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第15話

 10月15日ぶん

 2時ぐらいにあげたら他の時間より多く人が来てくれるような……。

 錯覚だろうか?

 目的地は城壁に囲まれたこの国の中心地である王都のはずだった。

 なのに、どうしてだろう。私達の目の前にあるのは領地をぐるりと囲むように弧を描く壁ではなく、地面に垂直に突き刺さり遠くに霞んで見える山の方まで真っ直ぐ伸びる壁だった。

 こんな光景を見た後だと、王都は四角形の中にあると言われても私は納得してしまうかもしれない。


 荒れた街道から整備された街道へ。

 目で見ても滑らかと分かる平たい石が敷き詰められた街道の上は、揺れが少なくお尻が痛くなることは無い。少し道が違うだけでこれほど乗り心地が違うとは、初めて外を旅する私からすると驚きだった。


 城壁に近づくにつれ、人が多くなる。

 時折、抜き際で挨拶してくる旅人さんに会釈を返しながら私は自分の街と王都の様子を比較した。

 騎士さんであるリアンさんは、始め私達の街の様子を見て驚いていたけど、きっとその解釈は間違いだ。

 私達の街にある通りよりも太い道が王都から続いている。そこを歩く人、人、人……。まばらに見えてしまうのはその道が太すぎるからであって、今その通りを歩いている人達を私達の街に押し込んでしまえば人の100人や200人はプチッと潰れてしまうのではないだろうか。



「大きい……」

「ああ。あの門の向こう側、通りの突き当りに見える小さな建物が王城だ」

「小さいって……。ここから見えるからそう見えるのであって、実際は……」

「この城壁に近い高さはあるかもしれんな」



 ポカン、と口を開けて見上げる。

 姉が起きていたら、はしたないなんていってきただろうか。それとも、同じように上を見上げたのだろうか。

 喧騒に慣れているせいか、様々な地方からやってきた人達で賑わっているこの場所も姉にとっては障害にならないらしい。当初私の肩に乗っていた頭はずっと前から膝の上まで落ちてきていた。



「それで、門の下で高貴そうに見える人が手を振っているんだけど」

「ん? ああ、自分の主だ。無暗に外へは出るなとあれ程言っているのに……」

「なんだか、皆さん頭を下げ始めましたが」

「まあ、あんなでもこの国の王太子だからな」



 この人は……。

 自分の名前を明かすのを忘れたり、街の宿屋で水にお金がかかることを黙っていたり、自分1人だけ他の安宿や馬小屋に泊ろうとしたり。果ては自分だけ野宿しようとしたり……。

 どうにも自分の中で全てを完結させるきらいがある。

 私達がどう思っているか、どう思おうかなんて二の次。いや、二の次どころか、そんなこと考えていないように思える。

 リアンさんのそんなところが、思いもしたくないけど嫌いだった。あまり人を嫌ったことが無いのに、どうしてだろう。ふつりと、彼のそんな行動を見ていると心の中に湧いてくるのだ。



「おーい! リアン! しっかり嫁を貰ってきたか?」



 声を張り上げ手を振りながら王太子はこちらに歩いてくる。

 隣には眼鏡をかけた利発そうな女性。彼女が王太子さんの散財に苦労させられながらも時折見せる勇敢さに心底惚れこんでいるという人だろうか。

 ため息を吐きながら付き従う姿が、ほんの少し愛らしく見えた。


 ゾクリ……。


 唐突な悪寒が背筋を撫でた。



「やめてくれ、主。彼女達とはそういう間柄では……」

「達!? なんと、嫁を二人も連れてくるとはな。貴様にもそんな甲斐性があったとは思いもせんかった」

「いや、人の話を……」

「屈強な男性は多くの色を好むと昔から言われていますから。あ、私は心に決めた相手がいるので、ごめんなさい」

「だから人の話を聞けと……」



 視線を周囲に向ける。


 嫌な予感だ。


 私の嫌な予感はよく当たる。



「ルクリア殿、どうした?」

「見たことがある……」

「ん? まあ、王太子だからな。肖像画ぐらい各地に回っているだろうし」



 この後、何が起こるんだっけ。


 その後、どうなるんだっけ。


 私以外の誰かが傷つく。


 涙を流す誰かの姿が脳裏に焼き付いていたはずなのに思い出すことが出来ない。



「あ……」

「あの、どうかなさいましたか? ルクリア様のお体のことはそこの筋肉ダルマより聞いています。体調が優れないようでしたら……」

「あなただ……」

「え?」

「るる? どうかした……? ルル?」



 城壁のてっぺん。


 遠くて霞んだそこに陽の光を反射させる何かがあった。


 立ち上がる。


 座りっぱなしでフラフラになっているけど、荷車の上で私は立ち上がった。


 座ったままの私じゃどうにか出来ないから。



「ルル!? 待って!!」

「伏せて!!」

「へ? きゃあ!?!?」



 姉の声が後ろで聞こえた。

 だけど、その時には私はもう荷台から離れていて、利発そうな女性の体を押し倒そうととびかかっていた。もう、後戻りはできなかった。

 視線を僅かに後ろへ向けると、寝起きでボサボサなのにそれでも陽の光を反射させて綺麗に輝く自慢の姉の美しい髪があった。

 ああ、でも。そんな誰もが羨む髪を持っているのに、姉の表情はとても必死で、涙ぐんでいて、私が浮かべていて欲しい顔じゃ無かった。


 もし、私に騎士さんのような力があったら姉はこんな顔をせずに済んだのだろうか。


 久しぶりに体に力を入れたせいで視界が白む中、唐突に何かが私の中を突き抜けていった。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを2セット

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