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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
シルヴァリア公爵家。

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19/65

一番怒らせてはいけない人。

(結局……エヴァのことはほとんど分からなかったんだよな……)


ユリウスが偽造された報告書と言い放つエヴァンジェリンを見ていると、彼女は何かを思いついたのか、ニヤリと笑った。


(こうやって見ると……感情が乏しいようには見えないが……)


エヴァンジェリンと出会ってから数ヶ月――


騎士として一緒にいることが多かったユリウスは、コロコロと表情の変わるエヴァンジェリンを間近で見ていた。


今だってそうだ。


何かを思いつき、楽しそうに笑っている。


「ヴィオラ!いいこと思いついたわ。ジェラルドを呼んできてくれるかしら。」


そんな隣で、顔色ひとつ変えずに立つ、侍女のヴィオラ。


(よっぽど……ヴィオラのほうが感情が欠落しているんじゃないか?)


そう思い、ヴィオラを見れば、その視線に気づいたのかユリウスをジロリと見た。


「承知いたしました。すぐ呼んでまいりますので、く・れ・ぐ・れもここから出ないでくださいね?」


「大丈夫よ!!」


親指を立ててウィンクする姿は、まるで新しいおもちゃを手に入れた少女のような顔をしている。


ヴィオラが名残惜しそうに執務室から出ていったのを確認すると、エヴァンジェリンは立ち上がった。


「さっ、行きましょうか!」


「いや、どこに?」


「いいからいいから!ほら、急がないとヴィオラが帰ってきちゃうでしょ。」


唐突な出来事に追いつけないでいると、どこから持ってきたのか――


エヴァンジェリンの両手には抱えきれないほどの布が乗っていた。


「あなた達はこれに着替えてきて?」


ドサリと持っていた布を無理矢理押し付ける。


そして、


「いい?十分後に屋敷の前に集合だから?絶対遅れないでよ!?」


言いたいことだけ言うと、ユリウスたちを部屋から追い出した。


「重ッ……」


閉まった扉を見ながら、顔が見えないほどの服を手に持っていれば、ルカリオスたちがククッと喉を鳴らす。


「ククッ……第三王子が形無しだな。」


「あぁ~…そういえば第三王子だったな。ここにいると忘れるな。」


ルカリオスはユリウスから服を受け取ると、自分の部屋へと戻っていった。


その後を追うように、クラウディウスも服を選んで部屋へと戻る。


「一体……どういうことだ……?」


「さぁ……でも、着替えた方がいいんじゃない?ほら……」


ユリウスの言葉に残っていたウィンデルが返事をすれば、そのまま時計を指さした。


「あと五分しかないし……」


その言葉にハッとしたユリウスは、急いで部屋の中へと駆け込んでいく。


その背中を見て、ウィンデルは一人呟いた。


「ふふ……ここにいると退屈しないですみそうだね。」


その言葉は誰かに届くことなく空気と一緒に消えていった。


***


「時間通りね!」


屋敷の前――


ユリウスたちが着替えを終えて、急いで向かえばそこにはすでにエヴァンジェリンが仁王立ちしていた。


そして、その場にいた誰もが、エヴァンジェリンの服装を見て呆然と立ち尽くした。


「エ、エヴァ……本当にそれで行くのか?」


「えぇ!もちろんよ!」


領民が着るような服装まではまだいい。


しかし、エヴァンジェリンの服装はどこからどう見ても男性が着る服装だった。


下はチノパンに上はベスト、そしてチェックのハンチング帽子に、トレードマークのグルグル眼鏡。


(まるで……ちょっと金持ちのお坊ちゃんのようだな。)


使用人たちはエヴァの格好に慣れているのか……誰一人突っ込むものはいない。


「ほら、早く乗って……ヴィオラに見つかっちゃう!!」


呆然と立ち尽くすユリウスたちに痺れを切らしたのか、エヴァンジェリンは、大きな男四人を無理矢理箱の中へと押し込めた。


ブロロロ……


馬のいない鉄の箱に乗り込めば、生き物とは違う低く唸るような鳴き声を発する。


(ここにきて数回乗ったが……慣れないな)


ルカリオスたちも同じなのか、顔を真っ青にしながら、椅子にしがみついている。


「皆、乗ったわね?じゃあ出発よ~!!」


しかし――


「何やら楽しそうですね?エヴァンジェリンお嬢様。」


「……ヴィ、ヴィ、ヴィオラ!?!?」


エヴァンジェリンの陽気な声とは裏腹に返ってきたのは、冷えきったヴィオラの声だった。


「な、何でここに……?」


「私が気づかないとお思いでしたか?あなたの侍女になって十年以上経つのです……」


そこで一旦区切ると、勢いよく足元にある板を踏んだ。


ブォーン


「「……!!」」


すごいスピードで鉄の箱が動き出す。


「お嬢様の考えていることなど全てお見通しです」


(やはり……一番怒らせてはいけないのはヴィオラか……)


ニヒルな笑みを浮かべながら、どんどんスピードをあげるヴィオラをみて、ユリウスは死を覚悟した。


「ご、ご、ごめんなさい。もうしないから許して!!」


「その言葉……何回目ですかね?」


エヴァンジェリンは何も言い返せないのか、そのまま黙り込む。


その顔がヴィオラの今までの苦労を物語っていた。


(ずっと振り回されてきたんだな……)


「それで、どちらに行かれるんですか?」


「ちょっと、グレンヴァリアまで……」


車内は一瞬静寂に包まれた。


そして……伸びていたはずのルカリオス達も、エヴァンジェリンの言葉が聞こえたのか、何とか起き上がる。


そして次の瞬間、エヴァンジェリン以外の声が響き渡った。


「「「はぁぁぁぁあああ!?」」」


「うるさいわねぇ……」


エヴァンジェリンは耳を塞ぎながら、どこか楽しそうに笑っていた。


その先で何が待っているのかを、誰よりも分かっている顔で。


(これからこれが続くのか……)


それでも目を逸らすことなく、ユリウスはため息を吐いた。

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