まない性格である。
「普通に美味しいね。やっぱ結局バニラに戻ってくるみたいなとこある。」
「分かる。」
一口ずつ食べた二人が頷き合っている。そんなこと言ったら可哀想でしょバナナと紫芋が。
「でももう食べ終わっちゃうね。」
「まあそんな大きいアイスでもないし。」
華が片手で普通に持てるぐらいだ。市販のアイスと比べればそこまで大きいものでもない。
「んでも美味しかったね。」
「ね。また今度美味しいやつ食べたいね。」
なんだかんだと楽しく食べられた。味もまあ、紫芋も普通に美味しかったので黒糖も美味しい可能性はある。他にも食べたことのない味は世の中にたくさんあるはずだ。
「いつかいっぱい味買ってロシアンルーレットしたい。」
「おーいいじゃん。」
とんでもない味を引くのだけ怖いがそれもまた醍醐味である。
「持って来てくれてありがとね。」
三人分のアイスを持って来てくれた町田に礼を言う。
「うん。じゃ、食べた人がスプーン持っていってね。」




