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僕の運命の人は異世界にいて、ケモノ娘は神様に成りたがる  作者: 秋川 瞬
閑話 『結び人』と『ケモノ娘たち』の日常回
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第44話:【問い。女心を理解せよ】

 

「なるほどね。それでボクの所に泣きついてきたのかい」

「すいません……。他に行く宛もなかったので……」


 金物を叩く音が心地良い鍛冶工房。

 その片隅で苦笑を漏らす僕は、鍛冶師へと謝罪を告げる。

 ロバーナさんから忠告され、気遣いを実践してみても空回るばかり。

 今朝も失敗してしまい、途方に暮れた僕は逃げるように鍛冶場へと来ていた。


「別に構わないよ。むしろ、マコトたちが神命(オラクル)で旅立った後は寂寥感に苛まれたくらいだからね」

「ルーヒットさん……!」


 温かい言葉を受け、目尻が熱くなる。

 聡明な喋り方に穏やかな雰囲気を併せ持つルーヒットさんは、年少児の笑みを浮かべて振り返った。


(今でも信じられないな。この人が僕よりも歳上だなんて)


 アカリ曰くルーヒットさんは25歳とのことだったけど、サレンとそう変わらない短躯からは想像が出来ない。

 さらに非力な見た目で鍛冶師までこなしてしまうのだから脱帽もの。

 大人としての振る舞い、体格の不利を諸共しないルーヒットさんは、僕の中で尊敬できる人の一人であり、拠り所だった。


「それでどうしたら良いと思いますか? 気遣うって……思ってたよりずっと難しくて……」


 新居に移ってからの苦労話を聞いてもらった僕は、身も蓋もなく人任せな質問をする。

 サレンの挙動不審。

 マニさんの無愛想。

 ……アカリは寝ていることが多いから、ひとまず置いておくとして。

 そんな彼女たちへの接し方に行き詰まっていた僕は、「そうだね~」と顎に手を添えたルーヒットさんの言葉を今か今かと待ちわびた。


「ボクがマコトだったなら、…………何もしないかな」

「へぇ?」

「マコト、……『気遣う』と『気を使う』を混同してはいけないよ」

「『気遣う』と、『気を使う』……?」


 思わず間抜けな声を漏らした僕に、微笑むルーヒットさんは言葉を紡いだ。


「数日間ではあったけど、マコトと過ごせば分かる。君は自然と『気遣い』が出来る子だ。だから特に何かを意識する必要はなかったんじゃないかな?」

「……っ」

「けど、今は『気を使っている』。だから彼女たちのことが見えなくなっているんじゃないかとボクは思うよ」


 ウィネーブルに来てからの数日間、僕はルーヒットさんの鍛冶工房兼自宅で厄介になっていた。

 アカリも住む場所くらいはあったけど、僕とサレンが増えたら手狭になる。

 さらに言えば、ディスターと結び人だからと言って、出会って間もない男を泊めることにも抵抗があるだろうと僕自身が断った。

 正直、内心どうしたものかと困り果てていたのだが、ルーヒットさんが快く受け入れてくれた時は助かったものだ。

 そんな共同生活を踏まえて語るルーヒットさんは、指を立てて締め括る。


「要は、いつも通りの君であればいいのさ」

「いつも通りの僕、……ですか?」

「うん。それで十分だと感じているよ」

「あ、でも……、その……異性との共同生活は初めてでして……。正直……、自然体でいられる気がしないです……」


 気遣うことばかり考えていたけれど、女の子と一つ屋根の下で過ごすなんて我ながらなんて大胆なことか……。

 悩みが整理された途端、新たな悩みに苛まれる。

 というか、羞恥心に襲われる……!

