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僕の運命の人は異世界にいて、ケモノ娘は神様に成りたがる  作者: 秋川 瞬
閑話 『結び人』と『ケモノ娘たち』の日常回
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第46話:【女傑の長い夜】(2)

 都市に流れる水路のほとり。

 煉瓦(レンガ)橋の下に設けられた長椅子(ベンチ)に座る二人は、若干の気まずさに苛まれていた。


「いててててぇ……っ」

「……じ、自業自得だろ」

「はい……、すいません……」


 痛む顎を抑えるマコトに、マニは多少やり過ぎたと反省しつつも、オマエが悪いとそっぽ向く。

 マニの蹴撃を受け、例の如く気絶したマコトは、放物線を描いて宙を舞う。

 そんなマコトを見た観衆は風の速さで散っていき、介抱せざるを得なくなったマニは、人気のない場所を求めてここに流れ着いたのだった


(まぁ、おかげで吹っ切れたけどさ)


 マコトの醜態に巻き込まれたことで、羞恥心は吹き飛んだ。

 加えてマコトが目を覚ますまでの時間で、気持ちも落ち着いた。

 川の冷たい風に当たり、熱くなった顔も元の調子を取り戻している。

 ならばと一息吐いたマニは、マコトに尋ねるのだった。


「で、さっきのはなんなんだよ?」

「え?」

「え? じゃねぇーよ。あんな風に奇行を晒して、『仲良くなりましょう』なんてガキみたいに……。どういうつもりだったんだよ?」


 横並びで座るマコトに、マニは片眉を吊り上げる。

 わざわざ待ち伏せをして告げるべき内容なのかと、理解に苦しむマニは問いかけずにいられなかった。


「その……、マニさんって僕のこと避けてますよね……?」

「なんでそうなんだよ? 避けるっていうなら、アカリともサレンともまともにいねぇーだろ?」

「それはそうなんですけど、何ていうか……、態度が露骨に違うなぁ~……、とっ」


 内心では苦し紛れの言い訳だと、マニは自覚する。


(そりゃ、気づかねぇーわけねぇよな……)


 ここ数日、まともにマコトの顔を見られていない。

 食事を共にしようとも、むすっとしたまま目を閉じる。

 豪邸ですれ違うことがあっても、空気のように扱う。

 自分が避けられていると気づくには十分過ぎる。

 それでも話しかけるのを止めないのだから、マコトの精神力(メンタル)には驚かされっぱなしだった。


(だからって……、──本当のことが言えるかよ!?)


 不意に初夜のやらかしが脳内に再生され、マニは自分自身をぶん殴ってやりたいと拳をプルプル震わせる。

 そんなマニの自憤に気づくことのないマコトは、どこか反省した様子で、「それで……」と言葉を続けた。


「本当に今更なんですけど、……ずっと謝れていないことがあることに気づいたんです」

「?」


 心当たりのないマニは、怪訝な目を向けた。

 謝罪というなら、むしろ自分の方が山のようにある。

 だというのに、マコトは一体何を抱え込んでいるのだと、マニは理解出来なかった。


「マニさん……、本当は無理しているんじゃないですか?」

「はぁ?」

「マニさん言ってましたよね? ニアのために『善人』でありたいって。でも、マニさんにとっての『善人』って、『セイバートゥース』のことじゃないから……。だから本当は、僕たちと一緒にいるのが嫌なんじゃないですか……?」

「……っ!」


 顔中を不安でいっぱいにしたマコトの吐露に、マニは少なくない衝撃を受けた。


「会いに来れる距離だとしても、ニアといる時間は大切で、かけがいのないもので……。それを奪ってしまっているんじゃないかって思うと、……申し訳なくなったんです」

「……っ」


 苦悩に染まったマコトの横顔に、マニもどこか胸を刺されるような思いを覚えた。

 マコトを始め、アカリやサレンと一緒に過ごすことに、マニは嫌悪なんて抱いていない。

 それは自分でも驚いてしまうほどに、自然と受け入れていた。


 アカリであれば、癪に触ることもある。

 だが誰よりも気さくに話かけてきてくれるところは、何気に感謝していた。


 サレンはよく出来た子だ。

 おどおどしてはいるが、何かしようとすれば不器用なりに全力になれるのが彼女の魅力だろう。


 マコトは、…………バカみたいに誠実だ。

 誠実すぎて寒気を覚える。

 けれどその誠実さが、マニを変えたのだ。


(本当に相変わらずだな……。アタシが勝手に独り相撲していただけなのに、なんでそんな結論になるんだか……)


