十五話 テーブルの上に手
「いやなんでまだこんだけしか終わってないの?」
すかすかな華のパズルを見て呆れたように町田が言う。
「そんなのこっちが聞きたいよ。」
とはいえそんなこと華に聞かれてもわかるわけがない。
むしろなぜそんなに早く終わったのか知りたいぐらいである。
「とりあえずこの、ここがどれも当てはまんないから一緒に探してよ。」
もう二周も探したピースはどれも絶妙にはまりきらない。
ちょっとだけ大きかったり、ほんの少しでかかったり。
「絶対あるから。」
「そう思うじゃん?」
ピースを手に取ってははめてみる町田の姿を後ろから淡い期待を込めて見守る。
でもほんの少しだけ、全然見つからないこの苦労を味わってほしい思いもある。
「ふーん確かに、全然ないね。」
「でしょ?」
ぱっぱと次から次に試しているが、それでもなかなか見つからない。
「華食べた?」
「そんなわけないでしょ!」
あまりにもなさすぎてそんなことまで言い出す始末である。
そして二人が遊んでいる間にもゆーかは着実と進んでいる。
「ふう。...町田どんだけ早く終わってるん?」
ふっと前のめりになった体を立て直して力を抜くと、ちょっと体が凝っている。
「やっぱ天才だからね。」
「運だけはいいから。」
同時に答えた二人が顔を見合わせる。
「運だけじゃこんなに早く終われませんけど?」
「パズルに頭の良さは関係ないよ?」
睨み合ったままに煽り合う。
「ふーん?」
しかし立場は圧倒的に華が不利である。
「運だけの人に頼ってるってこと?」
今現在華のパズルは延々と見つからないことに飽きた華の代わりに町田がやっている。
腕を組む町田の顔は圧倒的優位を噛み締めている。
「終わった人にも"協力"してもらってるだけですう〜。」
協力というにはいささか態度が非協力的な気がする。
「...ベッドに寝転がっといて協力?」
「これは休憩。」
手を伸ばしておかしのかごを漁るが、手はかごの中で空気でじゃれるだけだ。
「ん?」
不思議に思ってぐっと起き上がり、かごの中を覗く。
「え無くなってるし!?」
かごの中身はこれまでの時間で三人で散々食べつくしたので空っぽで底が見えている。
久しぶりににかごの底を見て、こんなに広かったんだと引越しの荷造りをし終えた人のような感想を抱いていた。
「まああれじゃない?消費期限切れのお菓子とかどけたし?」
たくさん食べた自覚のある町田は華と目が合う前に顔を逸らした。
「そんなことより華、もう休憩はいいでしょ。」
「いやちょっとちょっと急になにさ。」
これ以上お菓子のことをつっつかれてもいいことはないのでゆさゆさ揺さぶってふて寝する華を起こす。
ベッドの上に登ってぐいぐいと押せば、体格差で華はなすすべなく転がっていく。
「あっぶないってわかった降りるから!」
目前に迫るベッドの際にひいと悲鳴を上げて降りる。
「全くもう。」
ぷりぷりと町田に完全にパズルを任せていたことは忘れてとりかかる。
「ゆーかは?」
ベッドの上から体を伸ばし、テーブルにばんと手をつきながらゆーかの手元を見る。
「おーもう終わるじゃん。」
残り十個もないピースがパズルの横に整頓されて並んでいる。
ちらっと華のパズルを見れば、その綺麗さは比べるまでもない。
「...いまなんでこっち見たの?」
「華のはまだ終わらないなーって。」
危ない危ないと体を戻そうとして気づく。
「あこれ終わった。」
「何が?」
ベッドの上に膝立ちになり、離れたローテーブルに両手をついている状態で止まっている。
「戻れないやこれ。」
なまじ身長が高いだけに戻るのに必要な力も余計にいる。
両手を交互に近づけてぎりぎり戻せそうにない体勢になっていた。
「くふ、何してんのさ。」
気まずい表情の町田の横でこちらを向いて満面の笑みの華がいる。
「笑ってないで助けて。」
「えーどうしよっかなー。」
町田の体勢を横から見ると余計に、陸に上がれなくなったシロクマみたいで面白いのだ。
「ゆーか助けて。あとこの薄情者をどうにかして。」
「もうあとちょっとで終わるから待ってて。」
頼みの綱のゆーかも一時間弱の集大成だけあって集中したいのかこちらをちらりと見ただけで助けてくれそうにない。
町田に残された選択肢はこの薄情者を説得するか、この薄情者を説得するかである。
おかしい。この場には友達が二人もいたはずなのに。
「華でもいいから助けても。」
「でも?」
ここぞとばかりに優位に立とうとしている。
小癪だがここはしかたない。
「華が助けてよ。」
にまっと笑っているが助けられた後にもその笑顔が残っているのか見ものだ。
「んもーしょうがないなあ町田は。」
上機嫌に助けようとして、固まる。
「えこれどう助ければいいの?」
そもそも町田に押されただけで簡単に動くほどの体格差がある。
その町田を上からクレーンのように引っ張ることもできず、当然後ろから引っ張っても町田ごと前に倒れて床に激突する自信しかない。
「...机ベッドに近づけてよ。」
ベッドとテーブル、膝と手の距離さえ近づけば自分で戻れるだろう。
「あーなるほど。よし、ちょっとどいてゆーか。」
テーブルの反対側に回ってベッドの方へ押そうとし、ゆーかに声をかける。
「いやあとちょっとだから、ほんとちょっと。」
「えーどれくらい?」
頑として動こうとしないゆーかはむしろテーブルの足を自分の足で抑える始末である。
「あと3枚。」
「おー。だって町田。」
華が町田の方を向くと悲しそうな表情で取り残された迷子がいた。
思わず吹き出しそうになって下を向く。
「ま、町田、あとちょっとだから。」
「じゃあ先に助けてくれないかな?」
ずっと体重が乗っかっていて疲れたのか片手ずつ持ち上げては休憩させている。
「よし!完成!」
ばんとゆーかが両手をテーブルについて顔をあげる。
その勢いのままに腰を右に左に凝りを解消しようと回っている。
「よしよしよしじゃあ押すよー!」
「ばっちこーい。」
うりうりとテーブルを押すのと手を引くリズムを合わせ、半分ほど行ったところで町田が言う。
「お、いけそう。」
「ほんと?」
ここにきてベッドから落ちないように下半身に重心を移しつつゆっくりと起き上がる。
「ふーーー疲れた。」
ごろんとベッドに寝っ転がる。
「もう無理だからゆーかがやって。」
「私も終わったばっかだからやだよ。」
ベッドの上からゆーかに言うが普通に断られた。
「というかもう時間がやばいしね。」
時計を見ながらいうと、慌てて町田も起き上がる。
「ほんとじゃん!」
「下まで送るよ。」
荷物をまとめているゆーかと比べて何も持ってきていない町田はぎりぎりまでパズルの続きをしている。
「案外面白いよねパズルって。」
「はまってるじゃん。持って帰る?」
「それはいらない。」
そこまででは無かった。