 火照り出す顔を見られたくなくて、俯きながら弱々しく答えた視界の外では、ルーヒットさんのクスッという笑い声が聞こえてきた。


「……ちょっ、ちょっと!? ルーヒットさん……!」

「いや、すまない。こんな初々しい反応されてしまうとは思っていなくて。若者はいつ見ても眩しいものだね」


 口元を隠すルーヒットさんに、悔し紛れに瞳を細くした。


「そもそも、マコト自身に心当たりはないのかい?」

「うーん……。あるには、あるんですけどぉ……」

「いまいちピンッと来ていないって感じのようだね」


 思い当たる節は合っても、なんと言ったらいいのか……。

 そんな苦悩に染まった僕を見兼ねたのか、ルーヒットは顎へと手を添えた。


「ならいっそ、本人たちに聞いてみるのも良いかもしれないね。何か悩み事でもあるのか? なんてね」

「それってありなんでしょうか……?」

「分からないものは仕方ないのだから、解決策としては理にかなっているさ」

「それはそうですけど……。だって……、か、仮に……っ、仮にですけど……っ! 僕が無意識にやっていることが原因で……、それが嫌で避けてるなんて言われたら…………っ」

「うーん、それもあるかもしれないね」

「ちょっと!? ルーヒットさーーーんっ!?」


 そんなことあるはずないよ、なんて言葉を期待して見つめた僕は、妙に真面目な口調のルーヒットさんに、撤回を求めて泣き喚く。

 自虐したのは僕だけど、……これはあくまで仮!

 仮の話なのだっ…………!!

 僕の危惧が現実になり、「なんか~、生理的に無理なんだよね~」なんて言われたら、膝から崩れてその場に涙の水たまりを作ることになるんですよ?

 そんな悲惨な姿、ルーヒットさんだって見たくないですよねっ!?

 ルーヒットさんの腰元に泣き顔で縋り付けば、「ご、ごめんよ……? 冗談が過ぎたね」と、若干引かれつつも謝罪をされた。


「君はヒューマンらしいと言うか、自分が劣った存在だと思い込み過ぎる節があるようだね」

「……ぅっ」

「威張り散らしたり、暴れ回ったりする獣人たちよりかは好ましいんだけどね」


 精一杯の慈愛を込めてくれたのだろうけど、僕は思わず視線を落とした。

 さっきのがいい例だけど、僕はどうも自己否定してしまうたちらしく、自覚している分ルーヒットさんの言葉が胸に突き刺さってしまったのだ。


「そんな自信喪失している君が、どうして彼女たちのためには積極的になろうとするんだい?」

「そこはやっぱり、結び人だからといいますか……。分かってあげたらな~、って……っっ」


 無様を晒しすぎたせいか、普段なら言うのも(はばか)れる言葉ですっと口にできる。

 もう何を隠すことはないと、諦念にも似た思いで心の声を曝け出す。

 そんな僕を笑わないルーヒットは、腰元を掴んだままの僕の手をそっと剥がし、ゆったりと背を向けた。


「古来より、弱者が強者に立ち向かわねばならない時、どんなことをしてきたと思う?」

「え……? ……徒党を組む?」

「うん。それも正解だろうね」


 急な語り口調を始めたルーヒットさんは、工房内を歩み出す。

 まだ炎の息づく炉はパチパチと火の粉を跳ね上げ、近づけば熱気に肌を焼かれそう。

 それでも一切の躊躇なく近づいたルーヒットさんは、


「けど、鍛冶師としての僕の答えは──」


 手にした鎚を振り下ろし、


「──武器を手にすることだ!」


 カンッ、と衝撃を響かせた。


「多くの武器を作っては、種族に関係なく売ってきたわけだけど、中には僕の作る武器なんて必要ないんじゃないかと思えるような武器を持つ者もいた」

「……一体、…………どんな?」


 先の衝撃を引きずる僕は、戦慄いた肺から僅かに空気を押し出し、問いかける。

 弱者を強者の地位へと押し上げる武器とはなんなのか?

 この世界の強者といえば、ディスターであると皆が言う。

 強さとは、魔法。

 魔法とは、強さ。

 相互関係が成り立つこの世界で、武器で強者を生む?

