第二十四話 お風呂上がりのアイス
とぼとぼと町田の部屋に戻ると、お腹を出してベッドに寝っ転がる町田がいた。
「風邪ひくよ。」
「大丈夫だよこんぐらい。」
ぽんとお腹を叩いて言う。全然大丈夫じゃないと思う。
「雨に濡れてるんだからもうすでにワンアウトなのに。」
「スリーアウトまではいけるじゃん。」
「その自信はどこからくるの?」
呆れる二人の視線をものともせず、うんしょと起き上がってベッドに腰掛ける。
「それよりさ、アイス食べるでしょ?」
「食べる!」
悪戯っ子のような笑みで、そんな背徳感しかない提案をしてくる。にししと笑う顔が悪どいことを考えているように見えるのは気のせいだと信じて乗っかる。お風呂上がりといえばアイスクリームに限るのだ。それはゆーかも変わらないようで、消極的にだが賛同する。
「じゃ、とってきて。」
さも当然と言わんばかりに言い放った言葉は今の華にはクリティカルヒットである。
「...」
なぜ今言う。先に言ってくれればいくらでも持ってきたのに。冷蔵庫ごと根こそぎ持ってきてあげたのに。
「ゆーか。」
「やだよ。」
「まだ何もいってないじゃんか。」
名前を呼んだだけで食い気味に断られた。
「じゃあアイス取ってきてってことじゃないのね?」
「まあそれは分かんないけどね?」
頭に巻いたバスタオルをずりっと引っ張られ目の前が真っ暗になる。これは今の華の心境を表しているのかもしれない。そんなわけはない。もう髪は乾いているのでバスタオルは取っ払う。
「まあまあじゃあ誰も取りに行きたくないね?」
そう町田が言って立ち上がる。
「言い出しっぺが取りに行ってくれる感じ?」
「おお!さすが町田!」
すかさず牽制したゆーかに乗って両手を挙げていけいけゴーゴーと応援団のふりをする。いや、アイスを取ってきてくれるのなら本当に応援したっていい。
「なわけないじゃん。」
「なわけないんだ...」
冷静に否定する町田に勝手に株が落ちる。応援して損した。
「こういう時はあれで決めるでしょ。」
「あれってな...ああ、はいはい。」
うきうきで言う姿に疑問を抱くが、握り拳のまま差し出した右手を見てすぐに察する。
「絶対負けない。」
同じように右手を突き出して、給食の時の小学生ばりに気合の入った姿勢をとる。流石のちびっ子達といえどクリスマスのケーキじゃないとここまで真剣にはなれないね。
「普通に負けたことないけどね。」
「いや嘘つけい!」
突然ゆーかが真顔でボケるのでつい反射で言葉が口から出てしまった。
「あ、心理戦か。ぐぬぬ。やるねゆーか。」
この華様に心理戦を仕掛けようとは。しかしそんな小手先の技にやられる玉じゃない。これまで何度そんな小細工を仕掛けてきたことか。もはや小技の王と呼んでもらっても差し支えない。
「じゃいくよ。」
町田の言葉に顔をぶるぶる振って気を取り直す。
「はい最初はグー、」
はいまず、統計的に一番チョキが出やすいという話を聞いたことがある。今ここには華をのぞいて二人いる。ということは、チョキが選ばれる可能性はかなり高い。となるとここはグーを選択するのが安牌。
と、凡人なら思うかもしれないがこのじゃんけんの王たる華様にはそれを読んだパーを二人が選ぶとこまで見えている。ということでチョキ。
を読んだグーを二人は出すのでパー...いやもうなんでもいいやこれ。
「じゃんけんぽん!」
「チョキ!!!!!」
「グー」「パー」
チョキを出した華に対して、二人は見事にそれ以外を出してあいこ。
「おー。」
おー、ではない。なぜかあいこになった後が一番負ける気がする。いやでも、一人負けさえしなければいいのだ。一人負けさえしなければ、階段昇降四回目とかいうプチトレーニングをせずに済む。
「はいあいこで」
もしゆーかが負けたら、同じく四回目。外に出て、お風呂に入るために着替えとって、ドライヤーを返しにきて、でアイスを取りに行くと。
