表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
三領地記念祭。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/65

嵐の前触れ。

「じゃ、私は一旦帰るわね。」


それから数日――


ある程度目処が経った事もあり、エヴァンジェリンたち一行は王都を後にしようとしていた。


「本当に……行ってしまうのか?」


寂しそうな顔をするジークハルトを見て、エヴァンジェリンはクスリと笑う。


(……これじゃ、どっちが年上か分からないわね)


「すぐに会えるわ?だからお兄様も書類仕事頑張って。」


あの一件以降、二人の関係は少し変化していた。


エヴァンジェリンはジークハルトを“お兄様”と呼ぶようになり、ジークハルトはエヴァンジェリンを“妹”と呼ぶようになった。


血は繋がっていない。


だが、それ以上に確かなものが、二人の間にはあった。


「……妹に心配される王というのも、情けないな。」


「情けなくないわよ?私が育てたんだから、ちゃんと立派な王になってもらわないと困るもの。」


「誰が育てられたんだ。」


軽口を叩き合いながらも、ジークハルトの胸の奥には温かいものが灯っていた。


「王都は任せて。」


「えぇ。任せたわ、お兄様。」


馬車がゆっくりと動き出す。


ジークハルトは、その姿が小さくなるまで見送り続けた。


***


「さて、私たちは次のことを考えないとね」


「三領地記念祭……か」


ジークハルトが見えなくなるのを確認すると、エヴァンジェリンはアウレリウスとレオニダスに声をかける。


「本当だったらお父様たちも交えて話したかったんだけど、記念祭まで時間もないしここで話しながら進みましょ。」


記念祭まで三ヶ月の月日があったはずが、いつの間にか残りの準備期間は一ヶ月を切っていた。


それだけ――王宮の内情は荒れていたということだ。


「武闘大会は何とかなりそうだと、ルカリオスから連絡があったが……」


アウレリウスがルカリオスから届いた手紙を取り出す。


「それ以外のメインイベントがな……商人達はどんどん集まってきているようだが……」


アウレリウスに続き、レオニダスも別の手紙を取り出した。


エヴァンジェリンが忙しい時にそれぞれ動いてくれていたようだ。


「ふふっ……メインイベントねぇ……」


メインイベントと聞いて、エヴァンジェリンはニヤリと笑う。


その顔を見た瞬間、二人の額を汗が伝った。


「おい……あの顔は……」


「いや……俺は何も見ていない……見ていないぞ……」


エヴァンジェリンに聞こえないように小さい声で囁く二人。


カラカラカラ


馬車の進む音も重なって、エヴァンジェリンには聞こえていないようだ。


だが――


エヴァンジェリンはそんなこと気にもとめずに……


「用意してあるわ!!ふふっ……完璧なメインイベントをね……」


エヴァンジェリンの楽しそうな声が、馬車の中に響き渡った。


((嫌な予感しかしない……))


二人はエヴァンジェリンに振り回される未来を想像して、ため息を吐いた。


***


「ユリウス!!エヴァから手紙が来たぞ」


その頃――


シルヴァリア公爵邸では、ルカリオスがエヴァンジェリンからの手紙を手に持って執務室に走っていた。


「なんだって!?」


エヴァンジェリンがシルヴァリア公爵邸を出て二ヶ月。


記念祭まで残り一ヶ月しかないと言うのに、今の今まで一度たりとも連絡してくることがなかった。


ルカリオスの声に、ユリウスは机をバンッと叩いて立ち上がる。


「な、なんて書いてある!?」


ユリウスは急かすようにルカリオスに近づくと、ほとんど奪うように手紙を引き取った。


封蝋には、見慣れたシルヴァリア家の紋章。


だが――


「……なんだ。この蝋……踊っているみたいじゃないか?」


「まさか……そんなわけ……あるな……」


均一ではなくところどころ波打っている紋章に、二人は嫌な予感を感じた。


視線を合わせると、ゴクリと唾を呑む。


それからゆっくり封を切った。


―――――


親愛なるユリウス、ルカリオスへ


二人は元気かしら?


私は元気よ。


王都は相変わらず騒がしいけれど、面白いことになっているわ。


あなたたちは準備、進んでいるかしら?


三領地記念祭だけど――予定を少しだけ変更するわね。


武闘大会はそのままでいいわ。


商人区画も問題なし。


ただし、メインイベントは私が用意するわね。


とびきり華やかで、とびきり記憶に残るものにする予定よ。


三領地の力。


結束。


そして、“この国のこれから”を示す舞台になるわ。


心配はいらない。


全部、うまくいくから。


あぁ、それと、当日は想定よりも“立場の高い方々”が来る可能性があるわ。


だから席は多めに用意しておいてね。


それと高級宿屋の手配もお願いするわ。


警備は一段階引き上げてちょうだい。


詳しくは当日のお楽しみ。


ふふっ。


王都より愛を込めて。


エヴァンジェリン


―――――


「いや……普通か……?」


ユリウスは眉をひそめた。


確かに内容だけ見れば、準備の確認と警備強化の指示。


いつものエヴァンジェリンらしい。


だが――


(なんだか、違和感があるんだよな……)


その時。


「……おい。」


ルカリオスが、手紙の一文を指差す。


“この国のこれから”


「これ、どういう意味だ?」


ユリウスは無言でその一文を見つめる。


―――――


三領地の力。


結束。


そして、この国のこれから。


―――――


「三領地の話だろ?」


「いや……それだけなら“三領地のこれから”と書くはずだ。」


二人は一度視線を合わせると、ゆっくり手紙に視線を戻した。


「“この国”って書いてあるな……」


その瞬間、空気が少しだけ重くなった。


「……王都で何かあったのか?」


ルカリオスが呟く。


「だが、連絡は来ていない。」


「だからこそ、だ。」


ユリウスはゆっくりと手紙を折り畳んだ。


「見なかったことにするか。」


「いや、もう無理だろ。」


ユリウスの言葉にルカリオスはすかさずツッコミをいれる。


「だよな……と、いうか……この、“立場の高い方々”ってのも引っかかる。」


「王族か?」


「……それなら“王族”と書くはずだが……」


今回王都に呼ばれた可能性を考えると、王族が来るとしたら和解でもしない限り無理だろう。


(父上が和解するとは思えないんだが……)


曖昧にぼかしているのが、逆に怖い。


「……嫌な予感しかしないな。」


ルカリオスが天井を仰ぐ。


ユリウスは小さく息を吐いた。


「普通の祭りになると思うなよ、ということだろう。」


その言葉に、二人は同時に頷く。


「……準備、急がせろ。」


「警備は二段階上げるか?」


「いや、三段階だ。」


ユリウスは王都のある方を見た。


三領地記念祭。


祝祭のはずだ。


だが。


「嵐の匂いがする。」


小さく呟いた。


二人の頭の中からエヴァンジェリンの心配は消え去っていた。


代わりに浮かんだのは――


盛大な嵐の予感だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