 盛大な勘違いをしているマコトに、マニは初めて会った日の夜を思い出す。

 気絶させられ、誘拐され、縄で縛られているというのに、マコトは告げた。


 ──『マニさんがどうしてここにいるのかは、わかりません……。けど、ここにいるのはマニさん自身の問題ではないんじゃないですか?』──


 ──『もし、親の借金を肩代わりさせられているとかであるなら……、マニさんに罪はないと思っています……』──


 ──『マニさんに罰が下るっっ!! そうなって欲しくないだけですっっっ!!』──


 何か事情があるはずだと。

 マコトはマニを『善』と見ようとした。

 その病的なまでの『誠実さ』に触れたからこそ、きっと自分を変える事ができたのだろうと、マニはひっそりと目を閉じた。


「前代未聞の複数ディスターの結び人なんかになっちゃいましたけど、時々思うんです……。もしかしたら三人とも、僕じゃない本当の『(むす)び人』がいるんじゃないかって」

「っ!?」

「マニさんだけの『(むす)び人』になれる、……本当の『運命の人』がいるんじゃないかって」


 それは絶対に違う!

 そう言いかけたマニの唇が、マコトを前にして震えた。


(いくらなんでもそれは……、そんなこと……、──思うわけねぇだろ!?)


 言わなければいけない。 

 これだけは言わなければならない。

 素直に、言葉に。

 否定してしなくては。

 誰でもない『マコト』だったから、今がある。

 何をやっているんだ! と自分の腕に爪を立てたマニは、隣で俯くマコトに勢いよく振り向いた。


「カガ──」

「──だから、こう思うことにしました!」

「っ!」


 ──だが、突然立ち上がったマコトの勢いに負け、言葉は喉の奥へと引っ込んだ。


「マニさんが困っているのに、そばにいないお前が悪いんだって! 運命の人を守る気がないなら、僕が運命の人になってやる!! ……なんて」

「な、なんだよそれ……。……締まらねぇな」


 両拳を胸の前で作ったかと思えば、強気な姿はすぐさま気恥ずかしへと変わる。

 後頭部へと手を置き、「あはは~……」と苦笑するマコトに、マニもバカバカしいと微笑んだ。


「結局何が言いたいかって言えば、僕はマニさんの『(むす)び人』だってことです」

「っ」

「マニさんにとっては違っても、僕にとってマニさんは特別な人です。……特別な人だから、僕と……僕たちといる時間を、大切なものだって思ってもらいたいんです」


 静かに……、そして力強く……、マコトの瞳に見つめられた。


「ニアと同じくらい……、とはいかなくても、一緒にいたいって思ってもらえるくらい仲良くなりたいんです」

「……」

「アカリとサレン……、そして、マニさん。皆を繋ぐのが、僕に出来る『(むす)び人』の在り方だと思うので」


 さっきまで恥ずかしそうにしていたのに、今まで以上に言うのも(はばか)れる台詞は凛と佇んだまま告げてくる。

 ここぞという時の、マコトの揺るがない決心は頼もしい。

 大型魔獣との逃走劇も。

 カイロニと抗議したことも。

 これがマコトの言う、特別な人に対して向けてくれるものだというのなら、居心地が悪いはずなった。


(本当に、この男は……。盛大な勘違いしておいて、よくもまぁー小っ恥ずかしいことつらつら並べやがる。……コソコソしてたアタシの方がバカみたいじゃんか……)


