十二話 暇つぶしは人間観察?
黙々と課題に向き合い続ける華。かりかりとシャーペンを走らせている。
その向こうではゆーかも華が解き終えたそばから課題に丸つけをしている。
「暇だなあ。」
二人の邪魔をするわけにもいかず黙って様子を見続けていたが、流石に暇が過ぎる。
「代わりにやってよ。」
顔を上げることもなく華が言う。
逃げたいだろうに課題をこなしながら言うあたりどれだけ集中しているかがわかる。
「寝てたら?」
ゆーかもそれが分かっているのでそんなことを言ってくる。
邪魔されるぐらいなら隣で寝られている方がマシらしい。
「そうしよっかな。」
よっこらしょと立ち上がってもちらりともこちらを見てくれない。
「......」
こうなってくるとちょっと寂しい。
邪魔をしたいわけではないんだけどちょっとぐらい構ってくれてもいいと思う。
「ふう。」
ベッドの上で横になってわざとらしく息を吐いてももちろん反応はない。
じーっと二人の様子を見つめる。
「......」
なぜ後ろからこんなにも視線を受けているのに気づかないのか。
「はーあ。」
ばたんと仰向けになって天井を見上げる。
天井に模様はない。
せめて病院のあの線があるタイプのやつなら勝手にあみだくじでもして遊んでいるのに。
「ちょちょちょうるさいなさっきから。」
耐えかねた華がくるっと後ろを振り向くと、ベッドの上で横になりながらこちらを見ている町田がいる。
「なにやってんの?」
「何もやることがない。」
そう端的に言われても後ろでぶつぶつ独り言を言われるこちらの身になってほしい。
「代わる?」
ゆーかがすっと横にずれながら言う。
「めっちゃ代わる。」
今なら課題をやってもいいぐらい暇なんだから、丸つけなんて最高の暇つぶしでしかない。
立ち上がってゆーかと入替に華の正面に移動する。
「どれやってたの?」
「これ。」
座りながらノートを開く。
「おーけーおーけーやりましょう!」
やる気だけはいっぱいある。
「ゆーかはなにすんの?」
元気に丸つけを始める町田の横で立ったままのゆーかに華が聞く。
「なにしよっかな。」
そう言いながらすたすたとこっちに歩いてくる。
そのままベッドまで行くと、華の左後ろに腰掛ける。
「ここで華のこと見てよっかな。」
「え。」
華からはゆーかの足だけが見える。
そのせいで存在だけは感じられるのに何をしているかを見ることができない。
「ほら早く続きやってよ。」
肩に手を置かれ、急かされながら課題に向き合うが斜め後ろから気配を感じる。
「......」
問題を解いている間じっと眺められるとすごい緊張する。
テストの時に自分の横で先生に立ち止まられた時ぐらい緊張する。
「ゆーかさん?」
「なに?」
振り向くと案の定ゆーかはこちらを見ていた。
「あの、見られてると緊張しちゃうかなって。」
町田みたいな遊び方ではないが、これはこれで気になる。
「別に華は見てないよ?」
「へ?」
そして課題を指差して言う。
「いや、暇だから問題読んで解いてただけだよ。」
顔がまっかになるのを感じる。
「あ、ああ。そうなんだ。」
「ごめんね気になった?」
「いや、うん、大丈夫。」
耳がぴーっとやかんのように沸騰して熱くなる。
部屋の中は涼しいはずなのに体が暑い。
慌てて正面を向き直して課題に戻ろうとして、ふと町田の方を見た。
「んふ。」
にんまりとした顔で待っている。
「笑ってるでしょ!」
明らかに勘違いした華を笑っている。
「笑ってないよ。ぷっ。」
「あー!ほら!笑った!」
笑ってないと言った口から笑いが漏れ出ている。
否定したいならせめて耐えてほしい。
「いやいやそんな、あるよねあるある。」
声を上擦らせながらそう言ってくる。
「もっと耐えてよ!」
「くふ、無理無理無理無理。」
ついに口を手で押さえて笑い始める。
なんちゅう失礼なやつだ。
「ふふ。」
左後ろから聞こえた声に振り向くと、ゆーかがさっと目線を逸らす。
「今見てたよね?なんで目逸らしたの?」
「見てないよ?」
目線を合わせないままに言う。
「なんでこっち見ないの?」
左手を地面について体をぐっとゆーかの方に寄せるも、顔を動かして目線を合わせようとしない。
「ゆーか?」
「っふ。」
急いで右を向いて華の追求から逃れようとする。
華が右によれば左を向いて逃れる。
「笑った?」
「んふ。」
左を向いたままのゆーかが忍び笑いで答える。
「ゆーかが笑った!やった!」
「ちょーいちょいねえ対応が違いすぎないかな?」
ぐっとガッツポーズで喜ぶ華に対して町田が近寄ってくる。
「なんでゆーかはいいのさ。」
「ゆーかを笑わせるのが一番面白いからね。」
よしよしよしと右手を揺らしながらに町田の方を向いて答える。
なんでも笑う町田に比べてゆーかに笑ってもらうのは難しい。
「なにそれ。」
と言いつつゆーかの顔を確認している。
「笑ってるね。」
「いや当たり前でしょ。」
覗き込んだ町田の顔が摘んで押し戻される。
「そんな笑ってない?結構笑ってると思うけど。」
華の方を向き直して言う。
表情は笑顔だ。
「いや笑ってはいるんだけどなんだろ。心から笑ってないよね。」
笑ってはいても面白いから笑っているイメージがない。
「そんなことないでしょ。」
まるでサイボーグみたいに言われて心外である。
「どう考えても二人が笑いすぎてると思う。」
今度は二人が頭を捻る。
笑ってはいるが笑いすぎてるというほどではない。
「そんなことないよね。」
「いや町田はそうだよ。反省した方がいいと思う。」
ぐにぐにとほっぺを摘まれる。
「ひゃって、なんひぇも笑うひゃん。」
「何言ってるかわかんないから聞こえない。」
町田の両手を振り解いてから言う。
「いつも笑ってるよ町田は。」
「へへ、照れるなあ。」
「ぐ。」
別にいつも笑ってるって悪口でもなんでもなかった。
無駄に町田が聞こえないふりしてくるのでわざわざ言いなおしたと言うのに。
「まあいいや、ほら早く丸つけしてよ。」
華がやった課題はいっぱいある。
それはもう課題のやりすぎで天才になってしまうんじゃないかと思うぐらいやった。
「いやもう終わったよ?」
「?」
いやそんな、そんなまさか。
町田が指差す先には片方に寄せられて積まれた課題の山がある。
「あれ全部終わった分。」
思わずゆーかの顔を見る。
「そりゃ解くより答え合わせだけの方が早いでしょ。」
なんてこった。
「じゃあこっから二人なにするの?」
「なにしよっか。」
「華の邪魔にならないでできること何かあるかな。」
二人してうーんと考え込んでいる。
「いや無いね普通に。何も思いつかない。」
早々に諦めた町田はごろんと地面に寝っ転がる。
「もう華と一緒に問題解くぐらいしか無いなー。」
「意味ないからそれ。ちゃんと華にやらせないと。」
一瞬期待に満ちた目をした華をゆーかの無情な一言がぶった斬る。
「まあ暇だし華の部屋漁ってようかな。」
「いいわけないでしょ。」
とんでもないことを言い出した町田は寝込んだまま棚に向かい始める。
「とうっ。」
「ぐえ。」
ばすんと町田の背中の上に乗っかる。
「まったくもう!お菓子でも食べて待ってて!」
「はーい。」




