異世界の調味料が原色で、ひき肉が光る件について
ソルの「ぜんぶ!!」という元気すぎる返事を受けて、
オレは震える手で黄色い液体の瓶を持ち上げた。
「……まずは、これから……」
とろり、とろり、とろり。
黄色い液体は蜂蜜のようにネットリしているが、
匂いは──
甘いのに、ちょっと刺激臭。
(甘いのか辛いのかどっちかにしろよ……!
なんで“甘いのに鼻にくる”っていう新ジャンルなんだよ……!)
ソルは嬉しそうに跳ねる。
「パパ、もっともっと〜!」
「いや、そんなに入れたら甘くなりすぎるだろ……」
「いつもパパ、いっぱい入れてたよ!」
(前の父親……甘党というより、味覚が死んでたのか……?)
次に、真っ青な粉を手に取る。
「……これは……本当に辛いのか……?」
蓋を開けた瞬間──
鼻がツーンッ!!
「うわっ!? なんだこれ!?
メントール!? いや辛いの!? どっち!?
鼻がスースーするのに目が痛いんだが!?」
ソルはケラケラ笑う。
「パパ、いつも“あっつ!!”って言ってたよ!」
(前の父親……料理でダメージ受けてたのか……
なんで料理が毎回“火属性攻撃”なんだよ……)
オレは慎重に青い粉を少しだけ振りかける。
──ボフッ。
青い煙が一瞬だけ立ち上がった。
「煙出たぁぁぁぁぁ!?!?
なんで!? 粉だろ!? なんで煙が出るんだよ!!」
ソルは拍手する。
「パパ、すごーい!!」
(いや、すごくない……
絶対すごくない……
むしろ危険だろ……)
最後に、緑色の液体を持ち上げる。
「……これが塩なのか……?」
蓋を開けると、
海藻のような匂いと、
なぜかミントのような爽やかさが混ざった香りがした。
「しょっぱいのか……? これ……?」
オレは覚悟を決めて、緑の液体をひと振りする。
──サラッ。
普通にサラッとした液体だ。
(……これだけは普通っぽいな……
いや、色が普通じゃないけど……
なんで塩がミント系なんだよ……)
ソルが満面の笑みで言う。
「パパ、ぜんぶいれたね!すごいね!」
「いや、すごいっていうか……
これ、本当に食べられるのか……?」
オレはフライパンを持ち上げ、
原色調味料まみれのひき肉炒めを見つめた。
ジュウゥゥゥゥ……
──光った。
「光ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?!?」
ソルは拍手する。
「パパ、いつもこうだったよ!」
「いつも光ってたの!?!?
オレ、何作ってたんだよ!!?
料理じゃなくて魔法じゃん!!」
色がヤバい。
ひき肉は黄色と青と緑が混ざり合い、
なんというか……
“理科室で混ぜちゃいけない液体を混ぜた時の色”
になっていた。
「……これ、本当に食べ物か……?」
ソルは満面の笑みで言う。
「パパ、きれいだね〜!」
「きれいっていうか……
なんか……“危険物”の色なんだが……?」
さらに──
匂いがヤバい。
甘い。
辛い。
しょっぱい。
ミント。
海藻。
刺激臭。
全部が同時に鼻に来る。
「うっ……!?
鼻が……忙しい……!!」
ソルはケラケラ笑う。
「パパ、いつも“鼻がいそがしい〜!”って言ってたよ!」
「前の父親、そんな名言残してたの!?
鼻が忙しいって何だよ!!」
そして──
音がヤバい。
ジュウゥゥゥゥ……
……のはずが、
「ポフッ……ポフッ……ポフッ……」
時々、謎の軽い爆発音がする。
「なんで爆発音するんだよ!?
ひき肉炒めだぞ!?
爆発要素ないだろ!!」
ソルは嬉しそうに言う。
「パパ、いつも“あっつ!”って言ってたよ!」
「それは青い粉のせいだろ!!
なんで料理が攻撃してくるんだよ!!」
オレはフライパンを持ち上げ、
原色まみれのひき肉炒めを見つめた。
色はヤバい。
匂いはヤバい。
音もヤバい。
でも──震えてはいない。
(……震えてないだけマシか……
いや、マシなのか……?
これ、食べ物なのか……?)
ソルはにこにこしながら言う。
「パパ、たべよ〜!」
「いや、食べるの!?
これ食べるの!?
ソル、これ食べてたの!?
前の父親、これ食べてたの!?
味覚どうなってたの!?!?」
ソルは胸を張る。
「うん!パパのごはん、おいしいよ!」
こうして──
アウリスの初めての異世界料理は、
光り、爆発音を出し、鼻を忙しくさせる“原色ひき肉炒め”として完成した。




