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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
シルヴァリア公爵家。

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16/65

到着!?

「ん~!よく寝たぁ!」


翌朝――


エヴァンジェリンは目が覚めると、見慣れた寝台の上で大きく伸びをする。


(あれ? 私いつ帰ってきたのかしら……)


昨日着ていたはずのドレスはいつの間にかネグリジェに代わり、化粧も綺麗に落とされている。


「馬車に乗ったところまでは覚えているんだけど……」


昨日の事を思い出そうと頭を捻っていれば、扉が開いた。


「おはようございます、エヴァンジェリンお嬢様。」


「おはよう、ヴィオラ。今日はちゃんと起きた……ってどうしてそんな顔しているのよ。」


時計を見れば、六時を指している。


(前回の二の舞にはなっていないはずだけど……)


「……まぁ、言いたいことは山ほどありますが、今は早く支度をなさってください。ここに長く滞在していたこともあって、帰りが遅くなっていますので……」


アルノワ侯爵領に滞在して数週間。


本来の予定ではすでに公爵領に着いて、仕事をしていた頃だ。


「そうね。ヴィオラの言う通りだわ。急いで戻りましょう。それにここにいたらアルノワ侯爵が乗り込んで来そうだし……」


昨日の夜会のことを思い出す。


アリアーヌはユリウスがコテンパンに言い負かしていたから問題なさそうだが……


(チョコレートは言いたいことがありそうだったのよね……こういう時は逃げるが勝ちだわ)


「ユリウスたちにも伝えてちょうだい。すぐにここを発つと……」


「承知いたしました。」


そうして慌ただしく支度を整えたエヴァンジェリンたちは、その日のうちにアルノワ侯爵領を後にした。


***


それから数日――


「はぁ~やっとここまで来たわね。」


エヴァンジェリン達はシルヴァリア公爵領の入口、ノールヴァリアまで来ていた。


「さぁ、ここからは馬車を降りて進むわよ。」


「馬車を降りる!?」


エヴァンジェリンの言葉を聞く前から、ヴィオラは荷物を、次々と下ろしていく。


しかし、ここに来たのが初めてのユリウスたちは――


いまだ何が起きているのか、彼女の動きについていけずにいた。


「そう! 馬車を降りるの。だから、貴方たちもさっさと降りてちょうだい。」


「しかし、この地図を見ると、まだシルヴァリア公爵家まで距離がありますよね? 城壁から二日くらいの距離はあるかと思うのですが……」


側近の中でも一番頭の切れるウィンデルが声を上げると、エヴァンジェリンは地図を覗き込んだ。


「あぁ~……この地図ね。かなり古いわ。」


それだけ言うと地図を取り上げて丸めた。


「あっ、やっと手に入れたのに……」


シルヴァリア公爵領の地図はほとんど出回らない。


やりとりは全て領地の外で行われ、領民以外が中に入ることはほとんどないからだ。


「この地図は役に立たないから、持ってるだけ無駄よ」


容赦のない一言に、ウィンデルは肩を落とした。


「お嬢様、荷物は全て積み終わりました。」


ウィンデルとエヴァンジェリンがやりとりをしている間に、どうやら荷物の移動を全て終えたようだ。


「ありがとう。じゃ、私たちも乗りましょうか。」


ユリウスたちは、これから何が起こるのか分からないまま、エヴァンジェリンの後ろをついていく。


と、急にエヴァンジェリンが足を止めた。


「さあ、これに乗って帰るわよぉ~!」


そうして指をさしたのは、今までに見たことのない――

馬車とは少し形の違う、鉄の箱だった。


車輪は小さく、馬の姿もない。

しかし、車輪があるからなのか、前に進む乗り物だということを直感させる形をしている。


「こ、これは一体……」


「いいから、早く乗ってちょうだい。」


エヴァンジェリンはユリウスの背中を、ぎゅうぎゅう押して中に入るように促した。


「これは、私が作った乗り物なの。馬車よりも早く動くし、快適なはずよ。」


中に入った瞬間、ユリウスは違和感を覚えた。


馬車特有の木の軋みも、獣の匂いもない。


代わりに、馬車よりもふかふかなソファが据え付けられている。


「皆、座ったわね。じゃ、このままシルヴァリア公爵邸に向けて出発よ!」


ブルルルル


エヴァンジェリンの合図とともに、馬の鳴き声とは違う音が響き渡った。


そして、箱が低く唸るような音を立てたかと思うと、視界が一気に流れた。


馬車ではあり得ない速さで進んでいくのがわかる。


「エヴァ……これは一体何なんだ!?」


あまりの速さに、驚きを隠せないユリウスは思わず叫んだ。


「一体何? と聞かれても……馬がいなくても走ることができる乗り物よ。細かいことは、いつか教えるから、後にしてちょうだい。」


しかし、エヴァンジェリンは教える気がないのか……はたまた面倒なだけなのか……ユリウスの言葉を軽くあしらうと、そのまま窓の外を見た。


「あぁ、大丈夫だと思うけど、スピードが結構早いから、あまり下を見ない方がいいわよ……って遅かったか……」


後部座席を見れば、そこには顔を真っ青にした大の大人たちが、椅子の上で伸びていた。


***


そして、それから数時間後――


馬車であれば二日以上かかる距離のはずが、いつの間にかシルヴァリア公爵邸にたどり着いていた。


「さっ、到着よ~!」


ヴィオラとエヴァンジェリンは荷物を下ろすなりそそくさと邸の中へと入っていく。


しかし、ユリウスたちは、乗り物から降りるなりその場にへたりこんだ。


「こ、ここは一体どうなっているんだ。」


「シルヴァリア公爵にも覚悟するように言われていましたが……」


「「「まさか……ここまでとは……」」」


四人は顔を合わせるなり、ため息を吐く。


それは不安と期待が混ざるようなそんなため息……


しかし彼らはまだ知らない。


これが、ただの始まりであることを……


「ユリウスたちも、早く荷物を片付けてちょうだい! 貴方たちの部屋はこっちに用意してあるから~!!」


エヴァンジェリンの声を聞いて、四人はゆっくりと動き出した。

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