十六話 次は何する。
「いやー、よかったよかった。」
呑気にそう言う華はなんの憂もない表情で開放感に浸っている。
開け放たれた窓から風が吹き込みいくらか涼しい教室の中。机を向かい合わせた三人はお弁当を食べていた。
「ほんとにね。よく終わらせたよ。」
「やっぱ天才だからなー。」
唐揚げを箸で摘み上げ美味しそうに食べる。
課題を終わらせた今の華に怖いものなどない。
「じゃあ次からは溜めずにやりなよ。」
「それは約束できません。」
溜めずにやる意思はあるが、実現するかは別である。
「大体、課題にしたって別に毎日あるものだし。」
「ゴールデンウィークで提出期限が先だから溜まってたってだけでね。」
普段の課題を思えば、そもそも溜めないしやらないという可能性の方が優に高い。
「開き直ることじゃないと思うけど。」
視線の先では華が全く反省する気のない元気さで爪楊枝に刺さったきゅうりのちくわ巻きを食べている。
「あー、ほんと学校にいる間ずっとお弁当だけ食べてたいな。」
「無理でしょ。」
まるで食いしん坊の発言だが、実際には華のお弁当箱はゆーかのと比べても少し小さいほどにあまり食べられる方ではない。しかし食い気だけなら誰にも負けない自信がある。
「絶対途中でお腹いっぱいになるよ。」
「いやなるかな?ケーキとかもあったらいけるくない?」
「それはもう弁当じゃないじゃん。」
ビュッフェのようにしてご飯を食べながら授業を受けれるなら何があっても絶対に授業を受けると思う。華の頭の中にはお腹いっぱいになって眠る姿は想像されていなかった。
「そもそもどこにはいるのどこに。」
そう言って華のお腹を見る。小さなお腹はビュッフェどころかこの小さなお弁当ですらどこに入っているのか疑問になる。
「どこってお腹。」
ぽんぽんとお腹を叩く。華の中では胃が無限に拡張されるらしい。
「入るわけないでしょうが。」
「普通に一時間でお腹いっぱいになって終わりそう。」
そんな空想をする華に現実を見させる二人。その現実は想像ではなくこれまでの経験から導き出されていた。
「大体、バイキングとかいつもめっちゃとって後から食べすぎたって言ってるじゃん。」
「それはそれこれはこれだよ!」
毎度のごとく好きなものを全部載せたプレートをはち切れそうになりながら食べている。
二人は華のプレートにないものから食べることで余りが被らないようにしているにもかかわらず、当の本人は全く学習せず毎度腹痛に泣いている。
「それに!ケーキならいくらでも食べれるからね!」
ケーキは溶けるのでお腹にたまらない。そう、この唐揚げとは違うのだと最後の一口を食べる。
「嘘すぎるでしょ。飽きるよ絶対。」
「ケーキに飽きるとかないから!」
そんなことを言っていると甘いものが食べたくなってくる。
デザートの箱を開けると中にはリンゴが入っていた。
「んーおいひい。」
しゃくっとりんごを食べる華を横目に弁当箱を片付ける。
「なんかりんごってぬるくなるの早くない?気のせい?」
いちごとかに比べてぬるいことが多い気がするとなんとなくゆーかが口に出す。
「あー、まあ確かに?分からなくもない。」
「さあ?」
最後の一口を丁寧に味わう華も片付け終えて机に伸びる町田も気の抜けた返事しか返さない。
食後の一眠りと行きそうなところだが、どうせなら授業中に寝たいので起きるために何かしようと考えて思いつく。
「さあ、食べ終わったら続きしようよ。」
「続きって?」
そう言うと町田は机の上をこんこんと叩く。
片付けられて何も置かれていない机の上を何かを広げるようにさっと手を動かす。
「パズルだよパズル。」
当然でしょと平然と言い放つ姿に驚くのは華である。
「いやいやいやいや持ってきてないよ!?」
「冗談だよ。」
慌てる華を面白がっていることに気づいて恨めしい目で町田を見ている。
「パズルなんて昼休みで終わるわけないんだからやるわけないじゃん。」
「じゃあなんで言うのさ...」
あのパズルはもうしばらくやりたくない。あれだけやって完成させてもパズルが無地なのが悲しすぎた。
「気分?そういえばあの後パズルどうしたの?」
「あれ大変だったんだからね!」
始めるきっかけとなった町田には言いたいことがたくさんある。
なんだって他にも色々ある中からわざわざ引っ張ってきてしまうのか。
「あの後ご飯食べるまでちょっとやって、ご飯食べてからもやって...」
「時間かかりすぎでしょ。」
そう言われても困る。悪いのはパズルと町田だ。
「でしかも完成したはいいけど置く場所ないしさ...」
完成した無地のパズルなんて一つでも十分すぎるぐらいなのに、華の部屋には三つも置く場所はない。
「だからもう全部戻したよ。」
何時間も何をしてたんだと虚無感がすごかったが残す場所もないので仕方ない。
二度と町田に見つからないように奥に置いたが、そのせいで多分誰も見つけられないと思う。
「えーもったいな。」
大した時間もかからなかったがバラしたと言われるとそれはちょっともったいない気がする。
華はいらないが、町田がいると言うならあげてもいいと言うかあげたい。
「じゃあ持って帰ればよかったのに。」
「いやそこまでじゃない。」
「なんなんだこの人...」
華の部屋で思い出した時にやるぐらいの距離感がちょうどいいのだ。隠されたので二度と思い出すことはないが。
「今度何やるか決めないと。」
パズルも面白かったが、やはりどんなゲームも一番最初が一番面白い。
次にやるゲームを探しておかないといけない。
「もうないよ。この世に新しいゲームはない。」
「いやあるって。」
大抵遊び終わったゲームは華の部屋に置かれることになるので、自分が買ったわけでもないゲームが溜まりに溜まっている。
別に家族と遊べるのでいいっちゃいいのだがそれにしたってそんなにいっぱいあっても遊べる体は一つしかない。
「もういいよどっか行こうよどうせなら。」
それなら外に行って遊びたい。それに課題をやりすぎて家の中にいるのは飽きた。
しかしそれに異議を唱えるのは意外にもゆーかだった。
「えほんとに言ってる?」
「なにがさ。」
驚いたように言ってくるので聞き返す。
ゆーかがあっちと指差した窓は、涼しいとはいえぬくい風が流れてくる上かんかん照りの日差しがカーテンを透過して眩しい。
「外めっちゃ暑いよ?」
「たしかに...」
今日も登校するのに暑すぎて溶けながら来たのだから、これから夏にかけてもっと暑くなるのが信じられない。
この調子だと絶対蒸発する。
「朝とか夕方ぐらいになると多少はマシなんだけどね。」
「それでも暑いは暑いけどねー。」
やはり人間は夜型が最高なんだと来世は吸血鬼になる決心をする。
もし吸太陽光鬼とかいたら今頃とんでもない目に遭っていることだろう。
「でも夜はなー、ちょっとむずいよなー。」
「まあ誰かの家に泊まるぐらい?」
流石に夜に出歩いたり、保護者のいないところにいるのは問題が起きそうなので避けたい。
となるとお泊まり会ぐらいしかできないだろう。
「それならうちくる?」
「町田の家?行きたい!」
言い出した町田はなにかを思い出したかのように期待に満ち溢れた表情でいる。
「来月あれが見えるらしいよ?」




