↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/19

第15話:消せない記憶、届かぬ正体(旅の道中)

看病の一件以来、二人の空気はどこか甘酸っぱいものに変わっていた。

ある日の夕暮れ。焚き火を囲みながら、シンは背中の十字架の棺を愛おしそうに見つめ、ぽつりと漏らした。

「……昔、妻と約束したんだ。もし、子供が生まれたら、男の子なら『エル』、女の子なら『シア』って名付けよう、ってな。……馬鹿げた、叶わぬ約束だが」

シンの寂しげな横顔。

その言葉を聞いた瞬間、ミキの胸に、前世の――あの幸せだった我が家での記憶が鮮烈に蘇った。その名前は、あの日、二人で笑いながら決めた、大切な、大切な名前だ。

ミキは胸がいっぱいになり、今の姿であることを忘れ、愛おしさを込めて自然に言葉を返してしまった。

「馬鹿げてなんてないよ。……だって、その子が大きくなったら、シンの優しい魔法を教えてあげるって、そう続けて約束したじゃない」

カラン、と。

シンが持っていた薪が、手から落ちた。

「お前……」

シンはゆっくりと振り返る。仮面の奥の瞳が、恐怖すら孕んだ驚愕に染まっていた。

「なぜ……それを知っている。その約束は、あの夜、俺と美紀の二人きりの部屋で話した、誰にも言っていないはずの秘密だぞ……ッ!?」

「あ……!」

ミキはハッと息を呑み、両手で口を覆った。やってしまった。

シンは立ち上がり、ミキの肩を激しく掴む。

「お前は、一体何者なんだ! なぜ美紀の言葉を知っている! 答えろ、ミキ!!」

シンの動揺と、必死な眼差し。ミキの目から涙が溢れそうになる。

「私が美紀なの!」と言いたい。けれど、女神との契約、そして今のこの身体の事実がそれを阻む。

「ごめんなさい、私……」

ミキが言葉を詰まらせた、その時だった。

「――そこまでだ、闇の魔導士。その少女から手を離せ!」

背後の街道から、無数の硬質な足音が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。