 完敗であると、マニは釈然としない気持ちにさせられた。

 ただ、やはり悪い気はしないのである。


「……その、悪かったよ。……今まで避けるような真似して……」

「マニさん……?」


 長椅子(ベンチ)の上で膝を抱えるマニに、マコトは驚嘆を溢した。

 

「安心しろよ。アカリやサレンのことは嫌ってねぇし、……別に、アンタのことだって……」

「そ、そうなんですね……。なら、良かったです」

「受け入れるの早すぎんだろ……? さっきまであんなに不安な顔しておいて」

「え、じゃあ……、やっぱり僕って嫌われてます……?」

「あぁー、もうっ! めんどくせぇーな!」

「えぇ……っ」


 もうやけくそだとばかりに膝から顔を出し、ギョッと背中を反らせたマコトへと、マニは指先を向けた。


「いいか、よく聞け! アタシは好きでアンタらといるんだよ! ニアのためなんかじゃなく、アタシがそうしたいと思ってるからだ! わかったかよ! ──カガヤっ!」

「は、はいっ!? ……って、……名前ぇ……」

「いつまでも、アンタって呼ぶのもなんだし……、これで少しは信用できたかよ……?」

「はい、もちろんですよ!」

「……本当に簡単な奴だな、全くよぉ」


 自分から顔を突き合わせておいて、長くは続かなかったマニの勢いが言葉と同じように尻窄みする。

 対してマコトはといえば、パッと咲いた花のように満面の笑みを浮かべる。


 初めて名前を読んでもらえた。

 まだその呼び方には距離があるけれど、確かに縮んだ感覚がある。

 その嬉しさに思わずマコトは、ブンブンと腕を上下に揺らした。


「すっかり遅くなっちまったし、ちゃっちゃっと帰ろうぜ」

「ですね! サレンもアカリも夕飯を準備して待っててくれているはずですから!」


 嬉しさの余韻に浸りながら、マコトは歩みを始める。

 だが、「どこいく気だよ」とマニに告げられ振り返った。


「ちまちま歩いて帰る訳ねぇーだろ」

「え? でも……」

「黙って後ろ向け」

「あっ、はぃ──、いっ!?」

「……っ」


 何も言えずに従えば、首筋に吹く吐息と、背中に当たった二つの双丘に、マコトは肩を跳ねさせる。


吊式座(ブランク)がねぇーからな。今日は特別だ」

「……ぁ、ぁぁ」


 背中に密着したマニの体。

 お腹に回された細く柔らかな腕に、マコトは息も出来ないほど体を固める。


(負けっぱなしってのは、やっぱり癪に障るかなら)


 振り返る事なく、声にもならない声を溢し続けるマコトを再度抱きしめると、マニは飛び立つ。


「舌噛まないように、口閉じてろよ!」

「っ!?」


 それは言葉の応酬では負けてしまうマニに出来る最後の手段。

 マコトには喋らせまいとするマニの細やかな抵抗。

 得意領域(ホームグラウンド)である空を羽ばたくマニは、ちょっとばかり大きくなった気を携え、彫刻と化したマコトに一矢報いようと独り告げる。


「アタシの『(むす)び人』はアンタだけだからな、……カガヤ」

「っ!?」

「他の奴に任せようなんて二度と考えんじゃねぇーぞ」

「~~~~っっっ!」


 耳元で囁かれるマニの言葉に、マコトは一言も返さない。

 マニの言い伝えを守るためか。

 はたまた何も言えなかっただけなのか。

 すっかり冷えた夜空の中で、マコトの耳は真っ赤に染まっていた。

 その姿に歓喜するマニは、


(最後はアタシの勝ちだな)


 負けず劣らずの赤面で、抑えきれずに頬を綻ばせるのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


これまでとはだいぶ違ったマニとなりましたが、いかがだったでしょうか?

書いていくうちに作者自身、マニってこんなにてんやわんやするキャラだったんだぁ~、と発見があり、楽しい回をお届け出来ていたらと思います(*´ω`*)


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