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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
……とあるものを拾ってしまいました。

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突然の訪問者。

パチーン


「アリアーヌ!!お、お前は……なんてことをしてくれたんだ!!」


エヴァンジェリン達が馬車で揺られている頃――


貴族たちの間では、夜会での出来事が瞬く間に広がっていた。


アリアーヌは叩かれた頬を押さえながら、老齢の男を見た。


「チ、チ、チョコトーレお父様……年若い少女の頬を叩くなんて酷いではありませんか!」


「年若い少女だと!?お前はすでに生き遅れという年齢だぞ!何を言っているんだ……」


「……ッ」


チョコトーレの言葉に何も言い返せないのか、アリアーヌは目に涙を浮かべる。


「はぁ……お前が王族になりたいと言うから、何とかユリウス第三王子殿下との婚約を漕ぎ着けたと言うのに……」


しかし、チョコトーレに涙は通用しなかった。


「ここまで愚鈍な娘だったとはな……」


チョコトーレは目の前で涙ぐむアリアーヌを気に留めることなく、大きな音を立てながら椅子に座ると、肘をついて頭を抱えた。


(まずいことになった……まさか……シルヴァリア公爵の娘が近くにいたとは……。ユリウス第三王子殿下のこともだ……)


チョコトーレはアリアーヌをギロリと見ると深い溜め息を吐いた。


「お、お、お父様……」


「はぁ……ここまで甘やかした私の責任もあるのか……」


チョコトーレは年遅くに生まれたアリアーヌを可愛がってきた。


それは妻の忘れ形見でもあったからだ。


(あの家を敵に回すことだけはしてはならない……王族を敵に回してもだ……)


「アリアーヌ。これから出掛けるぞ。お前も着いてこい。」


チョコトーレは椅子から立ち上がると、コートと帽子を被り、馬車に乗り込んだ。


何も理解していないアリアーヌはそんな父親の姿を見て、渋々後をついて行く。


その顔には不安……よりも、不満の方が勝っていた。


***


「エヴァンジェリンお嬢様。お客様がお見えです。」


馬車で揺られること数時間――


エヴァンジェリン達は本日泊まる予定となっていた高級宿屋に着いていた。


(やっぱり、自分たちが宿泊するところを整えておくのは大事よね。)


エヴァンジェリンの公爵領から、王都まで馬車で行くと一週間以上の距離がある。


その間、少しでも快適に過ごせるようにと考えたのが――


宿屋を整えるということだった。


宿屋にある執務室で収支報告書と睨めっこしていると、ヴィオラが現れた。


「……」


報告書から顔を上げないエヴァンジェリンを見て、ヴィオラは勢いよく耳を引っ張る。


グイッ


「イタタタタタタッッ……」


「この耳は飾りですか?」


「ご、ご、ごめんなさい。聞こえていなかったのよ。」


引っ張られた耳を押さえながら、ヴィオラを見れば、その顔にはデカデカと“話ぐらい聞けよ!仕事以外ポンコツなバカ娘”と書かれている。


(これは……また怒らせた……!?)


「はぁ……早くしてくださいませ。かれこれ一時間はお待たせしてるのですから……」


「えっ!?一時間……!?」


「はい。」


「それならもっと早く声を……」


「掛けていましたよ?何度も何度も何度も……でも気づかなかったんです。」


畳み掛けるように話すヴィオラに、何も言い返すことが出来ずにいると、扉を叩く音が聞こえた。


「エヴァンジェリンお嬢様……そろそろ……」


(この声はユリウスね……ナイスタイミングだわ!!)


エヴァンジェリンは、スっと立ち上がるとそのまま扉の方に向かって歩き出す。


「わ、わかったわ。すぐ行きます。」


ヴィオラはまだ話の途中だとばかりに顔をしかめたが、来客がいることもわかっているからか、それ以上何か言い返すことはなかった。


***


コンコン


「失礼いたします。」


エヴァンジェリンは宿屋の応接室に辿り着くとノックをしてから中へと入った。


「お待たせして申し訳ございません。」


中に入ると、ルドリオスと同年齢くらいの男と、エヴァンジェリンより少し年上の女が座っていた。


エヴァンジェリンが入った瞬間、男が立ち上がる。


「いえいえ、急に押しかけたのはこちらです。それに、そこまで待ってはおりませんのでお気になさらないでください。」


男がヘコヘコしながら話しかけているのが気に食わなかったのか、女はエヴァンジェリンをギロリと睨んだ。


(差が激しいわね……)


エヴァンジェリンが二人の前に座ると、男もソファに座る。


「それで……ご用件とはなんでしょうか?チョコトーレ・アルノワ侯爵。」


「私の名前を覚えてくださったのですか?」


額の汗を拭きながら前のめりになるチョコトーレ。


あまりの必死さに、エヴァンジェリンは思わず後ずさりした。


「ま、まぁ……」


(チョコレートみたいな名前で覚えていただけなんだけど……)


