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『失恋した完璧令嬢は、歯車仕掛けの蒸気都市で恋と謎を解き明かす』  作者: かあまる01


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第五話 母の肖像画

 蒸気機関が発達した都市グラン・ロア

そこで暮らす政府高官の一人娘、アリシア・フォン・ベルクは、大企業の御曹司に失恋してしまいました。


 失恋の傷も癒えないまま、アリシアの周りには様々な事件が巻き起こります。


 そんな彼女の前に現れたのは、御曹司と顔がそっくりな従兄弟のレオン・アシュフォード。


 顔は瓜二つなのに、性格は正反対。自由奔放なレオンに振り回されながらも、アリシアは少しずつ世の中を知り、成長してゆきます。


 そしていつしか彼のことを……。


 蒸気都市グラン・ロアを舞台に、謎と事件を解き明かすスチームパンク物語、開幕です!


 感想・ブックマーク・評価をいただけると、とても励みになります。よろしくお願いいたします。


※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。

 朝早くから、静寂を重んじるはずの邸宅から、普段なら聞こえるはずのない音が響いてきた。がたん、ごとっ、と何か重いものを運んでいるような音がする。


「……何をしているのかしら?」


 朝の準備をしていたアリシアが何ごとかと廊下を覗くと、使用人たちがあたふたと、せわしない様子でキビキビと動いている。


 そうだ、今日はヴィクトワール社長が来て、父が所有する『朝靄の聖光』を美術館に貸し出す日だ。


「こんな朝早くから準備するのですか?」


 社長の来訪に間に合わせるため、父が所蔵する名画をアトリエに運び出している。それと共に、父が描いた母の肖像画が一緒に運び出されるのを見て、そばにいた父を問いただす。

 

「まさかお父様、このお母様の絵まで展示するおつもりではないでしょうね」


「この絵はぜひ……多くの人に見てもらいたいんだ」


 父の発言に納得がいかない。アリシアはつい、語気が強くなってしまう。


「お父様は、お母様を見せたいのですか。それとも……お母様を失った自分を見てほしいのですか?」


「それは……先方からの要望でもあってな、この絵も是非拝見したいとのことなんだ」


 と言うと、父はすぐアトリエに戻ってしまう。


 ひとまず、湧き上がる感情を抑え、朝食をいただいていると、蒸気自動車の音が屋敷に近づいてくる。どうやら来客らしい。


 父の衣服は片付けで汚れており、とても来客の対応ができる状態ではないようだ。忙しく立ち働く使用人に代わり、アリシアが玄関ホールで出迎える。


 扉を開けると、そこには ヴィクトワール社長と、社員たち。社長の横には、小柄で丸眼鏡の女性が並んでいた。


「あら、アリシア様、おはようございます。お話が行っていると思いますが、本日は絵画をお預かりに伺いました」


「おはようございます。ヴィクトワール社長。父は今、お貸しする絵の準備をしておりますけど、呼んできましょうか」


「そうですか。なら、お願いいたしますわ」


 父に社長が来たことを告げると、父は手早く身なりを整え、駆け寄ってくる。


「よく来てくれましたね。お約束通り、『朝靄の聖光』を梱包してお持ちしていましたよ」


「レイウッド公爵、本日はよろしくお願いします。今日は美術館の主任学芸員を連れてきたので紹介しますわ」


 ヴィクトワールは、隣にいる女性へ手を向けた。


「こちらはエレーヌ・ブランさん。今回の美術館で主任学芸員を務めていただきます」


「初めまして。エレーヌ・ブランと申します」


 ヴィクトワールに紹介されたエレーヌは、柔らかな笑顔を見せてから、静かに頭を下げた。


「彼女は以前、ミラベル公国の国立美術館に勤めていたこともあるのですよ。そのため、今回はぜひ来て頂きたいと思い、お願いすることとなりました」


 紹介されたエレーヌは、笑顔を絶やさず話し始める。


「レイウッド公爵様、この度は当美術館へのご出資と、さらに『朝靄の聖光』を提供して頂き、ヴィクトワール社長と従業員一同、深く感謝いたしますわ」


 エレーヌの物腰は柔らかく、安心させる話し方だが、瞳の奥の静かな目に違和感を感じ得ない。社長が会話を引き継ぐ。


「では、レイウッド公、準備がお済みでしたら、早速、絵画の方を拝見してもよろしいでしょうか」


 父は社長と学芸員をアトリエに案内する。私も母の絵のことが気になるため、同行する。


 エレーヌが中心になって査定が始まると、父の動きが明らかにせわしなくなってきている。やがて、父はこらえきれないようにエレーヌに尋ね始める。


「しかし、『朝靄の聖光』はともかく、この肖像画も一緒に展示してもよいものかね」


 レイウッドが疑問を口に出すと、エレーヌはすぐに満面の笑みを浮かべて説明する。


「その件に関しては、これから選定させて頂きます。ただ、芸術とは名画だけではなく、様々な絵を多角的に鑑賞することも必要だと思っています」

 

 母の肖像画を見て、エレーヌは話し続ける。


「レイウッド公の絵には、この女性への大いなる愛が感じられます。主任学芸員を務めるこの私が保証しますわ」


「ああ、そうかね。主任学芸員の貴方が保証してくれるなら、私も自信が持てるよ」


 父の顔が明るくなったのを見た瞬間、アリシアの胸が少し痛んだ。


(……やっぱり、素直には喜べませんわ。何でしょう、この気持ちは)


 父の絵を褒めちぎるエレーヌを見て、アリシアには、それが演技に思えてならなかった。


(目の肥えた学芸員が父の素人絵を褒めちぎるなんて……どう考えてもおかしい。お父様は自分の絵が展示されることで舞い上がって、何も気づいてないようだけど。まるで……褒めることそのものが目的みたい)


「ではレイウッド公爵、査定が終わりました。『朝靄の聖光』と、こちらの公爵様の絵をお預かりさせて頂きますね」


 父が所蔵する『朝靄の聖光』と、母の肖像画が梱包され、運ばれてゆく。絵を見送る父を横目に、私は彼女らに対して疑惑が消えなかった。


 


 蒸気都市グラン・ロアの物語、第二幕。アリシア・フォン・ベルクの新たな物語が始まりました!


 各章は十話前後、一話あたり二千文字程度を予定しています。前作を読んでいなくても楽しめる内容になっておりますので、初めての方もお気軽にお読みください。


 更新は月・水・金曜日を予定しています。


 評価・感想・ブックマークなどをいただけると、とても励みになります。


 どうぞよろしくお願いいたします!

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