町田は...え三回目?あそうだ町田だけずっと部屋にいたんだ。
「ちょっっっと待ったあ!」
ばばんと手をパーにして突き出す。
「うるっさ。」
「夜なんだけど?まあ近所に人いないからいいけど。」
大不評だが、せっかく華が気づいたこの真実は伝えなければならない。
「えー、町田さん?」
「なにさ。」
右手を額に当てながら語り出す。
「えーあなたあ、じゃんけんで誰が下に降りるか決めようと言ったそうですねえ。」
「んふ、何その喋り方。」
ツボって吹き出し始めるが、そんな小細工で華の推理は止まらない。
「おかしいですねー!」
「んふふふふ笑い死ぬって。」
ついにゆーかまで笑い始めた。
「あなただけ、下に降りた回数が一回少ないのではありませんか?」
「え?...おー、ほんとだ。」
被告人は惚けて逃れようとしているが、そんなことは許されない。というか普段から上り下りしてるんだから一番慣れてるでしょ。行ってよ。
「もしあなたがじゃんけんで勝ってしまえばその人とは二回も差ができてしまう。」
「あなたはじゃんけんを通じてそのトラップを仕掛けようとした。」
追い詰めていく迷探偵だが、聴衆の反応は非常に悪かった。
「いやしてないし。あとちっちゃいな気にするところが。」
「別にそれぐらいじゃんけんでいいけどね。」
「ええっ!?」
町田はともかくゆーかまで全く興味ないそぶりである。
「まあ別にいいよじゃあ取ってくるから。」
「...ありがとう?」
結局恩着せがましく言う町田に感謝を伝えることになる。
「なにがいい?」
「なにがあるの?」
この際アイスだったらなんでもいいのだが、どうせなら一番美味しいやつをたべたい。
「えー、何があったっけな...見にくる?」
「行かない。」
ちぇっと悔しそうな素振りを見せる町田。絶対じゃあ行ってきてよって言うつもりだ。どんだけ行きたくないんだよ。
「まあ多分色々あったよ。バニラとかバナナとか紫芋とか。」
「本当に色々あるじゃん。」
紫芋ってなんだ。アイスにしていい食べ物なのか。
「じゃあ私バナナで。」
「えちょっとちょっとはや。」
まだ三種類しか言われてないのにもう決めたゆーかがメロンを取っていく。
「他何があるのか聞かなくていいの?」
「今バナナの気分だったからいいや。」
ず、ずるい。
「他は?」
「えーっと...黒糖とかいちごとかはあったはず。けどあんま覚えてないな。」
こめかみに手を当てて思い出そうとしているが全然出てきていない。それでも五種類はあるのでもうかなり色々あるんだけども。
「じゃあバニラで。」
いちごはこの前食べたし、紫芋とか黒糖とかちょっと変わり種っぽいので普通でいい。普通が一番だ。
「え、華もバニラ?」
「も?」
「うん。じゃあじゃんけんだね。」
ぐぬぬぬぬこいつ。やりおった。絶対被せてきてる。
「...いいでしょう!絶対負けませんから!」
「お、やる気じゃん。」
こんなやつに負けるわけには行かない。突き出したグーを見せつける。これはそのままグーを出すブラフだ。絶対効いてないけど。
「最初はグー、」
町田はさっきグーを出していた。町田のことだからチョキが一番出されやすい手であると読んで出した可能性が高い。そして今、華はグーを出すブラフを行っている。
「じゃんけんぽい!グー!」
「あえてのグー!!!」
お互いに何もない拳を見せつけ合う。すごく意味のないターンだった。ゆーかだけさっさと終わってくれという顔でこちらを見ているがこれは神聖な戦いなのだ。
「あいこでチョキ!」
「グー!!!!!勝った!!!!!正義は勝つ!」
天に突き上げた拳は勝者の証だ。やはり正義は勝つようにできている。
「しょうがないなあ。じゃあバニラとバナナね。」
やけに素直に受け入れるなあと思ったら最後に言い残していく。
「他の味あったらそれにしよっと。」