「それはそれは光栄です……」


「は、はぁ……」


チョコトーレは一度、大きく息を吸うと、深く頭を下げた。


「……それで、昨夜の件なのですが……その、うちの娘がご迷惑をかけたようでして……本当に申し訳ございませんでした。」


その言葉に、エヴァンジェリンはぱちりと瞬きをする。


「えっ? 昨日の夜? 全く覚えてないですけど。」


あまりにもあっさりとした返答に、室内の空気が一瞬止まった。


「……そ、そうでございましたか……」


その後何があったか、エヴァンジェリンに簡単に話していくチョコトーレ。


しかしエヴァンジェリンは興味が無いのか……どこか上の空だった。


「へぇ~……そんなことがあったんですねぇ。」


「はい……本当に申し訳ございません。」


(そんなに謝られてもねぇ。別にアルノワ侯爵家に何かあったところで痛くも痒くもないんだけどなぁ……王家だって別に興味無いし。)


エヴァンジェリンは他人事のようにそう言うと、少しだけ考え込むと、何かを思いついたように表情を明るくした。


「あー。そんなに申し訳ないと思うなら、協力してください。」


唐突な言葉に、チョコトーレが顔を上げた。


「協力ですか……?」


エヴァンジェリンはこくりとうなずくと、企んだような笑みを向ける。


「えぇ……」


その顔を見て、チョコトーレはゴクリと唾を飲み込んだ。


先ほどまでのほんわりとした雰囲気は消え、部屋中の温度が一気に下がる。


「私でできることでしたら。」


「それは助かるわ!あのね、アルノワ侯爵家で夜会を開いてほしいのよ。」


「夜会ですか……。」


エヴァンジェリンのお願いに、チョコトーレは目を見開いた。


「そう、夜会。その夜会にとある男を招待して欲しいの。あと、庭園にガゼボでも用意してくれると助かるわ。」


エヴァンジェリンは何をして欲しいのか書き記すと、チョコトーレに渡した。


「ここにやって欲しいことは全部書いてあるので。」


それを貰ったチョコトーレは懐にしまうと、もう一度改まった様子で言った。


「分かりました。後ほど拝見いたします。それと……もし可能でしたら、ユリウス第三王子殿下に会う機会をいただきたいのですが……」


「……ユリウス第三王子殿下ですか……?」


エヴァンジェリンは聞き覚えのない名前に首を傾げる。


「はい。こちらにいらっしゃるとお伺いしたのですが……」


(うちにユリウス第三王子がいるの!?そんな話、聞いたことないけど……)


一瞬、応接室の空気が止まった。


「えっ?そんな話初めて聞いたんですけど……そもそもうちにユリウス第三王子殿下なんているわけないじゃないですかぁ~。騎士のユリウスならいますけど……。」


その顔は至って真剣だ。


嘘を言っているようには見えなかった。


エヴァンジェリンの返しに、その場にいた誰もが、言葉を失った。


そして次の瞬間――


「(その騎士がユリウス第三王子殿下だよ!)」


心の中で同じ言葉を呟いた者が複数いた。


しかし、本気でわかっていないエヴァンジェリンに突っ込むものはいなかった。




***



コンコン


「お父様。お話があります。」


チョコトーレとアリアーヌが帰ると、エヴァンジェリンはルドリオスの所へ向かった。


「入りなさい。」


エヴァンジェリンが執務室の中に入ると、そこには母であるエヴァリーヌとルドリオスが隣に座っている。


まるでエヴァンジェリンが来るのを待っていたかのようだ。


「お父様もお母様も……私が来るのをわかっていらっしゃったんですね。」


返事をすることなく紅茶を啜る二人に、エヴァンジェリンは思わずため息を吐いた。


(すべて見透かされていたってところね)


「それで……話とはエヴァのバルティオスのことかい?」


早速本題に入っていくルドリオス。


「はい。単刀直入に言わせていただきます。あの男と婚約破棄をさせていただきたいのです。」


エヴァンジェリンは少し下に視線を下ろすと、拳をギュッと軽く結んだ。


シルヴァリア公爵家の一人娘である以上、婿を取りこの家の跡取りを産むことが大切なことは分かってはいる。


だが――


それでもエヴァンジェリンには譲れないものがあった。


「あの男は……この家の……」


公爵になろうとしている……と続けようとすると被せるように一言。


「いいよ。婚約破棄。」


まるで、「遊びに行ってくるから」とでも言うように軽いノリで返す父に、エヴァンジェリンは思わず固まった。


「えっ……」


そんな娘が珍しいのか……エヴァリーヌがクスリと笑う。


「クスッ……あなたでも固まることがあるのねぇ。」


そして、エヴァリーヌはエヴァンジェリンに近づくと、そっと手を添えた。


「エヴァンジェリン。あなたの人生なんだから、あなたの好きにしたらいいわ。それに……私達もあの男との婚約は反対だったから、ちょうどいいと思ってたのよ。」


「ガルディオ侯爵は真面目な方なんだがなぁ……子供の教育がなっていない。」


エヴァリーヌに続くように、ルドリオスが話す。


「まっ、そういうことだからお前の好きにしなさい。私達はエヴァのことを信じているからね。」


エヴァンジェリンはゆっくり顔を上げると、両親の顔を見た。


「ありがとうございます。お父様、お母様。」


そう言った声は、思った以上に晴れやかだった。

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