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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
何かが足りない……。

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交渉。

「記念祭についてはわかった。だが、やるには金もかかる。その辺はどうするつもりなんだい?」


数日後──


エヴァンジェリンは、父ルドリオスに競技祭について話をすると、反対することなく淡々と事実を突きつけてくる。


(普段はポワポワしているのに、こういう時は頭の回転が早いのよね)


目の前には、いつもの優しい笑みを浮かべたルドリオスはいない。


代わりにいるのは、公爵の顔をしたルドリオスだ。


「お父様にそう言われると思っていましたので、今回競技祭をした時のかかる費用、それと売上などの見込みを出させてもらいました。」


予算書をルドリオスの前に出せば、持ってきた書類に視線を送る。


二人の間に沈黙が流れる。


(この間が、一番怖いのよね……)


普段ほとんど怒らないルドリオス。


好きな事をやらせてくれるし、嫌だと言えばそれ以上言ってくることはない。


現に婚約話が無くなってからというもの、別の人との婚約話が上がってくることはなかった。


だが、大金が動くとなれば話は別だ。


(まぁ、領民の命にも直結することだから、慎重になるのは当たり前よね)


一枚一枚、真剣な表情で目を通していくルドリオスを見て、エヴァンジェリンはごくりと唾を飲み込んだ。


「……エヴァンジェリン」


「はい、なんでしょうか。お父様。」


「これは、失敗したら我が領地だけでなく、三領地全てが失墜する可能性が高い。それは分かっているんだな?」


感情を表に出すことなく、ルドリオスは淡々と言葉を続けた。


その声は静かで、しかし一切の逃げることは許さないと言っているのがわかる。


エヴァンジェリンの背中に一筋の汗が流れる。


(こういうときのお父様は……本当に怖いわ……あの目は獲物を狙う鷹にそっくり)


普段、すぐに返事をするエヴァンジェリンだが、ルドリオスの態度に一瞬言葉を飲み込んだ。


「……はい、わかっています。」


「言い淀んだということは、自信が無いんじゃないか? 自信が無いなら、無理する必要は無いんだぞ。」


エヴァンジェリンは一瞬目を閉じて、深く息を吸う。


そして、今度はルドリオスの目を真っ直ぐに見据えた。


「……自信が無いわけじゃありません」


いつもよりも静かな声が、執務室に響き渡った。


それは、全てを覚悟している声だった。


「ただ、失敗した時の重さを、ちゃんと分かっているだけです。三領地同盟は、私一人の思いつきで壊していいものじゃない。」


エヴァンジェリンは拳をぎゅっと握る。


「でも――それでも、やる価値はあると判断しました。今、動かなければ、三領地は“まとまっただけ”で終わります。」


「……」


エヴァンジェリンが一度言葉を区切るが、ルドリオスも話そうとはせず、そのまま次の言葉を待つ。


「人を集め、力を見せ、ここが“選ばれる場所”だと示す。その第一歩が、この記念祭です。」


ルドリオスはしばらく黙ったまま、エヴァンジェリンを見つめる。


やがて、小さく息を吐く。


「……覚悟はある……ということだな。」


先ほどまで、迷い猫のような顔をしていたエヴァンジェリンだが、ルドリオスと話したことでその迷いは一切なくなっていた。


そして、エヴァンジェリンの赤い瞳がキラリと輝く。


「はい。失敗した場合の責任も含めて、すべて引き受けるつもりです。」


その言葉に、ルドリオスはゆっくりと椅子に背を預けた。


「まったく……誰に似たんだろうな……」


そう呟きながらも、その表情はわずかに微笑んでいる。


先ほどまでの張り詰めた空気が、少しずつ解けていく。


「あら、お父様とお母様の娘ですもの、似たのであれば二人に似たのです。」


「はは……そうだな。」


そこには既に公爵であるルドリオスではない。


一人娘を大切にする親の顔をしたルドリオスが座っていた。


「分かった。条件付きで、この計画を認めよう。ただし――」


視線が鋭くなる。


「警備と資金管理は、徹底的に詰めろ。これは祭りじゃない。“国家規模の賭け”だ。」


「ありがとうございます、お父様」


エヴァンジェリンは、ルドリオスに深く頭を下げると、執務室を後にした。


ルドリオスは扉から出ていく彼女を見て、小さく呟く。


「……もう、子供じゃないな」


「そうですね」


ルドリオスと従者の声が、執務室の中に木霊した。


その一方で――


「やったわ!! お父様から許しをもらえた。早速話を進めましょ!!」


廊下ではエヴァンジェリンの声が屋敷全体に響き渡る。


「ククッ……子供じゃないと言ったが、ああ言うところは子供で安心したよ。」


「そうですね……(あなたも昔はあんな感じでしたよ)」


従者は目の前で笑うルドリオスを見て、苦笑した顔でため息を吐いた。


「ん……? なんか言ったか?」


「いえ、何も……それより、紅茶をどうぞ。」


従者が紅茶を差し出すと、ルドリオスはカップを手に取った。


「まぁ、今回は見守ろうか」


ルドリオスは未だに廊下に響き渡る娘の声を聞きながら、目の前にある書類へと視線を移した。


***


「レオニダス様。エヴァンジェリン様からお話箱が来ております。」


「なんだって……(嫌な予感しかしないぞ)」


「アウレリウス様、エヴァンジェリン様からお話箱が……」


「な、なに……出来ればいないと言ってくれ……」


エヴァンジェリンがルドリオスとの話を終えて数十分後――


レオニダスとアウレリウスのところには、エヴァンジェリンから話し声を繋げる箱に連絡が届いた。


エヴァンジェリンからの連絡に気付かなければよかったと思うのは……


それから数日後のことだった。

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