第二十五話 裏をかくアイス
「あズルズルズル!」
去っていく町田の背中に言葉を投げつけてもドアをぱたりと閉じてシャットアウトされる。
「えずっる。」
「これは普通にズル。」
あのゆーかにズル判定喰らっているんだから恥じて欲しい。しかも自分も味を選びたければ降りる必要がある。
「絶対このために自分で取りに行ってるじゃん...」
せっかく町田が取りに行ったというのに階段を降りなければならないのか。しかもそれを自らの意思で選択させてくる。
「...うーん。」
ベッドの上で胡座をかき腕を組んだままに唸る。いやしかし、冷静に考えたら既に五種類も味が出ているのに他にも味はあるのか?
「どう思う?」
「いやどう思うってなにが?」
暇すぎて町田の押し入れをずずずと勝手に開け始めたゆーかに聞く。
「他にも味あるのかなあって。」
「あー。」
ずずずと閉める。
「でも逆に五種類あるんだから他にもあるって考え方はできるよね。」
「確かに。」
普通はそんなに種類が、それも紫芋や黒糖なんて珍しい味のアイスが一堂に会することはない。つまり、全部がまとまったパッケージなのではないか。
「だったら他にもあるかも!」
不思議な味二つはいいとしても、ベーシックなものがバニラとバナナといちごだけて。選ぶの下手か。
「チョコとかはあってもおかしくないもんね。」
バニラと並ぶ二大巨頭のチョコなら入っていてもおかしくない。というかない方がおかしい。
「これは町田チョコ選ぼうとしてるな!」
「まあないかもしれないけどね?」
慌てて止めに行こうとする華の肩を掴んでゆーかが止める。
「どういうこと?」
大人しくベッドの上にぼふんと座る。ゆーかも町田の椅子をひっぱってきて向き合って座る。
「いや町田の家族が...あ町田もか、もう食べててないのかもしれないじゃん。」
「おー...」
いつ買ったのかわからない以上、これが余っているものってだけな可能性はある。そうなると他の味があったとしてももう食べられてるかもしれない。
「町田の記憶がなかったのとも辻褄合うか。」
町田が言い淀んでいたのも、なにが今あるものでもう食べてしまったものなのかを忘れたからというのはありそうな話だ。
「町田の家族が食べてたらなにが無いかは特に覚えてなさそうだし。」
自分が食べたものならいざ知らず家族が食べた分まではいちいち覚えてないだろう。何がなくなっているかは記憶がなくてもおかしくない。
「えー、じゃあ結局あの五種類だけってこと?」
残念そうに言う華だが、ゆーかは背もたれにぎいともたれ掛かると先ほどまでとは反対のことを言い始める。
「でもこれはパッケージの話でしょ?普通に他のアイスがある可能性はあるよね。」
「あ普通の棒アイスは確かに。」
例えば既に棒アイスを買っていたところに珍しいアイスのパッケージが届いたら、華なら先にそっちから食べるだろう。いつでも食べれる棒アイスよりもそっちの方が大事だ。
「でもそうなると何味があるのかは全然想像つかないよね。」
「いやでもヒントはあるよ。」
なんだこの頼りになる助手は。
「町田はバニラを選んだわけでしょ?...まあただじゃんけんしたかっただけって可能性はあるけど。てことはバニラを食べてもいいと思った、普通のアイスはバニラじゃないんじゃない?」
「天才ですか?」
確かに町田の性格なら紫芋や黒糖とかいうちょっと選ぶのに勇気がいる味も躊躇せずに選びそうだ。にもかかわらずバニラを選んだのは普通のアイスもバニラじゃなくて、あのなんともいえない優しい味が恋しくなった可能性はある。...まあただじゃんけんしたかっただけかもしれないけど。
「けど結構こじつけにも近いから...実際見にいく方が早いけど。」
「いやそれしたらもう意味ないじゃん。」
そんなことは華もわかっているのだ。わかった上で、行きたくない。せっかく町田に押し付けたのにここで華も降りて行ったらなんのための時間だったというのか。
「なんとかしてこの部屋から町田の陰謀を止めないと。」
「自分で動きたがらない勇者嫌だなあ。」
助手のくせに生意気である。
「わかんないよもしかしたらプリンとか持ってくるかも。」
これはかなり最悪だ。レギュレーション違反も甚だしい。アイス食べようって言ってるのにそんな、そんなことがあっていいのか。しかし相手はあの町田だ。的確に華の思い付かない方法で華をおちょくってくるだろう。
「シュークリームとかも...まあありえない話ではないね。」
「でしょ?」
しかしそうなるともはやアイスがどうこうという問題ではなくなってしまう。
「もしこれで牛乳も持ってきたらどうするよ。もう普通にアイス食べるよりそっちのほうがいいじゃん!」
「いいか?」
首を傾げるゆーかだが絶対そっちの方がいいに決まっている。
「アイス単品より飲み物とスイーツの方がいいでしょ!」
「基準が量なの食べ盛りすぎるかも。」
一歩引いて言うゆーか。華のこの熱量が伝わらないとは残念だ。
「絶対そっちの方がいいけどなあ...」
「そんなことより全てをぶち壊す重大なことに気づいちゃったかも。」
今もう二人はいかに町田が裏をかいてくるかということを想像している。全ての物事を前提から疑ってかからねばならない。
「これさアイスって五種類あったけど全部同じものなの?」
「....?味が違うんだから同じものじゃないでしょ。」
「いや違うそういう意味じゃない。」
感の鈍い華にもわかるように説明してほしい。そんな呆れた顔をされても説明が足りない方が悪いのだ。
「ならんで紹介されたからつい同じアイスの味が違うだけって思ってたけど、たとえばバニラだけ普通の棒アイスでそれ以外はカップのアイスとか。」
「あ、あー...あー!!」
「遅いなあ。」
ちゃんと言っていることを咀嚼して飲み込んでからようやくぴんと来た。確かに、町田が並べて紹介していたが同じアイスであるとは限らない。
「実はバニラだけめっちゃちっちゃいとか。」
「全然泣くよ?」
もし持って帰って来たアイスで華だけひとくちでぱくりといくタイプのやつだったら喚き散らす自信がある。か二人のアイスを横からかっさらうかの二択だ。
「まあそういう意味ではこれまでののハイブリットで、町田だけ違う味の大きいアイスを持ってくる可能性はあるよね。」
「最悪だ。」
知る由もないアイスを持って来て見せびらかすように食べられるとかもうどうしようもない。
「ここは町田の良心に祈るしかないよ。せめて同じサイズだけど違う味のアイスぐらいにしといてくれって。」
「なにその変な祈り方。」
さしもの町田とはいえ大ブーイングが巻き起こるようなことはしない。この程度であれば許容範囲だ。
「それにもし違う味持って来てくれたらそれはそれで味見できるしね!」
「それは確かに。」
仮に持って来たのが紫芋でもそれ以外の知らない味でも、バニラとバナナ以外であれば三人で味比べができるのでそれはそれで楽しそうだ。
「でもそれなら結局町田が違うアイス持って来ても同じじゃない?」
「いやそれはなんか町田に負けた感があってやだ。」
出し抜いてやったぜみたいな顔をされると猛烈に仕返しをしたくなる。まあなんだかんだいつの間にか飼い慣らされた犬になっているのだが。
「てかそもそも別の味があったとして華はそれ食べたいの?」
あの中からはバニラを選んでいたが、もし他に食べたい味があるなら少々面倒だが冷凍庫を見て来た町田に聞いて交換しにいくという手もある。
「いや別にバニラでいいけど。」
「じゃあこれなんの時間?」




