↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『失恋した完璧令嬢は、歯車仕掛けの蒸気都市で恋と謎を解き明かす』  作者: かあまる01


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/21

第四話 ミラベル公国の絵

 蒸気機関が発達した都市グラン・ロア

そこで暮らす政府高官の一人娘、アリシア・フォン・ベルクは、大企業の御曹司に失恋してしまいました。


 失恋の傷も癒えないまま、アリシアの周りには様々な事件が巻き起こります。


 そんな彼女の前に現れたのは、御曹司と顔がそっくりな従兄弟のレオン・アシュフォード。


 顔は瓜二つなのに、性格は正反対。自由奔放なレオンに振り回されながらも、アリシアは少しずつ世の中を知り、成長してゆきます。


 そしていつしか彼のことを……。


 蒸気都市グラン・ロアを舞台に、謎と事件を解き明かすスチームパンク物語、開幕です!


 感想・ブックマーク・評価をいただけると、とても励みになります。よろしくお願いいたします。


※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。

 社長と会談した次の日。


 アリシアは父と朝食を摂るときに、所蔵品の中に、ミラベル公国の絵画はないか聞いてみる。


「ああ、ミラベル公国の絵画なら、今度の美術館の開館に合わせて展示することになった」


 父はアリシアが絵のことを聞くなんて、珍しいと言わんばかりに聞いてくる。


「ミラベル公国の絵画かどうかしたかね? あれは、ミラベル公国が併合されたとき、私が引き取ったものだよ。エレノアたっての願いでね」


「お母様が?」


「ああ、ミラベル公国が併合されたとき、エレノアは随分気にかけてて『貴重な絵画がなくなってしまいます』と、私に詰め寄るものだから、私が買い取ったのだよ」


 父はふと思いついたように聞く。


「アリシアも、子どものころ見たことがあるはずだ。もう忘れたかな」


 それを聞いたアリシアが、あごに手を当て、思い出そうとしているとき、


「私はそろそろ外出するよ。もし絵が見たければ、ギルバートに言って鍵を開けてもらいなさい」


 父は午後の外出に遅れないように、いそいそと準備を始めたので、礼を言って部屋に戻る。


 昼食後に玄関で父を見送ると、早速、書斎におもむき、ミラベル公国について調べることにする。絵を確認するのはそのあとでも良いだろう。


          ◇


 ミラベル公国


 芸術の国として栄えた小国。約十年前、後継者争いをきっかけに内乱が起き、その混乱に乗じて我が国に併合された。


 ーー今はもう、存在しない国ーー


          ◇


 アリシアが思考を巡らせていると、ギルバートが扉をノックして、サンドイッチとコーヒーを持ってくる。そして机に置かれた資料を見て、アリシアに問いかける。


「ミラベル公国のことを知りたいのですか? あの国は、表向きは穏便に併合されたことになっておりますが、裏ではかなり強引な手段でことが進んだようです」


「やはり……では、ミラベル公国の人たちは、我が国のことを恨んでいると……」


「そう考える方も多いかと思います。では、私はこれで。あまり無理をなさりませんように」


 ギルバートが部屋を出たあと、アリシアが再び思考を巡らせると、ふと、レオンが言ってたことを思い出す。


『ヴィクトワール社長は、ミラベル公国の絵を執拗に欲しがっているように見えます』


 ミラベル公国の絵……。一度見てみれば、何か分かるのかも。


 アリシアはギルバートの元へゆき、父から許可をもらっていることを伝えて、アトリエの鍵を借りる。アトリエの鍵を開けると、軋む音と共にゆっくりと扉が開く。


 アトリエの書庫から、父が自ら作成した目録を手に取り、ミラベル公国から来た絵画を探す。父の細やかさが、このときはありがたい。


 探し物はすぐに見つかった。ミラベル公国の絵が一点、このアトリエの奥、北側の納戸に保管されているらしい。


 納戸に入ると、窓はなく暗闇に包まれた空間が広がっていた。室内に置いてあるランタンに火を灯すと、暖かな橙色の光が、波のように部屋の隅々へと広がる。

 

