第17話:魂のコンビネーション
「下がれ、お前たち。ここは私が引き受ける」
自爆した聖騎士たちの前に、一人の男が静かに歩み出た。
聖王国国境守備隊の最高責任者にして、国内屈指の実力者――聖騎士長ガイル。彼がその大剣を抜いた瞬間、周囲の空気が圧倒的な『聖なる魔力』で満たされ、シンの放つ漆黒の霧がジュウジュウと霧散していく。
「闇の魔導士よ。その棺を置いて投降せよ。さもなくば、我が聖剣の錆び露と消えよ!」
ガイルが地を蹴る。その速度は神速。
一瞬でシンの懐へと潜り込み、光を纏った大剣が鋭く一閃された。
ガキィィィンッ!!
「くっ……!」
シンは影の盾を展開して辛うじて受け止めるが、ガイルの圧倒的な腕力と聖なる魔力に押され、地面を削りながら後退する。
まずい、とシンは焦った。新米魔導士から急激に覚醒したシンは、圧倒的な魔力こそ持っているものの、『近接戦闘で追い詰められると、無意識に右側にステップを踏んで間合いを取る』という、昔からの不器用な癖(悪癖)があった。
ガイルはその隙を見逃さない。右側へ回り込み、シンの死角から確実なトドメの一撃を放とうとする。
(しまっ――!?)
シンの仮面の奥の瞳が、絶望に染まったその時。
「シン、右じゃない! 後ろへ跳んでっ!!」
ミキ(美紀)の鋭い悲鳴のような指示が響いた。
シンはその声に、本能的に身体を従わせ、右ではなく大きく後方へとバックステップを踏んだ。直後、シンのいた右側の空間を、ガイルの放った凄まじい光の斬撃が通り過ぎ、大地を爆砕する。
「な……なぜ私の狙いが分かった!?」
驚愕するガイル。
シン自身も驚いていた。なぜミキは、俺の隠れた戦闘の癖を、まるで何年も隣で見てきたかのように熟知しているんだ……!?
「今です、シン! 私の背中を、思いっきり蹴り飛ばして前へ押し出してください!」
「な、何を言って――」
「いいから早くっ! 私はシンのマントを着てるんだから、絶対に怪我しません!」
ミキの覚悟の瞳に押され、シンは泥をすするように「くそっ!」と叫びながら、ミキの小さな背中を、闇の魔力を込めた足で前へと蹴り出した。
「ひゃうぅぅぅっ!?」
破れぬ真紅の衣に包まれたミキのナイスバディは、シンの蹴りのエネルギーを受け、人間砲弾のようにガイルへと突撃していく。
突っ込んできた美少女にガイルが一瞬怯んだその瞬間、ミキの『仕様』が最悪の形で発動した。
「わ、わあああ! 止まらないぃぃぃっ!」
案の定、速度に追いつけず前方へ派手にズッコケるミキ。
しかし、その滑り込んだ先は――ガイルの股の下。
ドサッ! という衝撃と共に、ミキの豊かな双丘が、ガイルのガチガチの白銀の鉄甲(股間防具)を内側から全力でカチ上げる形になった。
「ごふぉっ……!?!?!?!?」
聖騎士長ガイルの顔が、見たこともない形に歪む。いくら最強の騎士といえど、そこは男の絶対の弱点。ミキのナイスバディによる規格外の『ラッキースケベ・ヒップアタック(前面)』を喰らい、ガイルは白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「た、倒しちゃいました……?」
お尻をついて座り込むミキ。だが、ハプニングはこれだけでは終わらなかった。
激しい突撃の摩擦のせいで、ミキの真紅の戦闘ドレスの『肩紐』がぷつりと千切れ、ミスリルの胸当てごと、その豊満な胸元がガバァッ! と全開になってしまったのだ。今回は下着(純白)を穿いている。穿いているが、それゆえに、その純白の布地が露わになり、限界まで押し潰された胸の渓谷が、シンの目の前で大解放された。
「ひゃあんっ! また脱げちゃったぁぁぁっっっ!!」
「ミ、ミキィィィッ!!貴様、何をさらけ出している、隠せ、早く隠せッ!!」
シンは血相を変え、ガイルの追撃そっちのけでミキの元へと飛び込んだ。
自分のマントで作った衣装だ。他の誰にも、例え気絶している聖騎士たちにさえ、一瞬たりとも見せるわけにはいかない。
シンは無我夢中でミキを抱き寄せ、自分の漆黒の外套で彼女の豊かな身体を包み込んだ。
ぎゅっと、強く。
「……あ」
密着する二人の身体。
シンの逞しい腕の中に、ミキの柔らかい身体がすっぽりと収まる。
仮面がズレ、シンの素顔の瞳と、ミキの瞳が至近距離で交錯した。
その瞬間、言葉を超えた【魂の共鳴】が起きた。
シンの脳裏に、かつて看病してくれたミキの温もり、スープの味、そして「エル」と「シア」の約束が、濁流のように押し寄せる。
目の前の、胸を赤くして震えている少女。容姿は違う。けれど、この魂の形、この瞳の光、俺の悪癖を知っているこの感覚。
「お前……まさか、本当に……美紀、なのか……?」
シンの声が、かつての優しい夫のそれに完全に巻き戻っていた。
仮面の奥から涙が一筋、シンの頬を伝って流れ落ちる。
ミキもまた、シンの胸に顔を埋め、涙をボタボタと溢れさせた。
「シン……やっと、気づいてくれた……?」
国境の戦火の真っ只中。
ついに、二人の魂が完全に重なり合い、最愛の妻の『正体』が、夫の心へと届いた瞬間だった。




