第11話
10月11日ぶん
今日は、というより今日からルクリアの視点。
冒険というタグが付いているのになかなか冒険に出てくれない。削除した方がいいだろうか?
私はこの日、初めての体験をした。
「——! ——ル!」
酷い耳鳴り。
酷い吐き気。
酷いめまい。
酷い寒気……。
今まで体験したことのない、明確な死の感覚。意識が遠ざかっていくことすら理解できず、隣で叫ぶ姉がいることも理解できず、平衡感覚を失いどこがベッドでどこが天井かも理解できず……。
ただ、このまま時間が過ぎれば死ぬということだけは、起き抜けの回らない頭でも理解することが出来た。
なんて考えが過っていたのは数分前。
未だに耳はキンキンと泣きわめいて正確な音を取ることが出来ないし、吐き気は空っぽのお腹を収縮させて何かをひねりだそうとするし、視界は明転し続けるし、体の末端部と唇の感覚は遠い。
だけど、時間が経る毎に体調が改善していることは分かった。
考える頭が戻ってきた時点でいつもよりちょっと酷い症状が現れたと解釈することも出来たんだろうけれど、人が死の淵に立った時の絶望は思考を鈍らせる、ということなんだと思う。
「ぅ……、ぅう……ぉぇ」
何度か取り換えられた桶を抱え、空っぽの桶の中に空っぽの何かを吐き出す。
その度に背を摩ってくれる姉の手が熱く、今の体には心地いい。
今だけはどうしても笑顔を取り繕うことも出来ず、自分の顔は姉に見えぬように下げられたまま。
そんな体勢で、震える唇を何とか動かして感謝の言葉を伝えようとするけど、果たして私は上手く発音することが出来ているのだろうか。
聞き取る耳も今は使えない。
「——? ———」
「——! ——……。—————!」
「——、——」
姉が誰かと話している。
家族ではないだろう。視界の端に捉えたのは白く揺れ動くもの。
よく私を診察してくれるお医者さんがそんな服を好んで着ていた気がする。
姉が呼んだのだろうか。それとも、騒ぎを聞きつけた他の誰かが呼んでくれたのだろうか。真相は分からないが今の私の耳で聞き取れる声は二人分だった。
「——、————?」
「——。——」
「——、———!」
「……ぁ……」
姉がお医者さんに何かを手渡し、一拍反応が遅れて私の口から息が漏れる。
姉が渡したものは、騎士さんから貰い受けた銀の細工飾りだった。
あの日から私のお気に入りになった一品。魔力を注げば中央の模様が回転し様々な形を作り出す。似たもので、魔力を消費しない万華鏡というものがあるのだという。
中にちりばめられた細かな宝石が特色ある色を銀細工に反射させながら輝く姿は、夜の生き物が寝静まった時間に見ると、より幻想てきだった。
私が細工飾りに夢中になったのはそういった面ももちろんあるけど、もう一つの理由が一番大きい。
それというのも、銀細工に魔力を注いだ翌日は体が普段よりスッキリするのだ。とは言っても歯に挟まった食べ物がようやく取れたぐらいの軽いスッキリぐらいだけど……。
でも、いつもより元気になるという事実は変わらない。そんなわけで、私は夜な夜な自分が満足するまでその細工飾りに魔力を注ぐことにしていた。
そんな私のお気に入りの一品を手にして姉とお医者さんは何か話し合っている。
私の心に沸き起こるのは、それが原因であってほしくないという願いだった。
今日の筋トレ日記
腕立て伏せ30回
腹筋30回
背筋30回




