十一話 賞味期限はいつまで?
「あのねえ...」
「はい....」
ベッドに腰掛けたゆーかの目の前では華が正座をして項垂れている。
「なにが、わああ!、よ。こっちがびっくりしたんですけど?」
「おっしゃるとおりです。」
その横では町田が壁を背もたれに地べたに座り、ぱりぽりと持ってきたお菓子を食べている。
「ぐぬぬ。」
大声に驚いてドアを開けたゆーかに平然と華を差し出したのだ。
原因の一つは町田だと言うのに。
「どこ向いてんの?」
「はいすみません...いや、おかしいよ!」
立ち聞きしていたのだから怒られるのは仕方ない。
だけどせめて町田は道連れにしなければ気が済まない。
「町田がびっくりさせたから、ゆーかまでびっくりする羽目になったんだよ?」
指をぴーんと刺された町田は、目をぱちくりさせて驚いている。
「怒られるなら町田も一緒じゃないとおかしい!町田も怒られるべきだと思います!」
ばばんと立ち上がって宣言する。
「部屋の外でこそこそしてたのが悪いんじゃない?」
テーブルの上からチョコを摘んで食べながら町田が言う。
そしてゆーかもうんうんと頷いている。
「い、いやそうかもしれないけど、でも驚かせなければゆーかがびっくりすることはなかった!」
「ドアの前で立ち止まってなかったら驚かされることもなかったよ。」
向けられた指をしっしと追い払ってから平然と言い放つ。
「むむ、ああ言えばこう言う奴だ。」
このままでは旗色が悪い。
なんとかして形成逆転しなければ。
「だいだいさ、」
うーんと次の一手を考えていると町田に先手を取られる。
「ドアの前で何してたの?」
「ぎく。」
冷や汗を垂らす華と、それを見てにやりと笑う町田。
ぎぎぎと横を向いてゆーかの顔を伺えば疑りげな顔でこちらを見ている。
「な、なんでもないよ。」
「それは無理でしょ。」
誤魔化すように言ってもすかさずゆーかが否定してくる。
「お茶一本持ってくるのにどんだけ時間かけてるの?」
「それはー、へへへ。」
ぎろりとゆーかの目が動く。
「何してたの?」
鬼だ、鬼がこっちを見ている。
涙目になりながら町田の方を見ると、苦笑して間に入ってくれる。
「まーたぶん、立ち聞きしてたんでしょ?」
「うん...」
横を見ることはできない。
「はあ、まあそんなところだろうとは思ってた。」
「階段上がってるのに気づかないぐらいには没頭してたよ。」
なんで余計なこと言っちゃうのと目をぱちぱちしてもまあまあと返してくる。
「まあ華の部屋だし、なにしてるんだろって気になる気持ちはわかるけどね。」
「...そうね、別に聞かれて困るようなことするわけでもないし、別にいいんだけど。」
「ゆーかあ!」
きらきらと目を輝かせて飛び込もうとするが、ぱっと避けられる。
宙を舞った体はそのままベッドの上にぼふんと落ちる。
「悪いことではあるからね?」
「あうあう。」
頭をぐりぐりされて気の抜けた声が出ていく。
ぐいっと体を近づけて華の耳元に頭を持ってくる。
「次からは普通に入ってくるように。」
「あいあいさー。」
そう言うと手を離してベッドの上で座り直す。
「ちなみにゆーかはなにしてたの?」
「ん?」
ポテトチップスの袋を畳んだ町田が聞く。
「いや、結局華が聞いてたのはなんだったのかなって。」
「たしかに!!」
ばんと跳ね上がってゆーかに向き合う。
跳んだ勢いでベッドの上で正座になるが、それでもなお頭の位置はゆーかの方が高い。
「なんか言ってたよね!忘れたけど!」
「あー、まあただの独り言だけど。」
そう言うとベッドの脇に置かれたかごを指差す。
「あの中身整理してたんだよね。」
「へー。なんで?」
かごの中からお菓子を取り出しながら町田が聞く。
