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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
王宮。

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王の覚悟。

「よくもまぁここまで……」


王宮の執務室――


ジークハルトが国王になって数日。


新体制となった王宮は忙しなく動き回っていた。


「ジーク。口を動かす暇があったら手を動かしなさい……じゃないと私が帰れないじゃない。」


ジークハルトが山のように積まれた書類を見下ろしながらため息を吐くと、隣から可憐な少女の声が聞こえてくる。


(声は可愛いはず……だが……動きは可愛くないな)


彼女はジークハルトに視線を移すことなく、目の前の書類を物凄いスピードで処理していく。


(……これが、エヴァンジェリンか。)


ジークハルトはエヴァンジェリンから目の前の書類に、視線を戻した。


すると――


ドンッ


「はいっ。これ追加分ね。必要の無い書類は全部避けてあるから、ちゃんと目を通してね。」


「エ、エヴァ……こ、これはさすがに多いんじゃないか?」


「ふふふ……大丈夫よ?このくらいで死ぬことはないから……」


積み上げられた書類に遮られ、エヴァンジェリンの顔は見えない。


だが、いつもより低めの声が落ちてくる。


その瞬間、嫌な汗が背中に垂れた。


「せめて、あなたの兄弟が仕事できたら良かったんだけど。クズはクズのままだったわね。」


――アーノルドが王位を譲った日。


エヴァンジェリンは、アルベルトとヴァルターに選択肢を与えた。


いや、与えようとした。


『あなたたちには選択肢を与えてあげるわ。』


『選択肢……だと?』


『えぇ。ちゃんと働くなら処遇を考え直すと言ってるのよ。』


しかし、さすがはアーノルドの息子である。


『俺は、セレニア国の王太子。次期国王になる男だぞ。なんでそんな口の利き方をするんだ。不敬に値する!』


『そうだ、そうだ!お前なんかすぐ処刑してやるからな!』


謁見の間の出来事を見ていたというのに、現状は理解していなかったらしい。


二人の言葉を聞いた瞬間、未来が暗いことだけは全員が理解した。


「まっ、そのおかげで早々に始末できて助かったけど……」


容赦の無い言葉を淡々と並べる。


「下手に残しておいたら、かき乱すだけだっただろうし」


そんなエヴァンジェリンの言葉を聞いてジークハルトは――


(敵に回さなくて良かった……)


と安堵の息を漏らした。


「そういえば……アーノルドたち王族の処遇はどうするんだ?」


ジークハルトはずっと気になっていたことを口に出す。


すると、エヴァンジェリンは死んだ魚のようだった瞳が、一瞬で生き生きと輝いた。


「ふふふ……それは秘密!!」


「そ、そうか……」


「でも……そうね。楽しいことが待ってるのは間違いないわ!」


楽しそうに話すエヴァンジェリンを見て、思わず顔が引き攣る。


「どうしたの……?いつもの絵を貼り付けたような笑みが崩れてるわよ?」


「いや……別に……」


「そ?ならいいけど……」


エヴァンジェリンが軽く肩を竦めるのを見て、ジークハルトは小さく息を吐いた。


(やっぱり……エヴァには敵わないな)


グシャ


思っていたより手に力が入っていたのか、持っていた書類にしシワが寄った。


(お飾りの王か……)


王にはなったが、実権を握っているのはエヴァンジェリンだ。


そのことにジークハルトは不甲斐なさを感じていた。


「できるわよ。あなたならね。」


まるで全てを見透かしているような声が、書類の向こう側から聞こえてくる。


「だって、私にとってあなたは兄のような存在だもの。お父様だってあなたを息子のように思っているわ。」


ジークハルトが初めてシルヴァリア公爵邸に来たのは八歳の時――


エヴァンジェリンはまだ四歳だった。


それから数年間、ルドリオスの元で色々と学んできた。


「今は、まだ時期が早いだけ。」


「あなたが本当の意味で国王になる瞬間は、私が用意する。」


「だから待っていてね――お兄様。」


その言葉は、家族は血だけではないのだと、ジークハルトに静かに教えていた。


王家の血を引いているかどうかではない。


誰と共に歩むのか。


誰が隣に立ってくれるのか。


それこそが――王の資格なのだと。


ジークハルトはゆっくりと目を閉じる。


そして、小さく息を吐いた。


「……頼りにしている、妹。」


まだ未熟でもいい。


支えられながらでもいい。


一歩一歩前へと進む。


それが――新たな王の覚悟だった。

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