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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
三領地同盟。

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地図の上に繋がる線。

「じゃあ、話し合いをはじめましょうか!!」


エスペリア公爵邸応接室――


そこにはエスペリア公爵一家と、エヴァンジェリン、そして――クラウディウスの兄、レオニダスが集まっていた。


「な、何故……レオニダスまでいるんだ……」


一人言のようにユリウスがつぶやくと、レオニダスにも聞こえていたのか、彼はユリウスに視線をやるとウインクした。


「ウインクなんかしなくていい……」


ユリウスはウインクを飛ばし返すようにシッシッと手を振ると、そのやり取りを見ていたエヴァンジェリンが、くすりと笑った。


「二人とも仲がいいのね」


「いや、どこをどう見たらそういう解釈になるんだ!?」


「まっ、悪いことじゃないんだしいいじゃない。それよりも、今はこっちの話を詰めましょう。」


彼女は二人の仲の良さにそこまで興味がないのか、適当に会話を終える。


そして――


ばさり


どこから取り出したのか、応接室のテーブル一面に大きな紙を一枚置いた。


「ついに完成いたしました」


それは――


セレニア王国全体の地図だった。


しかもその地図は今までの漠然とした地図ではない。


ユリウスは、地図に描かれた無数の線と文字から目を離せずにいた。


街道、港、山脈、川――


それらは王城で見てきた、装飾ばかりの地図とは比べものにならないほど、現実的で、生々しい。


(……これ、今まで使っていた地図より詳しいぞ……)


そう思った瞬間、背筋にひやりとしたものが走った。


「エスペリア公爵と、ヴァリオン辺境伯にご尽力いただいたお陰です。」


エヴァンジェリンが取り出した地図を目にすると、その場にいた全員が立ち上がって「おぉぉ~」と拍手をする。


「やっと……ですか。」


「いやぁ~この数年大変でしたなぁ。」


「本当に……皆さんのご協力のおかげです。ありがとうございます。」


レオニダス、カーリウスに続き、エヴァンジェリンも頭を下げた。


そんな中、ユリウスだけが話についていくことができず、目の前の光景に目を見開いてから、恐る恐る口を開いた。


「あのぉ~……エヴァさん?この地図は一体……?」


「ん?この地図は皆に協力してもらって作った地図よ?」


「いや、それは見ていればわかる。そうじゃなくて……だな……」


「じゃあ、何?」


はっきりしない言い方をするユリウスに苛立ちを見せるエヴァンジェリンだったが、ユリウスは臆することなく彼女に言い放った。


「この話は国王陛下に伝えているのか?」


ユリウスの“国王陛下”という言葉に、その場にいた全員が一斉に地図から顔を上げた。


そして、顔がもげそうなほどの勢いでエヴァンジェリンを見る。


応接室の間に一瞬の静寂が訪れる。


皆が、エヴァンジェリンの次の言葉を待っていると――


「えっ!?ただの地図だもの。報告する必要なんてないでしょ?」


当然のような顔で言い放った。


「「「……」」」


ユリウスだけでなく、その場にいた誰もがすぐに言葉を失った。


部屋中に先ほどよりも重い空気が流れる。


「えっと……報告が必要だったの?ただの地図だしあの国王陛下が欲しがるとも思えないけど」


エヴァンジェリンは一度だけ謁見したことのあるアーノルド国王陛下を思い出す。


いつも若い女を侍らせて、高級な物を身にまとっている。


「た、確かにそうだが……」


「でしょ?それに、この地図を作ったのは私たちだから、アーノルド国王陛下に献上しても、作成方法を教える気はサラサラないわ」


エヴァンジェリンはそこで一旦話を切ると、ユリウスと視線を合わせた。


「ユリウス。あなたにこれだけ言っておくわ。あなたは既に、王族を追放されていて、シルヴァリア公爵家に仕えている身。いくら父親だからって、国王陛下に気を使う必要なんてないわ」


エヴァンジェリンのもっともな意見に、ユリウスの瞳の奥が揺らぐ。


(そうか……もう王族として動く必要は無いんだよな……)


ユリウスは固く目を閉じると、深く息を吐き出してから目を見開いた。


「そうだよな……」


その目には先ほどまでの迷いは消えている。


「じゃ、話を戻しましょうか。」


地図に視線を戻すと、今まで黙っていたカーリウスが地図の上に手を伸ばした。


「ここが我が領地、エスペリアで、こっちがヴァリオン辺境伯領。そして、シルヴァリア公爵領か……」


「今までルピナスト領が邪魔だったんだけど、闇オークションのお陰でシルヴァリア公爵家の直轄地になったわ。だから……」


キュッキュッ


エヴァンジェリンは赤色の太いペンで地図に線を書き足していく。


「できた!」


赤い線が書き足されたところを見ると――


「綺麗に分かれたな」


レオニダスがエヴァンジェリンが線を引いた所を美しくなぞる。


山を越え、川を渡り、海へと抜ける一本の流れ。


ユリウスは皆の動きを見て、既に王族の知らないところで何かが動き出しているのだということは想像ができた。


「物流も、防衛も、ここが整えば王都を経由する必要がなくなるな。」


レオニダスが小さく笑う。


「王都を通さない、か。物騒な言い方だな」


「ですが、それが目的ですので。今後は海や、陸、空を繋ぎ、今よりも領地の行き来がしやすくなるはずです。」


エヴァンジェリンは、淡々と地図を見つめたまま答えた。


「無駄を省いて、互いに補える。それだけの話よ」


誰も反論しなかった。


ユリウスは、その様子を黙って見ていた。


王城で見てきた“派閥”とは、まるで違う。


(父上……あなたが気づいたときには全て終わったあとかもしれませんね)


ユリウスは地図上に載っている王城を見た。


だが、その周囲を走る線は、もはや王城を必要としていなかった。

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