第13話:仮面の横顔と、不意打ちの言葉
無事に街の衣料品店へと駆け込み、ミキが「純白の布(ちゃんと穿いた)」を装備し直した後のこと。
夕暮れに染まる街の片隅のベンチで、二人は並んで座っていた。
ミキは、新調したばかりの下着の安心感にホッと胸を撫で下ろしつつも、隣に座るシンを盗み見ていた。
彼の膝の上には、遺跡で見つけた古文書。
顔には、いつもと変わらない不気味な炎と氷の仮面。
けれど、背中の大きな十字架の棺を下ろしている今のシンは、どこか、かつての優しい夫の面影を強く漂わせているように見えた。
「あの……シン。さっきは、その、本当にごめんなさい。私、嬉しさのあまり、色々と忘れちゃってて……」
ミキが恥ずかしさに指をもじもじさせながら謝ると、シンは古文書からゆっくりと顔を上げた。
仮面の奥の瞳が、夕日の赤を反射して静かに揺れている。
シンは小さく息を吐くと、古文書を閉じ、ぽつりと呟いた。
「……いや。責めるつもりはない」
「え……?」
冷たく突き放されると思っていたミキは、拍子抜けしてシンを見つめた。
シンはベンチの背もたれに体を預け、仮面を少しだけ上へとずらす。露わになった彼の口元は、ほんの少しだけ、本当に久しぶりに、柔らかく緩んでいた。
「ミキ……。何だかんだ言ったが、君のおかげで、こうして魔道書の手がかりも見つかった。……それは事実だ」
「シン……」
「俺一人では、あの隠し部屋には行き着けなかった。君の……その、不可解な行動のおかげだ」
シンは少し気恥ずかしそうに視線を外しながら、だが、真っ直ぐにミキへと向けて言葉を紡いだ。
「これからも……よろしく頼む。ミキ」
不意打ちだった。
いつも「消えろ」「ついてくるな」と氷のような言葉しかくれなかったシンが、初めて自分の目を見て、名前を呼んで、「よろしく頼む」と言ってくれたのだ。
その瞬間、ミキの胸の奥から、温かい感情が一気に溢れ出した。
(あぁ……シンだ。やっぱり、私の大好きな、優しくて不器用なシンのままだ……!)
見た目が変わり、中身がどれだけ復讐の炎に燃えていても、根底にある彼の優しさは消えていない。自分のマントを衣装にしてくれたことも、この言葉も、シンが少しずつ自分に心を開いてくれている証拠だった。
「……はいっ! こちらこそ、よろしくお願いします、シン!」
ミキは満面の笑みを咲かせ、シンの隣で大きく頷いた。
あまりの嬉しさに、ミキは勢いよく立ち上がろうとした。――が、案の定、自分の新調した戦闘ドレスの裾をベンチの角に引っかけてしまう。
「ひゃうっ!?」
お約束のようにバランスを崩し、ミキのナイスバディは隣のシンに向かって倒れ込んだ。
どさっ、という音と共に、今度はシンの膝の上にミキが抱きつかれるような形で着地する。今度はちゃんと下着を穿いているとはいえ、ミキの豊かな双丘がシンの胸元に隙間なく押し付けられた。
「あ、あの……これは、その、本当にわざとじゃなくてぇ!」
「……前言撤回だ。やはり君は、歩く災難そのものだな」
シンは呆れたようにため息をついた。けれど、仮面の下の彼の顔は、夕日のせいだけではない赤さで、耳まで真っ赤に染まっていた。
二人の絆が確かに結ばれた、静かで、少し騒がしい夕暮れ時のことだった。




