第48話:【次なる目標は?】
「手伝ってくれてありがとうね、マコト」
「これっ、くらい……大丈夫っ!」
神命のない平和な日々が続く今日この頃。
アカリに苦笑されながらも、震える両手で木箱を下ろした僕は、ふぅーと息を吐いた。
「やっぱり二人でやると早いねぇ~」
「だとしても、荷物がこれだけって……」
やって来たのは、アカリが元々住んでいた借家。
豪邸を得た今となっては不要となり、引き払うことにしたみたい。
その手伝いを頼まれたのだが、両手で抱える容丈の木箱が3つしかないのを見て、僕は呆気に取られた。
「うーん、各地を点々としてたせいかな? 無意識に最低限しか持たないようにしてたのかも?」
「各地を点々と……? そういえばアカリって、冒険者になってどれくらい経つの?」
「えっとね~、もうすぐ7年かな」
「7年っ!? それって……、10歳の頃からってこと!?」
「そうだよぉ~! だから私は強いんだよ!」
幼い頃から冒険者だったことへの驚愕だったのだが、アカリは自分の強さに胸を張ってドヤ顔を披露する。
時間の長さを考えれば、確かにアカリの強さにも納得がいく。
だがそれ以上に、10歳という若さで危険な冒険者をやっていた異常性に、ぽかんっと口を開けたままとなった。
「なんでまたそんなに小さい頃から?」
「結び人を探すためだよ。あっ、今ならマコトに会うためってことになるねぇ~」
「っ!?」
「あぁ~、耳が真っ赤になってるぅ~! 良かったねぇ、私とお揃いだよ~」
「そ、その言い方はずるいでしょ……」
顎に指を添え、いたずらっぽく瞳を細めたアカリの言い回しに、ボッと熱くなった顔を俯かせれば、アカリが僕の肩を小突く。
さらに「にゅふふぅ~」と、意地悪な笑い声と視線を向けられ、気恥ずかしくなった僕はついにアカリから視線を逸らした。
「まぁまぁ、冗談はさておきさ。試験の時にも言ったけど、私は『神獣』になりたいの。いつかなんて遠い未来じゃない。もう限界だぁ~! ってくらい全速力で目指したいんだよ」
窓の外へと視線を移してアカリは語る。
その姿に一瞬前のふざけた様子はなく、青空の下で平和を謳歌する人々を、慈しんでいるかのよう。
(どこか頼りなくても、アカリならみんなから愛される神獣になるんだろうな)
無邪気に笑い、わかりやすく落ち込み、子どものように拗ねて、でも最後は頼りになる。
これまで見てきた様々なアカリの顔が浮かぶと、お世辞にも威厳があるとは言えなかった。
でも魔獣に立ち向かう勇姿なら、アカリは誰にも負けない。
どんな脅威にも屈せず、たとえ一人でも突き進む。
そんなアカリを知ってもらえたなら、背中を支えようとみんなが手を伸ばすはずだ。
神獣となったアカリの後ろに続く大勢の人々。
そんな理想像に、思わず微笑んでしまう。
(だからきっと、……見間違いだよね?)
翠光の瞳に、一瞬陰りが見えた…………気がした。
遠くを見つめ、どうしようもなく寂しそうに。
踏み込むことを恐れた僕の喉からは、言葉は出なかった。
「そのためにもやらないといけないことは山積みなんだけどね!」
「……え?」
「次はいよいよ派閥に入らなくちゃな~、ってさ!」
「あぁ……、そうか。『神獣』様になるには、派閥に入ってないと始まらないもんね」
「そうそう! そんでもって、『神獣候補』まで駆け上がっちゃうんだから!」
神獣にもっとも近い存在である派閥の頂点。
次期神獣の肩書きを意味する『神獣候補』といえば、ローレンツさんたちと同じ地位になるわけだが、きっとその道のりは遠く険しいはず。
茨の道を全速力で駆け抜けるというなら、さらに大変な日々が待っていることだろう。
それでもきっとアカリなら止まらず突き進む。
迷いのない翠光の瞳を見ると、疑いようがなかった。
「で、その肝心な入る派閥っていうのはやっぱり?」
「うん! 私たちが今いる『スタンスト国』、──『ザー様』の派閥だよ!」
確認のために尋ねた僕に、アカリは指を立てて告げた。
この世界は8カ国に分かれている。
その中で『神獣候補』が空席になっているのは現在3つ。
大陸の最西端に位置する『スタンスト国』もその内の一つであり、僕と出会う前からずっと、アカリは『ザー派閥』の神獣候補の枠を狙っていたらしい。
「ウィーブルに住んでいたのが、『神獣候補』になることを見据えてだもんね……。執念というか、アカリの本気度は伝わるよ……」
「なんかちょっと引いてないっ!? もぉ~っ! マコトだけは何があっても応援してくれると思ったのにぃ~!」
「いやいや!? もちろん応援するし、協力だってするよ? ただ……、すごいなって……」
「うわぁぁああ~っ!? 欲望全開粘着女だってバカにされたぁあ~~~~っ!?」
「してないっ!? 全然してないよぉっ!?」
駄々をこねる子どものように泣き出すアカリに、僕は必死の謝罪を告げる。
端から見たら女の子を虐めたように映りかねない状態。
収まらない喚き声は、玄関の外にも聞こえているだろう……。
ご近所迷惑やら、家庭内暴力やらを疑われないかが心配になる。
とにかくアカリを落ち着かせようと、僕はとりとめもない言葉を投げかける。
その時、
「よぉ、アカリ! 元気にしてた……、──ってなんだこの状況は!?」
アカリの名を呼ぶ少年の、絶叫が轟いた。
「大丈夫か!? アカリ!」
「あれ……? アルマ……」
吹き飛ぶ勢いで空いた扉の前で、血相を変えた少年は早々にアカリへと駆け寄った。
「何があった!?」
「何がって……、アルマこそなんでここに……?」
「いや、たまたま通りかかったというか……、依頼で街を離れてたから久々にアカリの顔でも見ようと思っていうか……。って、俺様のことはどうでも良いんだよ!」
「……っ」
目尻に溜まった涙を拭いながら、アカリは少年へと目をパチパチとさせる。
そんなアルマと呼ばれた少年は、ほんのり頬を赤くしたかと思えば、急に怒り出すなど忙しない。
そもそも会いに来たのなら、たまたま通りかかったなんて言い訳はしなくていいのでは?
なんてツッコミを内心でしていた僕は、蚊帳の外から二人を眺めていると、
「つぅーか、オメェは何者だ!」
少年の怒号が、僕に向けられた。
「え、えーっと僕は……」
「いや、言わなくても察しは付いてるぜ!」
そう言うと、少年はおもむろに立ち上がる。
灰色の尾を逆立たせ、鋭利な犬歯を剥く。
次の瞬間、
「──!」
「っ!?」
獣の力を発揮した。
「オメェはつまり、盗人だ!」
「……ぁ、ぁぁ」
疾風の如き速さで、僕から木箱を掻っ攫う。
空色の澄んだ瞳に睨まれ、僕は呆気に取られるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
新章のスタートと同時に『神獣候補』、そして『派閥』についておさらいをさせていただきました。
アカリたちは無事『派閥』に入れるのか!?
『アルマ』は一体何者なのか!?
続きが気になった方は、次回も読んでください!
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