第12話
10月12日ぶん
最低でももう2時間は早く書き上げなければ。
今日の原因は他の執筆にかまけて時間を見ていなかったからだろう。
優先順位を常に考えるようにしなければ……。
その日、二度目の起床は僅かな吐き気と節々の痛みが伴った。
周りを見渡せば姉の他にもう一人、筋肉質な体の上にちょこんと見覚えのある頭を乗せた人物が視界に入る。
見つめ合うこと数秒。
相手が心配そうに眉を歪めていた顔から一転、頬を上気させ僅かに視線を横にずらしたことで、見覚えのある顔が騎士さんのものだったと再認識する。
「心配になって来てくれたんですか?」
「……あ、ああ。自分がやったものが原因かもしれないと聞いたし……」
「そうなの?」
兜をかぶっていないのに口を開いてないせいでくぐもり尻すぼみになっていく弱々しい声に、笑いが漏れ出そうになる。
たまらず姉の方に顔を向けた私は、その勢いのまま事の真意を尋ねた。
「お医者様は直接的な原因ではないと言ってた。ルルの体質が原因だって」
「私の体質?」
「あなた、自分の魔力を上手に扱えない、というか引き出せないでしょ?」
「うん」
今日ほどではないけれど、私の体調がとても悪くなった時お医者さんからきいたことがある。私は魔力を蓄えすぎる体質だ、と。
お医者さんがその日計測した結果では、人の10倍近い魔力が体の中にあったらしい。魔力は蓄えすぎれば害となる。その言葉の意味を私は身をもって体験してしまったわけだ。
ただ、それだけが私を苦しめている原因というわけじゃない。
蓄えたら放出すればいいだけ。現に、そういった症状を抱えている人はお医者さんが知るだけでも両手の指だけでは数えきれない程いるらしく、彼らは定期的に魔力を放出することで解決したようだった。
だから、余分な魔力を放出さえ出来れば私は外を出歩いても倒れたりすることのない元気な体になる。それなのに、私にはそれが出来なかった。
私の中に蓄えられた魔力は、私の手の届かないどこかに収納されるらしい。
お医者さんの言いつけ通りに魔力を放出しようとしても、どういうわけか十分と経たずに私の体は悲鳴を上げた。
耳鳴り、めまい、吐き気、寒気、そして平衡感覚の喪失……。
私は自分の中に存在するはずの魔力を10分の1すら使うことなく、魔力が枯渇した時に見られ症状を併発したのである。
「そう、だったのか。であれば、すまなかった。魔力で動かせる物なんて渡されて困っただろう?」
「ええと……、それは違うんです。遊べないはずなのに遊びすぎちゃったというか、なんというか……」
なんて説明したものだろう。
そんなお医者さんでもお手上げの体質を抱えている私。
元気になれるのは不定期に訪れる魔力が自然に放出されて体に余分な魔力が無くなったときだけ。その理由も原因も私には分からない。
だから、細工飾りを自分の魔力で動かすことが出来て、ついでに昏倒することなく余分な魔力を放出することが出来ることが分かると姉は喜んだし、私は没頭した。
それが確か、三日ぐらい前の出来事。
その日からは今までのことが不思議に思える程、体がスッキリしていたし私の事情をよく知る人が目を見開くくらいには元気だった。
今回の出来事は、ようやく人並みの生活を送ることが出来たことについて感謝を伝えようとした途端に起こったものだった。
お医者さん曰く、遊びすぎらしい。
つまりは年不相応にはしゃぎ過ぎたということであり、恥ずかしい限りだ。
「本当は、あなたにありがとうって伝えたくて……。私、この銀の細工飾りを貰ってから見違えるぐらいに元気になれたの! それについて、ありがとうって伝えたかったんだけど……。ごめんなさい。逆に心配させちゃって」
「いや……。ルクリア殿、君さえよければ自分と……。ああ、いや、なんでもない」
「?」
「なんでもないんだ。これは差し入れだ。通りで店を構えている婦人に聞いて買ってきた。この店の菓子が好きなんだろう。美味いものを食べて元気になってくれ。自分はこれで失礼するよ」
何を彼は言い淀んだのだろう。
私は大好きなお菓子が入ったケースより、部屋を去っていく彼の後姿に目が奪われていた。
今日の筋トレ日記
腕立て伏せ30回
腹筋30回
背筋30回
これを2セット




