第二章 9話 英雄の傷痕
蒸気機関が発達した都市グラン・ロア
そこで暮らす政府高官の一人娘、アリシア・フォン・ベルクは、大企業の御曹司に失恋してしまいました。
失恋の傷も癒えないまま、アリシアの周りには様々な事件が巻き起こります。
そんな彼女の前に現れたのは、御曹司と顔がそっくりな従兄弟のレオン・アシュフォード。
顔は瓜二つなのに、性格は正反対。自由奔放なレオンに振り回されながらも、アリシアは少しずつ世の中を知り、成長してゆきます。
そしていつしか彼のことを……。
蒸気都市グラン・ロアを舞台に、謎と事件を解き明かすスチームパンク物語、開幕です!
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※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。
下層区の濁った空気の中で、時間がぴたりと止まったかのように感じられた。
「……貴方は……」
アリシアは息を呑み、咄嗟に身構えた。先日の破片音と、父と交わした怒号が脳裏を駆け巡る。いつでも逃げ出せるよう、足に力を込めた。
だが、クリスタは刃に手をかけるどころか、その場に棒立ちになったまま、深く落ち窪んだ瞳で私を見つめていた。やがて彼は、痛む右腕を庇うようにして、ゆっくりと頭を下げた。
「……先日は、すまなかった」
地声を押し潰したようなかすれ声。そこには一昨日の荒々しさも、鬼気迫る狂気も影を潜めていた。
「公爵殿に怪我はなかったか。あんな無体を働くつもりはなかったんだ。ただ、お前さんの顔を見たら……救えなかった母君の顔と、何一つやり遂げられなかった昔の自分を思い出してしまい、つい、あんな態度をとってしまった……」
「お母様を……救えなかった……?」
胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「どういうことですの!? 貴方はお母様と、我が家と、一体どんな関係がありますの!? お願いです、教えてください!」
アリシアは一歩踏み出し、彼に詰め寄った。クリスタは眉間に深い皺を刻み、重い口を開こうとする。
「――そこまでだ、治安を乱す無法者め!」
そのとき、甲高い叫び声が路地に響き渡り、静寂が叩き割られた。
振り返る間もなく、鮮やかな赤と白の制服を纏った男たちがなだれ込んでくる。マテオ率いる従銃士隊だ。まるで私の後をつけていたかのような、あまりにも手回しの早い登場だった。
蒸気都市グラン・ロアの物語、第二幕。アリシア・フォン・ベルクの新たな物語が始まりました!
第二章から、更新ペースを変更します。
各章は二十話前後、一話あたり千〜二千文字弱を予定しています。前作を読んでいなくても楽しめる内容になっておりますので、初めての方もお気軽にお読みください。
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