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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
三領地記念祭。

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ちょっと待った!

ドドンッ!


「皆の者!! 聞いてくれ!!」


中央広場に設置された壇上。


そこには、開会式のときとは違い、三領地の次期代表となる三人が正装の姿で立っていた。


音楽に合わせて踊る者。


屋台で買った料理を頬張る者。


酒を掲げ、笑い合う者。


貴族や平民の区別なく、誰もが同じ空の下で、この祝祭を楽しんでいる中――


三人が並んで立つその姿に、自然と人々の視線が集まり始めていた。


ドドンッ!!


もう一度、太鼓の音が響き渡る。


刹那――


先ほどまでざわめいていた場内が、嘘のように静まり返った。


「お楽しみのところ申し訳ない。だが、皆に聞いてほしいことがある」


アウレリウスが一歩前へと進み出る。


その声音は決して大きくはない。


だが、不思議と広場の隅々まで届いていた。


「この国に住む皆にとって――とても大切な話だ」


続くようにレオニダスが低く告げると、作業をしていた者たちも手を止め、壇上へと視線を向ける。


パチ、パチ……


壇上脇の松明がはぜる音だけが、やけに大きく耳に残った。


たった数秒のはずなのに、やけに長く感じる。


妙な緊張感が漂う中、壇上を見つめる者たちは「何が始まるのか」とごくりと息を呑んだ。


その瞬間――


二人より後ろにいたはずのエヴァンジェリンが、一歩前へと踏み出した。


「三領地記念祭が始まって一週間。ここまで大きな事件もなく、楽しく進めることができたのは、皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。」


エヴァンジェリンが深く頭を下げると、それに合わせるように、アウレリウスとレオニダスも同じく頭を下げた。


――次期代表が、平民に向けて、深々と。


その光景に、広場の空気が凍りついた。


平民たちは、目の前の光景を見て思わず固まる。


それもそのはずだ。


貴族が平民に頭を下げるなんてことは今までなかったからだ。


「あ、頭を上げてください。」


「そ、そうです。感謝したいのは私たちの方です。」


近くにいた領民が、次々にエヴァンジェリンたちに声をかけた。


それからゆっくりと三人が頭を上げると、一拍置いてから話を続けた。


「皆さんに大事な話があります。」


エヴァンジェリンは広場をゆっくりと見渡した。


「この一週間で、私たちは確信しました。」


「この三領地は――身分ではなく、志で繋がる場所だと。」


「そして今、その志を共にしてくださる方がいます。」


まるで初めから決まっていたのではないかと言わんばかりに整えられた言葉。


エヴァンジェリンの後をアウレリウスとレオニダスが続く。


広場の視線が自然と一点へと集まると同時に、三人の言葉が重なった。


「この国の未来を、本気で考え、責任を背負う覚悟を持つ方です。」


――次の瞬間。


人垣が、ゆっくりと割れた。


ざわり、と広場が揺れる。


現れたのは――


静かな足取りで歩み出る、一人の青年。


銀の髪が松明の火に照らされ、淡く輝いた。


その姿を認めた瞬間、誰かが息を呑んだ。


「……ジークハルト第二王子殿下……?」


「……おい、あれは本物か。」


「ま、まさか……ユリウス殿下だけでなく、ジークハルト殿下まで追放されたのか……」


一人の言葉を皮切りに、ざわめきが一気に広がった。


「どういうことだ……」


「王都で何があったんだ」


「まさか、本当に……」


戸惑いと不安が混じった声が、広場を揺らす。


だが――


ジークハルトは歩みを止めない。


ざわめきの中を、まっすぐ壇上へと進み、エヴァンジェリンの隣に並び立った。


その横顔は、かつて王都で見せていた迷いの色はなく、ただ静かに、前を見据えている。


ゆっくりと民衆を見渡し――


深く、頭を下げた。


その瞬間、再び広場が静まり返った。


「楽しい時間を邪魔してすまない。今日は皆に報告があってきた。」


ジークハルトはエヴァンジェリンへと視線を送り、静かに頷いた。


二人の赤い瞳が、松明の炎のように強く輝く。


その時――


「ちょ、ちょっと待ったぁぁ!!」


低く響く、聞き覚えのある声が広場に木霊した。


ざわり、と再び空気が揺れる。


誰もが声のした方へ振り返った。


そこに立っていたのは――


「ユリウス!?」


銀髪を風に揺らしながら、仁王立ちで不機嫌そうにこちらを睨んでいる、


ユリウス・アッシュ・セレニア第三王子だった。


ユリウスは人垣をわけながらズンズンと壇上に進んでいく。


「兄上、俺は反対です!!」


ユリウスの言葉に広場どころか、エヴァンジェリンすらも驚きを隠せないでいた。


もちろんジークハルトもだ。


「反対って何がだ……。これはこの国のことを思えばこそ、大切なことなんだぞ!?」


ジークハルトが静かに返すと、ユリウスには聞こえていないのか……


「だからだ!大切なことは他にも沢山あるだろ!? 俺は絶対認めないぞ!」


ずんずんと壇上へ上がり、ジークハルトとエヴァンジェリンの間に割って入った。


「勝手に決めるな! 俺を差し置いて――」


ユリウスは拳を強く握りしめて、深く息を吐くと、


「エヴァンジェリンとの婚約を発表するなんて、認めない!!」


まさかの言葉に、その場にいた全員が動きを止めた。


ざわめきが奇妙な沈黙へと切り替わる。


松明の火だけが、ぱちりと音を立てた。


と、同時に……


「…………は?」


エヴァンジェリンの間の抜けた声が、夜空へと溶けていった。

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