第二章 2話 冒険者の残した謎
蒸気機関が発達した都市グラン・ロア
そこで暮らす政府高官の一人娘、アリシア・フォン・ベルクは、大企業の御曹司に失恋してしまいました。
失恋の傷も癒えないまま、アリシアの周りには様々な事件が巻き起こります。
そんな彼女の前に現れたのは、御曹司と顔がそっくりな従兄弟のレオン・アシュフォード。
顔は瓜二つなのに、性格は正反対。自由奔放なレオンに振り回されながらも、アリシアは少しずつ世の中を知り、成長してゆきます。
そしていつしか彼のことを……。
蒸気都市グラン・ロアを舞台に、謎と事件を解き明かすスチームパンク物語、開幕です!
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※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。
アリシアの様子を見た執事が、静かにアリシアと男の間へと割り込み、毅然とした口調で伝える。
「間もなく警察が到着します。それまでにお引き取り願えますか」
「ふん、またこの仕打ちかよ」
男は悪態を吐き捨てると、きびすを返して、振り返ることなく屋敷を去っていった。
男が去って騒ぎが収まると、アリシアはすぐ父に詰め寄る。
「お父様! あの無礼な男は何者なのですか! 説明してください!」
父が重い口を開こうとしたその時、どたばたとした荒い足音とともに警察官が飛び込んできた。
「レイウッド公爵閣下! 巡査部長ダストン、暴れる冒険者がいると電信を頂き、駆けつけました!」
汗を滝のように流しながら平身低頭で平謝りするのは、この地区の治安を守るダストン巡査部長だ。丸顔で恰幅がよく、市民からは親しみを込めて「食べ過ぎたカワウソ」と噂される人物である。
「ダストン巡査部長、電信を打ってからどれほど経っているとお思いですか。アリシア様にお怪我があったらどうするのです」
執事の冷ややかな指摘に、ダストンはさらに小さくなって汗を拭った。ひたすら頭を下げる一生懸命な姿に、アリシアの苛立ちも自然と解けていく。
去り際、縮こまる彼に「遅くなったのは困りますけれど、無事でしたから気になさらないで」と声をかけると、ダストンは涙ぐみながら恐縮して去っていった。
話が一度、途切れてしまったが、アリシアは改めて、父に向き合い、あの男について問いただす。
「あの男は昔、私が仕事を依頼した冒険者だ。お前はまだ幼かったから覚えていないだろう」
冒険者。蒸気機関が普及し、民間人の帯剣を禁じる『剣狩り法令』まで施行されたこの時代に、まだ存在していたのかと、アリシアは疑問に思う。
「冒険者が、 お父様にいったい何の用があったのですか?」
「この件はお前が心配することではない。警備を強化する。……さあ、片付けを頼む」
父は話を打ち切り、メイドたちに割れたガラスの掃除を命じた。部屋の片付けが始まると、アリシアはそれ以上踏み込むことができず、ただ自分の部屋に戻るしかなかった。
◇
アリシアは自室に戻ると、ベッドに横たわり『冒険者』という久しく聞いてない言葉に想いを馳せた。そして幼い頃、母に読んでもらった一冊の本を思い出す。
その本は蒸気機関が発達する前、世界がまだ闇と未知に覆われていた頃の童話。伝説の冒険者アーキボルト・スターリンクが世界を周り、様々な困難を乗り越えて、剣一本で龍を倒して姫を救い、民衆の祝福を受けて終わる英雄譚。
けれど物語と現実は違う。現実の冒険者は、働かずに一攫千金を狙うもの、社会からはぐれたならず者といった者が多く、軍隊、警察組織の台頭により、徐々にその数を減らしていった。
そして前年に、政府により民間人の『剣狩り法令』が公布されると、冒険者たちは廃業せざるを得なくなり、今は殆ど見られなくなった。
なぜ今さら、冒険者が父のもとへ現れたのか。そして、なぜ母のことを知っているのか……
胸の中に落ちた小さな疑問の種が、不穏な影を落としていた。
蒸気都市グラン・ロアの物語、第二幕。アリシア・フォン・ベルクの新たな物語が始まりました!
第二章から、更新ペースを変更します。
各章は二十話前後、一話あたり千〜二千文字弱を予定しています。前作を読んでいなくても楽しめる内容になっておりますので、初めての方もお気軽にお読みください。
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