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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
何かが足りない……。

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三領地会議。

パンッ


「さっ、話を始めましょうか。」


ルドリオスとの交渉から数日――


シルヴァリア公爵邸には、三領地の次期代表が集まっていた。


「それで……話とは一体なんだ?」


レオニダスは苦い顔をしながら、エヴァンジェリンに話しかける。


「あぁ~……嫌な予感しかしない……」


レオニダスの隣で、アウレリウスは真っ青な顔をしながら、エヴァンジェリンから顔をそらしている。


「あら、嫌な予感って失礼じゃない!? 今までだってそんなに変なお願いしてきたつもりはないんだけど!」


彼女の言葉に、二人はブンブンと首を横に振った。


「「いや、それはないだろ!」」


レオニダスとアウレリウスの言葉が重なる。


「高速で道を横断する鉄の箱に、話し声を届ける話箱……海を渡るための鉄の船に、領地を広げるための数々の箱……たった一年だぞ!? どれだけ大変だと思っているんだ。」


「それだけじゃない……軍事力を上げるための武器づくりに、国民全員を管理するために戸籍を作ることだってそうだ……いくらそれぞれの領地に官吏を置いたって、一年で行うには時間が足りなさすぎるくらいだ。」


アウレリウスが一年で行ってきた政策を指で折りながら話していくと、レオニダスがそれに続いた。


「「ほんっとうに大変だったんだからな!!」」


二人は机をバンッと叩くと、勢いよく立ち上がった。


その姿を見ても二人がどれだけ苦労したのか……エヴァンジェリン以外の全員はよくわかっていた。


それもそのはず――


エヴァンジェリン以外の全員は皆、被害者……いや、同志といっても過言ではないからだ。


二人の姿を見て、ユリウスやルカリオス、それに管轄地となったルピナスト伯爵領……基、ヴィオラまでもが同じように首を縦に振る。


「えぇ~……でもできたんでしょ? だったら……」


「「よくない!!」」


エヴァンジェリンはぷくりと頬を膨らませた。


「どうしてよ。結果が出てるんだから、成功体験として喜ぶところじゃない」


エヴァンジェリンは、シルヴァリア公爵領で行ってきたことだからこそ、同じ内容を行うだけであれば、そんなに時間をかけずにできると考えていたのだ。


一から構築していくわけではない分、簡単だろうと踏んでいたのである。


しかし、それには大きな落とし穴があった。


いくら図面や、政策方法が記載されたものがあったとしても、作るのはシルヴァリア公爵領に住む人々ではなく、それぞれの領地に住む人々。


今まで、エヴァンジェリンの無理難題を解決してきたシルヴァリア公爵領の領民とは訳が違う。


「成功体験にも限度がある! いくら図面や政策方法が書いてあったとしても、初めてやることなんだぞ!?」


レオニダスが額を押さえる。


「お前の“ちょっと思いついた”はな、普通の人間の十年分なんだ!」


「そうだ! “便利そうだから”で国の形が変わるんだぞ!?」


アウレリウスも続く。


「鉄の船も、話箱も、戸籍も、全部“ついで”だったじゃないか!」


「ついでは便利でしょう?」


「規模がついでじゃないんだ!」


部屋の空気がわずかに熱を帯びる。


だが、その中心でエヴァンジェリンだけが首を傾げていた。


「……だからって……今やらないと、いつやるのよ。永遠に先延ばしになるわ!」


その声が、不意に静かになる。


先ほどまでの軽さが、すっと消えた。


「三領地は、もう動き始めている。いい。国王陛下がこの同盟に気付いているとは思えないけど、他の領地の人たちはこの同盟を色々な思惑から見ているの。参加したい領地もあれば、同盟ができたことで、私たちが国を乗っ取ろうと企てているのではないかと思う人たちもいる。」


レオニダスとアウレリウスが言葉を失う。


「だからこそ、立ち止まることはできないのよ。勢いは怖い。でもね、勢いがある今しかできないこともあるの」


赤い瞳が、真っ直ぐに二人を射抜いた。


「――今回計画を立てている記念祭もその一つよ!」


「「記念祭……!?」」


初めて聞く言葉に、またしても二人は首を傾げた。


二人は、“すぐに集まるように”と指示はあったものの、それ以上のことに関して何も聞いていなかったのだ。


「そう、三領地同盟ができてもうすぐ一年。タイミングもピッタリだし、お祭りをしようということになったの!」


「……」


レオニダスとアウレリウスの間に無言の時間が流れる。


それは、なんと返していいか分からないようにも感じた。


「その、記念祭?とは何をするんだ?」


レオニダスが重々しい空気の中、低い声で問う。


それに対し、エヴァンジェリンはにこりと笑った。


「まずは武闘大会ね。」


「舞踊大会?」


“武闘”という言葉にあまり馴染みがないのか、踊る方を想像するアウレリウス。


「違うわ! 全く兄弟揃って感覚が同じなのね。踊るじゃなくて戦うほうよ。こうやって……」


エヴァンジェリンは両手をギュッと握りこぶしを作ると、前に向かってパンチを繰り出した。


「拳と拳をぶつけ合うの。もちろん武器も使用していいわ!」


「武闘大会か……なかなか新しい試みだな。」


「あぁ、楽しそうだ。俺も参加していいのか?」


元々辺境伯家として代々セレニア王国を守ってきたレオニダスは、目を輝かせた。


「もちろんよ!! あとは武闘大会の他にも……」


彼女は机の上に地図と数枚の書類を広げた。


「商業市を同時開催するの。三領地の商会を一斉に集める。登録制にして、他領の商人も参加可能」


ルカリオスが目を細める。


「……内ではなく外に開くのですね」


「そう。閉じた同盟じゃないと示すために」


アウレリウスもルカリオスと同じように目を細めると腕を組んだ。


(こうやって見ると……本当に兄弟なのね。そっくりだわ。)


「それで?」


「人材募集も同時に行うわ。武闘大会は軍事人材、商業市は商人と技術者の発掘。さらに――」


赤い瞳がわずかに光る。


「三領地合同の技術展示よ。鉄の船、話し箱、高速箱。全部見せるの」


部屋の空気が止まる。


「……は?」


「お前……正気か?」


「隠しているから疑われるのよ。見せればいい。『私たちは発展している』って……ね?」


ユリウスが静かにつぶやいた。


「牽制……ということか?」


「そういうこと!」


ユリウスの言葉にエヴァンジェリンはうなずくと、そのまま話を続ける。


「三領地は危険な同盟じゃない。成長している共同体よ、とね」


アウレリウスはエヴァンジェリンの言葉を聞いて、ゆっくりと息を吐いた。


レオニダスは武闘大会の言葉を聞いて、楽しみの方が勝っているのか、目を輝かせながら「やろう!武闘大会!!」と拳を突き上げている。


「つまり――」


「宣伝と、牽制と、人材獲得。全部まとめてやるの」


エヴァンジェリンが目を細めながら、にぃ~っと口角を上げると、指を三本たてた。


「一石三鳥?」


「規模が三鳥じゃない!」


アウレリウスが即座に返した。


だが、その目はもう完全否定ではなかった。


「ふふ……ありがとう! それはお褒めの言葉として受け取っておくわ。それで、レオニダスもアウレリウスも、手伝ってくれるわよね?」


((褒めたわけじゃないんだがな……))


二人は何も言い返すことができないのか……


ただただその場でうなずいた。

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