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僕の運命の人は異世界にいて、ケモノ娘は神様に成りたがる  作者: 秋川 瞬
閑話 『結び人』と『ケモノ娘たち』の日常回
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第47話:【お酒の魔力】

「わざわざ報告しに来るなんて、マコトは義理堅いね」

「上手くいったのは、ルーヒットさんのおかげですから」

「ボクは何もしてないさ。君が君らしくいればいいと気づかせただけだろ?」

「それでも話を聞いてもらえるのって良いものなんだなってわかりましたから。なので、今日はご馳走させてください!」

「そうかい? なら、遠慮なく相伴(しょうばん)に預かるとするかな」


 食台(テーブル)に並べられた食事を前にして、僕とルーヒットさんは透杯(グラス)を重ねる。

 注がれた液体は琥珀色で、飲み口には白い泡が立つ。

 現世でも飲んだことのない『それ』に喉を鳴らしつつ、僕は一思いに飲み込んだ。


「プッ、はぁ〜。……これが『お酒』ですか」

「どうだい、初めて飲んでみた感想は?」

「正直、美味しくはないですね……。果実水の方が良かったかもです」

「こればっかりは慣れだからね。次は果実酒にするといい。麦酒(ビーリア)よりは呑みやすいはずだよ」

「はい……」


 街灯の橙黄色が映える飲食店街。

 周囲は賑わいの声で溢れかえる。

 1日の疲れをお酒で忘れようとする大人達に囲まれる僕は、慣れない空気に肩身を狭くしていた。


「なんだかルーヒットさん妙に馴染んでますね……」

「こう見えてボクはお酒が大好きでね。ここらは馴染みの店なのさ」

「へぇー、ちょっと意外ですね」

「通い詰めたものだよ。今ではいちいち身分の証明なんてする必要もなくなるほどにね」

「そういうところも苦労が絶えないですね……」


 幼い見た目で透杯(グラス)を煽るルーヒットさんは、知らない人が見れば完全に未成年飲酒のように映るだろう。

 この世界の飲酒の制限は15歳らしく、今の僕はすっかり成人を迎えているということになる。

 そこで信頼できるルーヒットさんにお願いして、お礼と称してお酒への挑戦を試みたのだ。


「アカリたちは今どうしているんだい?」

「あっちはあっちで女子会中です」

「女子会?」

「あれ、言いませんか? 女の子だけで集まることを……?」

「へぇー、初めて聞いたね。なら、ボク達は男子会ってわけだ」 

「うーん、あまり男子会って言い方はしないかもです……」

「そうなのかい? なんだか使い方が難しいんだね」

「あはは……」


 ルーヒットさんの見た目と中身の乖離(ギャップ)には、まだまだ慣れそうにない。

 早くも透杯(グラス)を空にしたり、若者言葉についていけないおじさんのようだったり。

 見た目年長児がやるのだから、頭が混乱する。

 そんな姿に苦笑していれば、給仕(ウェイター)にお酒を頼んだのを皮切りに、ルーヒットさんは本題へと口を開いた。


「それで彼女たちとは和解できたのだろ?」

「はい。とにかく僕の気持ちを正直に伝えただけなんですけど」

「君はそれでいいのさ。その直向きさに心動かされる者は多いと思うからね」

「何はともあれ……、無事に二人との仲が戻って良かったですよぉ~~~~」


 全身を溶かしたかのように脱力する僕に、何も心配はしていなかったという風貌でルーヒットさんは頷きを繰り返す。

 サレンとマニさん。

 二人との間にあったギクシャクは完全に無くなったと言っていい。

 昨夜の食事も、今朝の朝食も、四人揃って平和に終えた。

 豪邸での生活が平穏になり、感謝の気持ちが溢れた僕は、ルーヒットさんへのお返しをしたくて堪らなくなり、今日の男子会? が開かれたのだった。


「その女子会とやらをしているってことは、彼女たち3人の仲も良好の道を辿っているのだろうね」