 ランタンを持ち、部屋の奥まで進みミラベル公国の絵、父が付けた番号「M-017」を探してゆくと……あった。黄袋に同じ番号が貼ってある。


 額縁を棚から抜き出し、黄袋から取り出して画架に架ける。名画の全貌が露わになった瞬間、アリシアの唇から、小さな吐息がこぼれ落ちる。


 そこに描かれているのは、蒼穹と夜の狭間、まだ世界が目覚める前の、荒涼とした崖の上に佇む、一人の名もなき女性の背中だ。


 題名は『朝靄の聖光』描いた画家はルシアン・ブラン


 キャンバスを覆うのは、夜の残り香である深い紫紺と、水平線から滲み出る繊細な黄金色の対比。荒々しいペインティングナイフの跡が、風の冷たさと潮騒の湿度を、そのままキャンバスへ刻み込んでいる。


          ◇


 幼い頃、母に手を引かれてこの絵の前に立った。


「綺麗でしょう?」


 母はそう言って笑った。


 当時のアリシアには、絵の意味など分からなかった。ただ、母がこの絵を見るときだけ、少し寂しそうな顔をしていたことだけは覚えている。


          ◇


「そんなこともありましたね……」

 

 アリシアは母との記憶を思い出し、その懐かしい感情と、絵の中の美しい静寂に引きずり込まれ、時間も忘れてただ見つめていた。


 幾分時が流れて、名画を黄袋に仕舞おうとしたとき、中から羊皮紙の破片がでてきた。アリシアが拾い上げると、そこには短い文が書かれていた。


『どれほど深い夜であっても、朝は必ず訪れる』


(……意味ありげな文章ですね。覚えておきましょう)


          ◇


 アリシアは書庫から出て、ギルバートに鍵を返すと、自室で一人、頭の中でこれまでの情報を整理する。


 父の所蔵しているミラベルの名画『朝靄の聖光』それを借りるために、ヴィクトワール社長は自ら父のモデルになった。


 ただ絵を貸してほしいと頼めば、それで済んだはずだ。なのに、なぜそこまでして父に近づいたのか。


「……やっぱり、何か隠していますわね」


 アリシアは机の上に置いた羊皮紙へ視線を落とした。


『どれほど深い夜であっても、朝は必ず訪れる』


 この言葉は、誰が何のために残したものなのだろう。そして、なぜ母はこの絵を大切にしていたのか。考えれば考えるほど、疑問は増えていく。


 そのとき、廊下から父の声が聞こえてきた。


「アリシア、いるか?」


「お父様、どうされました?」


「明日、ヴィクトワール社長が屋敷に来るそうだ」


「明日……ですか? 随分と急ですね」


「ああ。ヴィクトワール社長から連絡があってね。美術館に展示する絵の最終確認をしたいそうだ」


 アリシアの胸に、あの嫌な違和感が蘇った。


 ミラベルの名画『朝靄の聖光』


 ヴィクトワール社長。


 そして、あの意味深な言葉。


 ばらばらだったものが、少しずつ一本の線につながっていく。偶然なのだろうか。それとも――。


 アリシアは胸の奥に広がる、言いようのない不安を押し殺した。


 ――美術館で、何かが起こる。


 そんな予感だけが、消えずに残っていた。


 


 蒸気都市グラン・ロアの物語、第二幕。アリシア・フォン・ベルクの新たな物語が始まりました!


 各章は十話前後、一話あたり二千文字程度を予定しています。前作を読んでいなくても楽しめる内容になっておりますので、初めての方もお気軽にお読みください。


 更新は月・水・金曜日を予定しています。


 評価・感想・ブックマークなどをいただけると、とても励みになります。


 どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。