第二章 7話 父の不在
蒸気機関が発達した都市グラン・ロア
そこで暮らす政府高官の一人娘、アリシア・フォン・ベルクは、大企業の御曹司に失恋してしまいました。
失恋の傷も癒えないまま、アリシアの周りには様々な事件が巻き起こります。
そんな彼女の前に現れたのは、御曹司と顔がそっくりな従兄弟のレオン・アシュフォード。
顔は瓜二つなのに、性格は正反対。自由奔放なレオンに振り回されながらも、アリシアは少しずつ世の中を知り、成長してゆきます。
そしていつしか彼のことを……。
蒸気都市グラン・ロアを舞台に、謎と事件を解き明かすスチームパンク物語、開幕です!
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※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。
アリシアは昨夜の会話を思い返すたびに、胸の奥が落ち着かなかった。
何度も寝返りを打ったせいか、眠った気がしない。ようやく朝を迎えたものの、頭の中には昨夜の言葉がしつこく残っていた。
目覚めは最悪だった。
昨日の緊張感と、手甲に触れられた嫌悪感が残っていたせいか、体が鉛のように重い。ベッドの中で枕に顔を埋め、小さな吐息を吐き出すが、このまま寝ていても、何もならない。
アリシアは重い足取りでベッドから這い出し、一人で遅い朝食を摂っていると、庭の方から鋭い掛け声と金属の打撃音が響いてきた。
窓から覗くと、別館前の広場でマテオたちが剣の訓練を行っている。
マテオの高圧的な声が聞こえるたびに昨日の屈辱が蘇り、みぞおちのあたりが、むかむかとうずく。
(いつまでも落ち込んでいる場合じゃないわ……)
私は紅茶を飲み干すと、手早く支度を整えて父の執務室へと向かった。
あの右腕に傷を持つ冒険者。母のことを知っていた男について、父から直接話を聞き出すためだ。
重厚なドアの前で呼吸を整え、とんとん、と二度ノックする。
しかし、室内からの返答はなかった。
「アリシア様。旦那様をお探しですか?」
振り返ると、銀のトレイを手にした執事のギルバートが立っていた。
「ええ、ギルバート。お父様にお聞きしたいことがあったのだけれど……」
「あいにく旦那様は、早朝から領地事業の件で外出されました。本日は終日戻られぬご予定です」
「そうなの……」
隠しきれない落胆の色を見せる私を見て、ギルバートは深く刻まれた目元の皺を和らげ、静かに頭を下げた。
「私はここに来たばかりで、お嬢様のご期待に添える情報を持っているか分かりません。それでも知りたいことがおありでしたら、執事室へお越しになりませんか。私のお話しできる範囲でよろしければ、お答えいたします」
ギルバートの言葉に、アリシアは顔をあげた。
蒸気都市グラン・ロアの物語、第二幕。アリシア・フォン・ベルクの新たな物語が始まりました!
第二章から、更新ペースを変更します。
各章は二十話前後、一話あたり千〜二千文字弱を予定しています。前作を読んでいなくても楽しめる内容になっておりますので、初めての方もお気軽にお読みください。
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