「えぇ。アカリとマニさんをくっつけるのは特に心配していたんですけど」

「一悶着あったらしいからね。まぁ~、あれでいてアカリはちゃんと距離感を考えている。そういう所は上手くやるさ」

「ですかね」


 今頃同じように食事をしているだろう3人を思い浮かべると、どこか微笑ましい。

 出会い方は最悪だったのに、今では同じ食卓に着いている。

 実に運命の出会いとは不思議なものだ。

 なんて達観した気持ちで透杯(グラス)に口を付けると、


「そういえば、──初夜(・・・)についての話はどうなったんだい?」

「ぶっ!?」


 ぶっこんだ話に思わず吹き出してしまった。


「君が言っていた心当たりだよ。ほら、教えてくれたじゃないか。関係悪化の原因について」


 唐突に思い出したかのように、透杯(グラス)を持った手で指を向けるルーヒットさんは、少し意地悪な笑みを浮かべた。


「サレンと、マニ……。二人して君の寝屋に訪れたのだろ?」

「……ぅ、……ぅぅ」


 これが酒の席での冷やかしというやつなのか。

 お酒が入って茶目っ気が出ているのか、気恥ずかしさに視線を逸らした僕に、ルーヒットさんは哄笑した。


「知らないふりをしました……」

「なんだい、結局聞かなかったのか。彼女たちの真意を知れないのは少しばかり残念だな」

「ルーヒットさんがそれを言いますぅっ!?」


 やれやれと肩を(すく)めるルーヒットさんに、僕は尊敬の念を忘れて声を荒げた。


『こればかりは優しい嘘……。見なかったことにしてあげるのが良いだろうね』


 神託を求めるかの如く訪れた鍛冶場で、ルーヒットさんが授けてくれた助言。

 サレンとマニさんとの関係が崩れた心当たりを話す中で、これにだけはルーヒットさんは明確な指示をくれたのだった。

 その意図は分からなかったけど……。


「そもそも聞ける訳ありませんよ……。もしかしたら僕の妄想だったのかもしれないですし……」

「でも、鉢合わせをした夜以降なんだろ? 2人が君を避けるようになったのは……」

「……っ」

「忠告したボクがいうことではないが、案外当たっていたのかもしれないね」

「……もう確かめる術もないですけどね」


 酒の肴にされている気分に唇を尖らせれば、「ごめんごめん」とルーヒットさんが謝罪する。

 豪邸での初夜のこと。

 その日の晩ご飯は協会から豪勢な食事が振る舞われた。

 おかげでお腹ははち切れそうになり、寝ようとしても胃の内容物に苦しめられる。

 なかなか寝付けなかった僕は、何度も用を足すことになったのだった。


「でも、本当になんで2人とも僕の部屋に来てたんだろ?」


 開けた扉に、サレンとマニさんはいた。

 通りかかったとかそういう勘違いも出来ないほど、明確に向かい合った状態で。

 二人が僕の部屋を訪れた理由。

 それは考えても考えても、僕自身が納得できる答えには至らなかった。


(くだらない理由なら、……思いつくんだけどね)


 自分の口から言うのは、……とてもじゃないけど出来ない。

 それこそ妄想の類だ。

 この世界の風潮的に『結び人』と『ディスター』が生涯を添い遂げるのは一般的だが、僕たちはまだまだその領域には達していない。

 セイバートゥースという関係上、共に暮らすことにはなってしまったけど……。

 間違っても、間違いは犯してはいけないっ!

 特に勘違いを起こしてはいけないと、肝に命じ直す。


「大丈夫かい、マコト?」

「何がですか?」

「いや、急に顔を赤くしたから」

「っ!? き、きっとお酒のせいです……!」


 ルーヒットさんの心配を無下に、邪な考えを浮かべてしまった自分を罰するように、麦酒(ビーリア)を一気に飲み干した。

 なんとも言えない罪悪感が湧き上がり、僕は再び味わう苦みもあって顔を渋くする。

 っていうか、頭がクラクラする……。


(これがお酒のせいにするって言うやつなのかな……?)


