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僕の運命の人は異世界にいて、ケモノ娘は神様に成りたがる  作者: 秋川 瞬
閑話 『結び人』と『ケモノ娘たち』の日常回
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第46話:【女傑の長い夜】(1)

 

(あれは……。どうかしてたな……)


 ディスター協会が運営する医療所の一室で、マニは夜に染まり始めた街並みに鉛色の瞳を向けていた。

 思い出していたのは、協会より与えられた豪邸で過ごした初夜(・・・)の事。

 息が詰まるわけでも、寝苦しかったわけでもない。

 それでも一向に眠れないマニは、寝返りを繰り返していた。


(なんであんなことしたかな……)


 頭をガシガシと掻くマニは、自分のしたことに不貞くれては唇を尖らせる。

 足音一つ鳴らさず自室を抜け出し、少年の部屋の前に立ち、扉把手(ドアノブ)へと手を掛ける。

 きっとどこかの幼女が聞けば、間違いなく自分のことだと疑わないだろう愚行を、マニもしていたのだった。


(アタシのバカ野郎……)


 なぜそんなことをしたと問われれば、マニは意外にも一人で寝るという経験が無かったからだ。

 ニアのことだけを考えて生きてきたこの女傑は、ニアの傍を離れることはない。

 やむを得ずニアを一人にすることはあっても、自分が眠るときには必ずニアがいた。

 ニアと眠る。

 基、誰かと眠ることが当たり前だったマニは、豪邸で初めて自室を与えられたことにより、傍で眠る者がいないという違和感に襲われたのだった。


(だからって、……なんでアイツなんだよ……)


 豪邸の中には、アカリ、サレン、マコトの三人が一緒に寝ている。

 もちろん、そのつもりはない。

 本気でそうしようとは思っていない。

 ただ一度、その3人の下で一緒に寝たらどうなるのか、という想像をしてしまうのは、眠れない少女にとっては不可避なことだった。


(アカリは論外だ。こっちから仕掛けたとはいえ、一回殺りやってるやつと気持ち良く寝れるわけがねぇ)


 無法地帯クラウンド。

 断崖絶壁の海岸での一戦は、マニの記憶に強く刻まれていた。

 実際に切られたのだから、思い返すと胸が疼く。

 だがきっと、アカリはお構いなしに眠り続けるだろう。

 そんな想像が浮かぶと、マニは腹立たしさを覚えた。


(サレンは……、まだあんまり話してねぇから、怖がらせちまうよな……)


 ニアと同い年であるサレンは、もはやマニの中では守護対象。

 新たな仲間として、ニアに向ける感情に近いものがあるのだが、それはマニの一方通行である。

 気持ちを押し付けるつもりのないマニとしては、選択肢から除外せざるお得ない。


(もう消去法でアイツになっちまうじゃねぇーか)


 マコトの寝ている姿は、想像どころか一度目にしている。

 気絶していたの間違いだが、マコトの寝相は悪くない。

 それに一応は『(むす)び人』という肩書がある。

 『ディスター』と『(むす)び人』は生涯を添い遂げる風潮があるのだから、同じ寝具(ベッド)で寝たところで、なんらおかしな点はない。

 まぁ、これはあくまで眠れない故の想像であり、一度くらい思いついても仕方な──


『う~ん……? マニ、さん……?』

『なっ!?』


 目を擦りながらも、マコトはマニの名を呼んだ。

 扉把手(ドアノブ)に手を掛けたところでハッと我に返り、引き返そうとした時には遅かった。

 そのあとは無音で翼を羽ばたかせ、風のように自室に逃げ込んだ。

 扉へと寄りかかれば、どっと湧き出す大量の汗に、どっしりとした疲労感に苛まれる。

 おかけでその夜は眠りに着くことが出来たのだったが。

 以降、いつ初夜の出来事を問い詰められるのかと、マニはマコトを突き放しようになってしまったのだった。


(本気でどうかしすぎだ……、アタシは……)


 思い出しただけで疲れを覚えたマニは瞳を閉じる。

 間もなくニアとの面会時間も終了を迎え、重くなった頭を俯かせて医療所を出る。

 だから、気づかなかった。


「マニさん」

「っ!?」


 医療機関の外門。

 そこで面会時間を終えるまで待っていた、マコトの姿に。


「……来るなって言っただろうが」

「マニさんに止められたのはニアのお見舞いであって、ここに来ること自体は止められてませんから」

「そうかよ。揚げ足取るために来たんならもう用は済んだろ?」


 軽く手を振りあしらうマニは、鉛色の瞳をマコトに向けようとしなかった。


(マジでなんなんだよコイツはぁっ! いきなり現われんなよなっ!?)


 動揺を悟られまいと強がるマニだが、その手には薄っすらと汗をかいていた。

 顔を合わすのは家に着いてから。

 そう思い込んでいたマニには、心の準備が出来ていない。

 女傑としての仮面を取り付けられていないマニとしては、一刻も早くマコトのそばを離れたい。

 もしくは離れてくれと願って掛けた言葉だったのだが、マコトは神妙な面持ちで受け流した。


(なんか……、これまでとは何かが違う気が……?)


 一言でいうなら、覚悟が決まっている。


 口にはしなくとも、何かを訴えかけてくるマコトの瞳に、マニは違和感を覚えた。

 何度邪険な態度を取っても声をかけてきたり、律儀にニアの病室には立ち入らなかったりするところは実にマコトらしい。

 そんな感心も薄れるくらい、今のマコトを見ると、胸の奥がざわついた。

 だが、今は無視だ。

 結局、逃げの一手を選択したマニは、目を合わせないようにマコトの横を素通りする。


「待ってください!」

「っ!?」


 素通りしようとして、マニは右手を掴まれた。

 突如強引さを出したマコトに、マニの喉はキュッと締め付けられる。

 出来たことといえば、鉛色の瞳を鋭く裂くことくらい。


「オマエ……っ」

「っ!」


 まるで怯んだ様子のないマコトに、マニは動揺の声を漏らしてしまう。


「僕と仲良くなってくれませんかっ!!」

「はぁっ!?」


 マコトの大音声に、マニは素っ頓狂な声を上げた。

 勢いよく頭を下げた少年の叫びに、周囲の人間もなんだなんだとざわつきが増す。


「……ぁ、……ぁあ」

「あ、あれ……?」


 夜の街。

 男女の二人組。

 そして繋いたままの手。

 誰がどう見ても、公開告白。

 色めき立つ観衆が今か今かとマニさんの答えを待ちわびる中、マコトも張り上げた己の声に戸惑いを見せる。

 そして、そんな周囲からの期待が集まる雰囲気を、


「……なっ! 何言い出してやがんだぁ、オマエはぁぁぁぁあああああっ!!」

「あだぁっ!?」


 マニは文字通り、一蹴したのだった。


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