 そんなことがあり得るのか?

 僕は大きく喉を鳴らした。

 のだが、


「──『心』だよ」


 目を点にした。


「………心、ですか?」

「あぁ。諦めの悪さとか、野心、決心……、邪な考えであっても貫こうとするなら強さと言える。──それが『武器』だ」

「はぁ……?」


 指を折って数を数えるルーヒットさんに申し訳ないと思いつつ、肩透かしを食らった僕の耳には、話が余り入ってこなかった。

 そんな僕に気づいたルーヒットは、また優しい笑みで問いかけてきた。


「ガッカリだったかい?」

「正直に言うと…………、はい……」

「ははっ! マコトもしっかり男の子だね。大方、伝説の武器のようなものを想像してしまったんだろう?」

「……っっぅ。……まさにその通りです」


 ルーヒットさんからの図星に、僕は顔を赤くして蒸気を上げた。


「すまない。これはボク個人の見解だからね。マコトを納得させるには言葉足らずだったかもしれない。けど、君の持つ誠実の心に魅力を感じる人は多いはずだよ?」

「僕の……誠実さに……」

「あぁ。誰もが持っている代物じゃない。どうか大切にね」


 沈んでいた気持ちが、ルーヒットさんの言葉で息を吹き返す。

 具体的にどうしたら良いかはまだわからないけど、この人が言うなら間違いないのかも。

 ただ一言はっきりしているのは、抱えていた胸のモヤモヤが晴れているということだった。


「気なんて使う前に、まずは君の誠実さを持って彼女たちと向き合うのはどうかな? 早々悪いことは起きないはずだよ」 

「ありがとうございます。なんだかルーヒットさんに話せば、何でも解決しそうな気がしてきましたよ」

「買いかぶり過ぎだよ。ボクは神様じゃないんだから」


 謙遜にしか聞こえないけど、きっと何を言ってもルーヒットさんを褒め殺して、悶えさせることは出来ないのだろう。

 それだけの大人の余裕がルーヒットさんからは溢れていたから。


「もしかして、ルーヒットさんって実はすごいモテたりするんですか?」

「あはは。マコトも言うようになって来たじゃないか。アカリの影響かな?」

「そうかもしれませんね」


 自爆しておいてなんだけど、僕だけ羞恥を披露したまま終われない!

 逆恨みも上等とばかりに、ルーヒットさんの甘酸っぱい話を聞き出そうと、僕は話題を方向転換させる。

 そんな僕の不躾な質問にも笑ってくれるのだから、ルーヒットさんの余裕ある振る舞いには勝てる気がしなかった。


「カッコつけて助言なんてしてしまったけど、ボクも深く女性との関わりがあったわけではないんだよね」

「そうなんですか? ちょっと意外かもしれないです」

「何ていうか……、ボクの場合は特殊でね。幼い容姿(・・・・・・)に惹かれる女性たちから求められることが多いのさ」

「え?」

「嗜好は人それぞれだし否定はしないけど、成人しているボクであれば求愛しても問題ない。そう結論付けた方から迫られることが多くてね」

「……え、ぇ?」

「聞こえていない振りをしているけど、『合法年長(イノセスユース)』なんて二つ名が付いてしまったばかりに、ボクから動きづらくなってしまったんだよ」

「なんていうか……、多大な苦労をされているんですね」

「わかってくれるかい……」


 一体どこの誰がそんな二つ名を付けたというのか。

 カラ笑いしかできなくなってしまったルーヒットさんを、今日のお礼も兼ねてご飯でもご馳走しようと、僕は密かに誓うのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


悩んでいる時にそっと助言をくれる存在って、本当にありがたいものですよね。

今回は、そんな“支えてくれた誰か”との思い出を少しだけ重ねながら書いた回でした。

日常の中でふと救われる瞬間って、意外と物語にも温度を与えてくれる気がします。


もう少しだけ日常回が続きますが、肩の力を抜いて楽しんでもらえたら嬉しいです。


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