 あらぬ妄想をしてしまったのは、酔っているせいだと言い訳をする。

 ちょっとずるい大人になった気がして、僕はますます顔を歪めた。


「全く、君って奴は」

「な、なんですか急に……」

「いいや。どうやったらその自信の無さを改善出来るかと思ってね」

「え、えぇ……?」


 ルーヒットさんは、呆れたように浅く笑う。

 なんだか心を見透かされているようで、胸の奥がくすぐったい気分だ。


「君は結び人であると同時に、運命の相手だというのを忘れているよ」

「なぜ、頭痛が痛い的なことを……?」

「全然違うよ、マコト。ボクが言いたいのは、もっと彼女たちを女の子だと意識してあげるべきだってことだよ」

「はへぇっ!?」


 ルーヒットさんの口から出たとは思えない言葉に、僕は空いた透杯(グラス)を落としかけた。


「はははっ! 相変わらず良い反応をするね、マコトは」

「か、からかってますよね?」

「まぁ、いいじゃないか。今は君とボク、男だけしかいないんだから。こんな話もしたくなるさ」


 透杯(グラス)を煽るルーヒットさんの顔が、一層赤くなる。


「さぁ、聞かせておくれよ。君にとって、彼女たちはどんな女の子なんだい?」

「……っ」


 僕もそうだが、ルーヒットさんも本格的に酔い始めたのだろう……。

 グニャリと曲がった視界の中で、平帽(ハンチングぼう)へと手を添えたルーヒットさんが問い掛ける。

『結び人』と、『ディスター』の繋がりを取っ払い、彼女たちに何を思うのか。

 赤い糸で繋がる『運命の人』として、どう見えるのかと。


「……」


 お酒の魔力って、本当に恐ろしい……。

 余計ないことが考えられない分、素直な気持ちが溢れてくる。

 諦念とも違うけど、独り言を呟くように、呂律が怪しくなった口を開いた。


「アカリは、命の恩人でした……。──でも」


 一緒にいればいるほど、彼女の魅力に惹かれた。

 太陽のような笑顔。

 天真爛漫。

 絵に書いたような元気っ子。


「アカリが引っ張ってくれれば、僕はどこにでも行ける。ずっと近くでアカリの歩む道を見ていたと思ったんです」


 翠光(ライトグリーン)の瞳に見つめられるだけで、いつしか鼓動が高鳴るようになっていた。


「サレンは、応援したくなる妹でした……。──でも」


 気づけば、僕の方がその頑張りに勇気を貰っていた。

 あどけない仕草。

 献身的な姿勢。

 奥に隠れた芯の強さは人一倍。


「そばに居たいって思いが、そばに居て欲しいって願いに変わっていました」


 本当は僕の助けなんていらない強さを持っていることに、いつしか寂しさを感じるようになっていた。


「マニさんは、とにかく怖い人でした……。──でも」


 誰よりも家族思いで、同じように思ってもらえたならどんなに幸せだろう。

 目で追ってしまう鮮やかな翼。

 一途な優しさ。

 自分ではなく、誰かのために自分を変える決断が出来る人。


「ただ不器用なだけで……、寄り添っても良いんだって分かれば心地良かった」


 嫌われていたと思っていた分、マニさんの小さな優しさが胸に刺さる。


「3人に出会えて……、運命の人になれて……、僕は……しあわ……せ……、──っ!」


 ドンッという音が近くで鳴ったのに、…………遠くから聞こえたようにも思う。

 視界はぼやけ、瞼は重い。

 そして、妙に頭が痛む。

 いつの間にそうなったのか。

 食台(テーブル)に頭を付けた僕は、間もなく意識が飛んでしまうのだった。




「ちょ、ちょっと!? マニお姉ちゃん、何してるんですか!?」

「いきなりなんで蹴るの!? マコト気絶しちゃってるじゃん!?」

「あー、うるせぇー!! 聞いてただろ!? カガヤが変なこと言ってるから黙らせただけだ!」


 一体何事かと、酒気を浴びた大勢の視線が一つの食台(テーブル)へと注がれる。

 突然客の頭を蹴った女傑の鳥獣人(ユーノ)を、力ずくで(なだ)めようとする犬獣人(イヤルティー)の少女と蛇獣人(リュコーン)の幼女。

 そして一人涼しい顔で彼女らを見つめる鍛冶師。

 乱闘でも始まるのかと酔いが回った者は声を張り上げ、素面(しらふ)の客は迷惑そうに顔を歪める。

 そんな周囲へと平謝りを繰り返して沈静を図ったルーヒットは、見た目にそぐわない聡明な声で語りかけた。


「君が噂のマニさんだね。初めまして、ボクはルーヒット=ポンドだ」

「何透かした顔で挨拶なんてしてんだよ、このチビ!」

「そういう君は、随分と顔を赤らめているね。ボクたちのようにお酒でも(たしな)んでいたのかな? そんなふうには見えなかったけど」

「あぁ!?」


 マコトの背後より、やや後ろ。

 食事も終盤になった卓をチラリと覗いたルーヒットは、そこに酒が一滴もないことを示唆する。

 そんな軽口に、マニは堪らず額の血管を浮かび上がらせるのだった。


「ルーヒット! そんな煽ること言わないでよ!?」

「おやおや、アカリもサレンも顔が真っ赤だね。何かあったのかな?」

「ルーヒットさん……、もしかして分かっててマコトくんに……」

「さぁー? どうだったかな?」


 わざとらしく首を傾げるルーヒットに、アカリは頬を膨らませ、サレンは怪訝な瞳を向ける。


「なんなんだこのチビ……っっ! 殴って良いのか!? ダメなのか!? どっちなんだよ!?」

「マコトも含めて全員ダメだからぁああああ!!」

「はぁ~……」

「やっぱり、お酒の席はこれくらい盛り上がらないとね」


 拳を握り締めてマニが激昂すれば、アカリの絶叫が店中に響き、なぜこうなったとサレンは嘆息を漏らし、笑みの絶えない口元をルーヒットは隠す。


 それは鍛冶師によって作られた悲劇。

 偶然居合わせた少女たちに、羞恥の言葉を浴びせようと画策されたもの。

 お酒に飲まれ、手の平で踊らされ、まんまと罠にハマったマコトは、知らない内に少女たちを熟れた林檎へと変えていた。


「……ぅ、……ぅぅ」


 そしてすでに夢の住人となったマコトは、翌日まで響いた頭痛を、二日酔いだと勘違いするのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


これにて日常回は終りとなります。

タイトルに『運命の人』って付くだけあって、マコトたちの恋の展開も描きたいと思い差し込んだ日常回でしたが、次回からは物語が進みますので気になる方は続きを読んでもらえると嬉しいです!


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