異世界パパ、人生初のオムツ交換で死にかける
改めて実感する。
———この子達が、この世界を救う!?
いたって、普通の子供にしか見えない。
「パパ、はやく~!ルナちゃんがないてるよ!」
・・・・なるほど、次女の方はルナという名前なのか・・・・
そう思いながら、オレはゆっくり上半身を起こして立ち上がる。
すると──
(……ん?)
自分の体とは違う感覚が一気に押し寄せてきた。
まず、目線が高い。
オレは現世では171cm。
中肉中背──いや、小太りだった。
だが今の視界は明らかに高い。
部屋の梁が近い。
(……これ、180cmくらいあるんじゃないか?)
そして──
体が軽い。
軽いというか、動きやすい。
関節がスムーズに動く。
腰も膝も痛くない。
十五年引きこもっていたオレの体とはまるで別物だ。
腹を触る。
柔らかい肉がない。
胸板は薄くない。
腕も細すぎず、適度に筋肉がついている。
(……痩せてるだけじゃなくて、普通に“若い男の体”じゃん……)
神様が言っていた“最適化”というやつか。
長女がオレの服を引っ張る。
「パパ、たっちできた! よかったぁ……!」
その笑顔がまぶしい。
オレは思わず頭を撫でた。
(……この手もオレのじゃないんだよな……)
指は長く、節がしっかりしていて、爪も綺麗だ。
現世のオレの手とはまるで別物。
———感慨にふけっている場合ではない。いかん。ルナだ。
泣き声の方を見ると、木製の揺りかごの中で赤ちゃんが手足をバタバタさせていた。
顔を真っ赤にして、全力で泣いている。
長女が当然のように言う。
「パパ、オムツかえてあげて!」
「えっ!? オムツ!? オレが!?」
「うん! いつもパパがしてたよ!」
(……前の“本物の父親”がやってたってことか……!
オレは中身45歳のニートだぞ!? オムツなんて触ったことないぞ!?)
しかし赤ちゃんは泣き止まない。
泣き声がどんどん大きくなる。
長女が潤んだ瞳でオレを見る。
「パパぁ……はやく……!」
オレは深く息を吸った。
(……よし。やるしかないか)
そして──人生初のオムツ交換が始まった。
揺りかごの中のルナをそっと持ち上げる。
軽い。
あったかい。
柔らかい。
(……うわ……こわ……! 壊れそう……!)
ソルが横で応援してくる。
「パパ、がんばって!」
オレは震える手でオムツを開いた。
──その瞬間。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
予想を遥かに超える惨状が広がっていた。
「パパ、いつも“うわぁぁぁぁぁ”って言うね!」
(前の父親も叫んでたのかよ!!じゃあこれは正常な反応なんだな!?)
オレは深呼吸した。
深呼吸をして、思いっきり吸い込み、そして噦く。
オレ、アホだな・・・
「……よし……落ち着け……オレ。……お前はできる……はず……」
どうやら、元居た世界のオムツとは違う素材だが、形状は一緒で、紙おむつだ。ちゃんと止める用のテープも存在する。
え?何でオムツを知ってるかって?
オムツ、売ってましたから。学生時代にドラッグストアのバイトで。
商品補充の時に、否が応でもパッケージに書かれている説明書きや写真を見る。その時に見ていて覚えていたのだ。
オレは、ゲームで鍛えた集中力と、テレビで見た事のあるオムツ交換の映像を総動員し、布を取り、ルナの足を持ち上げようとすると──
長女が声を上げる。
「パパ、ふきふきの布と、新しいオムツもってきた!まずは、ふきふきしなきゃ!」
さすが、長女。完全に頭になかった。
『ありがとう。助かったよ。』
そうして、まずはキレイにふきふきする。
丁寧に拭き上げようと、足を持ち上げようとすると、ルナは全力で動こうとする。
「ちょっ……動くな動くな動くな……!」
ルナは容赦なく足をバタバタさせる。
長女が横でアドバイスをくれる。
「パパ、いつも“じっとして〜!”って言ってたよ!」
(なんだこの“父親の歴史の継承”は……!)
なんとか汚れを拭き取り、新しいオムツを広げる。
「えっと……こうして……こう……?」
ソルが覗き込む。
「ちがうよパパ! それ、おしりじゃなくておなかのほう!」
「えっ!? 逆!? これ逆なの!?」
「うん! パパ、いつも逆にして“あれ〜?”って言ってた!」
(前の父親、どんだけドジだったんだよ!!いや、親ってそんなもんか!?)
試行錯誤しながら、なんとかオムツを装着する。
最後のテープを止めた瞬間──
「……できた……?」
ルナが泣き止み、ふにゃっと笑った。
人生初のオムツ交換ミッションが終了したのだった。




