異世界パパ、初めての料理で動く肉と原色調味料に泣かされる
「パパ、ごはんつくるの?ソル、おてつだいする!」
「お、おう……助かる……」
(いや、助かるどころじゃない。
ソルがいなかったら、オレはこの家のどこに何があるかすら分からん……)
キッチンらしき場所に向かうと、木製の棚に見慣れない食材が並んでいた。
丸い野菜。
細長い根っこ。
紫色の葉っぱ。
そして──謎の肉。
「パパ、これつかうよ!」
ソルが指差したのは、
“ぶるぶる動いているカットされた肉”だった。
「……動いてるんだが?」
「うん!いつもパパ、これ“やだな〜”って言いながら焼いてたよ!」
(前の父親……苦労してたんだな……てか、動く肉ってなんだよ……)
ソルは胸を張る。
「ソルね、パパのごはんだいすき!ルナはね、ミルク飲むとね、にこにこするよ!」
(……やめろ……そんなこと言われたら……
やるしかないじゃないか……って、今ミルクって言ったような……)
オレは聞こえなかったフリをして、包丁らしきものを手に取る。
重い。
でも握りやすい。
この体の筋力が、ちゃんと支えてくれる。
「よし……やってみるか……」
オレは包丁を構え、ぶるぶる震える肉と対峙した。
「よし……いくぞ……」
ソルは椅子にちょこんと座り、足をぶらぶらさせながら応援してくる。
「パパ、がんばれ〜!ソル、みてるからね!」
(見られてると緊張するんだよ……!
でも……この応援が可愛すぎて逆に力が湧く……)
オレは肉に向かって包丁を振り下ろした。
「えいっ!!」
──その瞬間。
肉が跳ねた。
「え?」
肉がまな板から飛び上がり──
オレの顔にへばりついた。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
肉は吸盤のように張り付き、
鼻と口を完全に塞いでくる。
息ができない。
「パパぁぁぁぁぁ!!?」
ソルが叫ぶ。
オレは必死に肉を剥がそうとするが──
剥がれない。
「むりむりむりむりむりむり!!」
肉はさらに締め付けてくる。
(やばい……息が……!
オレ……また窒息で死ぬのか……!?
餅の次は肉で……!?)
視界が揺れる。
白い光がちらつく。
一瞬──
ババァ神の顔が見えた。
「お前さん、また窒息かい!!」
(うるせぇぇぇぇぇぇ!!)
その瞬間。
ソルが肉に近づき──
デコピンした。
「えいっ!」
──パァンッ!!
肉は一瞬で粉砕され、
まな板の上に ひき肉 として散らばった。
オレはその場に崩れ落ち、
ゼェゼェと息を吸い込む。
「……ソル……今の……」
ソルは胸を張る。
「ソル、パパをお手伝いしたよ!」
「いや、手伝いどころじゃなくて……
肉が……ひき肉になったんだが……?」
ソルは首をかしげる。
「いつもパパとこうやってたよ?」
「いやいやいやいやいや!!
肉にデコピンしてひき肉にしてたっけ!?
そんなわけあるか!!」
ソルはケラケラ笑う。
「ソルね、パパの“えいっ!”すき!」
オレは震える手でひき肉を見つめる。
(……この子……ひょっとして……
とんでもない力を持ってるんじゃ……?
世界を救うって言われてたけど……
想像以上に規格外なんじゃ……?)
ソルは無邪気に言う。
「パパ、つぎはやくごはんつくろ〜!」
(いや、今のをスルーするの!?
ひき肉になったんだぞ!?
デコピンで!?)
こうして──
初めての料理編は、開始5分で肉との死闘になった。
オレは、ソルのデコピンでひき肉になった元・暴れ肉を見つめながら、
とりあえずフライパンに放り込んだ。
「……まあ、ひき肉なら炒めれば何とかなるだろ……」
ジュウゥゥゥゥ……
ひき肉は普通に焼け始めた。
さっきまで暴れてたとは思えないほど従順だ。
(……魂抜けたんだろうな……)
ソルが嬉しそうに跳ねる。
「パパ、ひきひきのお肉だ〜!」
「ひきひきって言うな……」
次に、棚に並んだ“謎の野菜”を手に取る。
丸い野菜。
細長い根っこ。
紫色の葉っぱ。
どれも見たことがない。
(まあ……炒めれば何とかなるだろ……)
適当に切って、ひき肉と一緒に炒める。
ジュウゥゥゥゥ……
(……よし、ここまでは順調だ……)
問題は──調味料だ。
棚の上に、調味料らしきものが三つ並んでいる。
ひとつは、
すごくネットリしてる黄色の液体。
もうひとつは、
明らかに体に悪そうな真っ青な粉。
最後は、
緑色のサラッとした液体。
(……なんでこの世界の調味料は原色なんだよ……!?
怖いんだが!?)
オレは震える手で黄色い液体を持ち上げる。
「ソル……これ、何?」
ソルは即答する。
「それね、あまいよ!」
「甘いの!? この色で!?」
「うん!パパ、いつも“あまっ!”って言ってたよ!」
(前の父親……苦労してたんだな……)
次に真っ青な粉を指差す。
「じゃあこれは?」
ソルは笑顔で言う。
「それね、からいよ!」
「辛いの!? 青で!?
普通、赤とかじゃないの!?
なんで青なんだよ!?」
「パパ、いつも“あっつ!!”って言ってたよ!」
(前の父親……毎回ダメージ受けてたのか……)
最後に緑の液体を持ち上げる。
「じゃあこれは?」
ソルは胸を張る。
「それね、しょっぱいよ!」
「しょっぱいの!? 緑で!?
なんで!? どういう理屈!?
海藻系なの!? 魔法なの!? 何なの!?」
ソルはケラケラ笑う。
「パパ、いつも“なんで緑なんだ〜!”って言ってたよ!」
「やっぱり、そこは疑問だったんだな!!」
オレは頭を抱える。
(……どうしよう……
どれ使っても絶対ヤバい気がする……
でも……ソルのために作らないと……)
ソルがにこにこしながら言う。
「ソルね、パパのごはんたのしみ~!」
(……やめろ……そんなこと言われたら……
やるしかないじゃないか……)
オレは覚悟を決めた。
「……よし。ソル、どれ入れたらいい?」
ソルは満面の笑みで答える。
「ぜんぶ!!」
「全部!?!?
全部入れるの!?!?
原色全部!?!?
虹色になるだろ!!?」
ソルは嬉しそうに跳ねる。
「パパ、いつもぜんぶ入れてたよ!」
「オレ、チャレンジャーすぎるだろ!!」
こうして──
初めての異世界料理は、原色調味料を全部ぶち込むという地獄の工程に突入した。




