十四話 不良品のはずのパズル
「お、これとかいいじゃん。」
そう言って町田が手に取ったのは無地のジグソーパズルだった。
「げ。」
「げって何さ。華の部屋にあったのに。お?」
一箱とったにも関わらず、その後ろからまだパズルの箱が出てくる。
「え三人分あるじゃん!ちょうどいいじゃんこれやろうよ!」
ぱっぱっと三つ取った町田はぽいぽいと二人に投げ渡す。
「へー。こんなのあるんだ。面白そうだね。」
「いやー、どうかなー。」
まじまじと箱の外装を見たゆーかは概要を掴んだのか乗り気だ。
しかし持ち主であるはずの華はむしろ引き気味で、いかにもやりたくないですといった顔をしている。
「なにが嫌なの?」
箱を開けてパズルを取り出しつつゆーかが聞くと、その横で真っ白なパズルを睨む。
「昔家族でやってさ...すぐ終わると思ったんだよ。」
遠い日の記憶が蘇っていく。
「パズル苦手な意識なかったし。で、実際やってみたんだけど...3時間かかった。」
軽い恐怖体験だった。一度合っているパズルが見つからないと、見つけられていないのか、もうくっついているのが間違っているのかわからないのだ。
「やりはじめても帰るまでに終わるかわかんないよ。」
感情のこもった言葉だった。
「今何時?」
「もうねー六時。」
「あー...」
時計を持っていない町田が尋ねると、ゆーかが自分の時計を見て答える。
三時間というと九時、家に帰っていないとお叱りを受ける時間である上、華の家でご飯を食べることになると流石に気まずい。
「一旦一時間やる?」
「まあまあまあ。それなら。」
とりあえずできるところまでやるつもりでさっさとやり始める二人を同情の目で見ていた。
「そんな簡単に終わったらね、いいよね。」
そう言いつつ自分もパズルを取り出し、ひとまず形でわけ始める。
「...そう言われると自信ないけど。」
「いやむしろ終わらせたくなってきた。」
華の言葉に対照的な反応を見せる二人。
しかし対照的なのは反応だけではなく、パズルの組み立て方もだった。
「まずは枠を作るとしますか。」
角を配置し、そこからつながるものをしらみつぶしにつけていくゆーかに対し、
「そんなことしないでもいけるけどね。」
同じく角は置くものの、あとは勘で適当に選んだものをはめてみる町田。
どちらがいいかは終わってみなければわからない。
「いやいや、絶対しらみつぶしの方がいいけどね。」
華もまたしらみつぶしに組み立てていた。
まだはめていないものは右、違ったものは左に置く。
それを一ピースはまるごとに繰り返していくのだ。
「これなら絶対いつか終わるから。」
「三時間でね。」
これが正攻法なんだと言う華に呆れながら町田が言う。
「一時間しかないんだからもっと早くやんないと。」
「運すぎるって。」
一枚一枚試してみては元の場所に戻している。
しかし最初に仕分けをしなかった分、何枚かのリードはあった。
「じゃあこれ、誰が一番早く終わるか勝負しようよ!」
黙々とパズルをはめていく二人をみて華は言った。
「普通にやっても面白くないしいいよ。」
「言ったね?」
華には自信があった。
この中で唯一何度かこのパズルを完成させている。
「絶対勝つからね。」
華の天才的な頭脳で計算した結果、間違いなく勝てるはずだ。
一つ一つ当てはまるかどうかをやるだけ、ただそれだけなのだから。
「ちなみにゆーかはどこまで終わってるの?」
つまり相手は同じ方法でやっているゆーかひとりと言っていい。
ゆーかの返答次第でギアを上げるかどうかと言ったところ。
「まあ二割ぐらい?」
「に、にわり?」
自分のパズルを見る。
ゆーかの言う二割と言うのがどの程度かにもよるが、少なくとも自分のパズルは一割ぐらいしか完成していない気がする。
「二割っていうのは枠も含めて?」
「いや?」
気づいたらすごい遠くまで引き離されている。
枠も含めての二割ならまあ、追いつけない差ではないと思うけど、枠の中の二割が終わっているというのはかなり絶望的な差だ。
「えなんでそんな早いの?」
「さあ。普通にやってるだけだけど。」
普通って...いや、まさか...
「ふ、不正だ!」
「何を馬鹿なこと言ってるの?このパズルに不正とかないから。」
ふんと鼻で笑われた。
「だってぇ...不正じゃないなら何ぃ...」
ぺしょぺしょとパズルをはめるが全くはまってくれない。
「なんかゆーかのだけ全部はまるようになってたりしない?」
「しない。」
いや、まだこのパズルだけはまらないように作られている可能性がある。
不良品...まあ絶対そんなことないとおもうけど。
「交換しよ交換。」
「別にいいけど。競争とか言ってたのはどうしたの?」
「ここから先は自分との戦いだよ!」
ぐぐっとすでに完成したパズルとばらばらのピースを押し出して、代わりにゆーかの分をもらった。
「これで完成できる!」
「いやこれもできるから。」
そんなわけがない。
なぜならこのパズルは完成しないようにできているからだ。そうに違いない。
「いいのかな二人ともそんなことしてて。もう終わっちゃうよ?」
「え!嘘!?」
「嘘。」
睨む。なんてやつだ。
「で、どんぐらい終わったの?」
「もうねー、半分終わるよ?」
慌てて町田のパズルを見れば、確かに半分近く埋められている。
さっきまでゆーかがやっていたこのパズルも半分ぐらいは終わっている。
「...私のだけまだまだなんだけど?」
「へへ。」
ついっと目を逸らして自分のパズルに戻る。
「...覚えとくからね。」
横からなんか怖いこと言われた気もするけどそんなことよりパズルの方が大事だ。
じーっとピースを見て当てはまりそうなやつを試していく。
「これは?...うーん。」
運が悪いなあと次のピースを手に取る。
「...これも違うなあ。」
次のピースを...
「あ、あれ?どっか落ちてる?』
手のひらを見ても、肘の裏を見ても、机の下を覗き込んでもどこにもない。
「え、二人のとこに行った?」
「知らないよ?」
「多分そんなことないと思うけど。」
試したはずのピースの山を見る。
そんなことはないと思うけど、もしかして見逃した?
「え嘘、もういっかい最初からってこと?」
「まあそうなるね。」
ぐぬぬ。
もう無理やり適当なのはめこんでやろうかという気持ちをなんとか抑えて再び試していく。
「あーもう飽きたー。」
単純作業の連続な上にちょっと気を離したらまた見逃して一からなのかと思うとそれもできない。
「大丈夫?もう終わりそうだよ?」
「うそうそうそうそ!?」
町田のパズルの周りには数ピースだけが散らばった状態で残っている。
「いつの間に!」
「いや普通にやってただけだから。」
適当に手に取ったピースをどれどれと試してみてははめこんでいく。
「ここまで来たらもうすぐ終わるよ。」
「えー。じゃあ手伝って。」
ピースが見つからずに止まっているパズル。もう一度確認している途中だった。




