第10話:真紅の衣と十字架の剣
「絶対にダメ! このマントは返しません!」
翌朝、宿屋のロビーで、ミキはシンの真紅のマントをミノムシのように全身にぐるぐる巻きにして固辞していた。
シンは仮面の奥から冷ややかな視線を送る。
「……それは俺の装備だ。だいたい、そんな引きずるようなサイズでは歩きづらいだろう」
「歩きづらくないです! 転ぶのはマントのせいじゃなくて、私の仕様……じゃなくて、不可抗力ですから! これにはシンの……あ、お兄さんの温もりがあるから、絶対に離しません!」
頑としてマントを離そうとしないミキ。その一途な(シンにとっては不可解な)執念に、シンは呆れ半分、そして胸の奥がチクリと疼くのを感じていた。
結局、シンが折れる形で、二人は街の腕利きの仕立て屋へと向かった。
「ほう……こりゃまた極上の最高級生地だねぇ。旦那、このお嬢ちゃんの服に仕立て直せばいいんだね?」
仕立て屋の熟練の店主は、シンのマントを受け取ると目を輝かせた。
シンはカウンターに金貨を積み、ぶっきらぼうに告げる。
「ああ。そのマントの生地をベースに、この女の動きを邪魔しない衣装を作れ。……それと、防具屋を紹介しろ。まともな防具も新調する」
数時間後。
仕立て屋と防具屋の共同作業によって、ミキの新しい装備が完成した。
試着室のカーテンが開き、ミキが少し照れくさそうに姿を現す。
「あの……どうでしょうか……?」
その姿を見た瞬間、シンは仮面の中で息を呑んだ。
シンの真紅のマントは、見事にミキの**真紅の戦闘衣へと生まれ変わっていた。
さらに、その上に纏う軽銀の胸当てとプロテクター。それらは、ミキの豊満すぎるバストや、きゅっと引き締まった細い腰回りといった【圧倒的なボディライン】**を一切潰すことなく、むしろその砂時計のような美しい曲線を最高に際立たせる、芸術的なデザインになっていたのだ。
「旦那の注文通り、お嬢ちゃんの抜群のプロポーションを壊さないよう、特別に立体裁断で作らせてもらったよ!」
店主の得意げな声に、シンは思わず片手で顔(仮面)を覆った。
(……俺はただ、サイズが合わない防具では防御力が落ちるから、ジャストサイズを指定しただけだ。決して、こいつの破廉恥な身体に見惚れたわけではない……!)
激しく自己暗示をかけるシンだが、耳の裏まで真っ赤になっているのは隠しようがなかった。
「あ、あとね! 旦那からもう一つプレゼントがあるんだよ」
店主が奥から持ってきたのは、一振りの美しい片手剣だった。
ミキが今まで背負っていた無骨な大剣とは違い、軽量で鋭利な、洗練された白銀の剣。そしてその護拳の部分には、精巧な**『十字架』**の装飾が施されていた。
「これ……っ」
ミキは、その十字架の剣を両手で受け取った。
十字架。それは、シンが背負う美紀の棺桶に刻まれたものと、まったく同じ意匠。
「お前は大剣を扱える器用さがない。片手剣なら、少しはマシに立ち回れるだろう。……その十字架は、ただの魔力伝導の術式だ。深い意味はない」
シンはフイッと露骨に顔を背け、足早に店を出て行ってしまう。
「深い意味はない」なんて、そんなわけがない。シンは無意識のうちに、ミキを自分の『対』となる存在として、自分の色(赤)と、自分の象徴(十字架)で染め上げてしまったのだ。
「……ふふっ。ありがとう、シン」
ミキは、シンのマントから作られた真紅の衣装を愛おしそうになぞり、十字架の剣を胸に抱きしめた。
見た目は最高にかっこよく、そしてセクシーな女剣士へと大進化を遂げたミキ。
(これでお揃いだね。さあ、次は私がシンを助ける番だよ!)
新しい衣装に身を包んだミキは、ツンツンしながら先を歩くシンの背中を、幸せいっぱいの笑顔で追いかけるのだった。