「なんか怪しそうだったから見てたの。」
視線をやった方向をつーっと見ると、ローテーブルの上に乱雑にお菓子が置かれている。
「なんかめっちゃあるけどなにこれ。」
「全部賞味期限切れのお菓子。」
ぎょっとした目で手に持ったお菓子とテーブルの上のお菓子を見比べる。
そしてさっきまで食べていたお菓子をどこからとったか必死に思い出している。
「こんなにあったんだ。」
その間に華はテーブルのお菓子を漁る。
「わ、これとか去年までのだよ。」
ぴっと持ち上げたのは外袋ごとはいっていたお煎餅だ。
「うわー、なんかすごい見覚えあるかも。」
額に嫌な汗が浮かぶ。
ゴミ箱の中にはよく似たゴミが捨てられている。
「なんかお腹痛くなってきたな。」
「今まで痛くなかったんだから気のせいでしょ。」
いたたとお腹をさする町田に冷静にゆーかが言う。
華のお菓子を漁る手は止まらない。
「これは三ヶ月前で、これは半年前。」
「これ以上町田のこと不安にさせる気?」
後ろを振り返ると食べたお菓子のゴミを不安そうに見つめる町田の姿があった。
「大丈夫だよね?」
「さあ?」
そのまま不安げな顔でこちらを向いて聞かれる。
しかしそんなこと華は知らない。
ついさっきゆーかに聞かれるまで期限が切れてるものがあることにすら気づいてなかったのだから。
「こんなに期限切れてるのはさっさと捨ててよ!」
「期限切れてるかなんて知らないもん!」
わなわなと怒りか不安か震える町田の背中をゆーかが摩る。
「これまで華が食べてるのに元気なんだから大丈夫なんじゃない?」
「うう、これでお腹壊したら訴えてやる...」
俯いて背中を丸めながらも目だけはこちらを見つめている。
「怖いよ!」
お菓子を食べさせただけなのにひどい言い草だ。
しかもよく考えたら勝手に食べられてるし。
「そもそもゆーかには食べていいよって言ったけど町田にはまだ言ってないよね?」
「まさか半年も期限切れてるなんて思わないから...」
全然答えになってないが、今の町田に何か言うのはかわいそうなので許してやろう。
「食べて気づかなかったわけ?」
「全然。」
首を振る町田をゆーかが呆れてみている。
そしてその視線はそのまま華にもやってくる。
「華は?」
「気づかなかったよ。」
気づいてたら捨てているはずだ。
いや、けど多分食べるから関係ないな。
「てか町田はいつのまに来てたの?」
そう聞きながら、自分で分けた期限内のお菓子のかごから見繕う。
「思ったより早く終われたからまだいるかなと思って。」
ゆーかが渡したかごをそのまま押し返してから言う。
そのかごを華にも見せるが首を横に振って断る。
「家の前行ってぴんぽん鳴らそうとしたらお母さんがいたから入れてもらったんだよ。」
「だから鍵の音がしたんだ。」
そういえば中から開ける音じゃなかった気がする。
「まさかこんなトラップがあるとは思ってなかったけどね。」
「自分で引っかかったのに...」
うらめしそうに見られても無実である。
「まあどっちも悪いってことね。」
そう言うゆーかは呑気にお菓子を食べている。
たぶん自分で選り分けた賞味期限内のお菓子だ。
「ぐぬ。ゆーかだけ損してないのはおかしいよ。」
なんでかゆーかだけ損せずにいるのは何故なんだ。
「まさか課題を手伝わせる上に損までさせる気?」
「いや、それは違うけど...」
ごにょごにょしていると、ローテーブルの上のお菓子をどかし課題を広げ始める。
「もう休憩は終わりで良いしょ?」
「え、いや、町田もきたしもうちょっと。」
「いやいや、気にせずやってもらって良いんだよ?」
二人がにこにこしながらこちらに迫ってくる。
「良いでしょ?」
「...はい。」




