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彼女の強がり

原稿用紙3枚分です。こっから10枚以上に持って行こうとしましたが、途中までを載せておきます。

 柔らかな瞳はきっと生まれつき優しさがくれた宝石なんだろう。そう、優子という名前の通り君は本当に心の優しい綺麗な子だった。

「初めましてではないです!」

 せめてもの君の強がりだった。僕はそんな君にきっと惹かれたのかもしれない。それまで、僕は自分のことが嫌いだった。つり目の細い一重瞼はコンプレックスだったし、少し太っていることも、全部全部嫌いだった。

「あの、いつもうちの店のゴミとか拾ってくれてる方ですよね」

 その言葉が僕の心を射抜いた。

 彼女は駅前のカフェで働く店員だった。僕は隣の店に営業で訪れる一サラリーマンだった。自分の担当する店の周りのゴミを拾って捨てることは営業として当然ことだった。そんな当たり前を彼女は見てくれていた。

「大崎さんですよね。たしか、違いましたっけ?」

 僕は彼女の名前を知らなかった。彼女はカフェの店員のアルバイトで必ずしも僕がいく時間にシフトが入っているわけではなかった。

「どうして僕の名前を?」

 聞いた僕が馬鹿だったのかもしれない。鈍感な自分を心底責めた。彼女はその後、照れ臭そうに俯いて、

「あ、えっと、えっと、その……」

 口ごもる彼女のうっすら見える目元の黒子ほくろが少し色っぽくて、僕は一目惚れをした。

 意味のない言葉を繰り返すのは恋愛下手の僕の癖だった。

「いいですよ、無理に思い出さなくても。僕の方こそ、隣の店でお世話になってるのに存じ上げなくて申し訳ないです」

 彼女は、華奢な体とは裏腹に大きな声で、

「あの、お名刺いただいていいですか?」

 と、頭を下げた。

 僕は胸ポケットから名刺入れを取り出し、彼女に両手で名刺を渡した。

 名刺を受け取ろうと差し出した彼女の白く細い指にきらりと指輪が光っていた。

 すぐに薬指の指輪だと分かった。特に主張するわけでもなく、弾けるように光っていた。

「あ、あっ」

 指輪に目を落とした僕から隠すように両手を後ろに回した。彼女の精一杯の強がりだった。(了)


最後までお読みいただきありがとうございました。

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