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第42話:【後日談:とある猿獣人の呟き】

「ねぇ、カイロニ。実はあなた、マニさんのこと応援してたんじゃない?」

「おいおい、止めてくれよ」

「だって、あなたも大の貴族嫌いじゃない」

「……」

「貧民街に生まれた野心家の猿獣人(エンデ)は、貴族を利用し、騙して今の地位まで昇り詰めた。目的は違っても、過程は一緒。同情したくなる気持ちがあっても不思議じゃないわよ?」


 むしろ自然なことだと、支部長室から外を見つめるロアは言外に告げる。

 セイバートゥースの(バッチ)を胸に付け、新たな仲間を増やして帰路を進むマコトたちを見守りながら。


「あの子たちには驚いたわね」

「あぁ。けど、解せないことが一つある」

「突然現れた、もう一匹の『ガルダ』のことね……」

「まぁな」


 手に頬を当てるカイロニへと、ロアは危惧する点を挙げた。


「別荘島に住み着き、セルシアには来ようともしない。不可解だったのはそこからだったんだろうな」

「それについては私、ちゃんと指摘したわよね? 『ガルダ』の習性と外れているって」

「え? そうだったけか?」

「そしたらあなた、『試すにはちょうどいい! 今すぐカガヤとかいうセイバートゥースを呼べ!』って言ったのよ?」

「あれれ~? なんだか記憶が曖昧だなぁ~……、つってな……、……ははっ」

「あの子たちを窮地に追いやった責任はカイロニにもあったのよ! マニさんの余罪についての支払いは、貴方がしなさい!!」

「なっ、なにぃ~~~~~~っっ!?」


 雷に打たれたような衝撃が体中を駆け回り、カイロニは両手で頭を抱えた。

 そのままヘナヘナと項垂れてしまった相方の情けない姿に、嘆息を漏らしながらロアは続けた。


「はぁ~。貴方を止められなかった責任は私のある……。二人で返済するならどうにかなるでしょ」

「ロ、ロア……っ! やっぱり俺の相棒はお前だけだ!」

「……もぅ。調子の良いこと言ったって、アナタが七割負担なのは変わらないからね」


「折半じゃないのな……」と、淡い期待が弾ける音を聞きつつ、本題に戻そうとカイロニは顔を引き締めた。


「何にせよ、突然魔獣が現れた以上【魔法】の仕業だろうな」


 五大系統が一つ、【サモン魔法】。

 魔獣の使役が可能であり、唯一【エレメント魔法】の劣等型と呼ばれない【魔法】。

 マコトが唯一目にしていないと思っている【魔法】を思い浮かべるカイロニは、そのきな臭さに瞳を細めた。


「確かに、【サモン魔法】なら『ガルダ』を操って命令するのは簡単だったわね」

「おいおい、【サモン魔法】をそんな便利な魔法みたいに言ってやるなよ。使うやつが聞けば怒り心頭だぜ?」

「……そうね。ちょっと軽率な発言だったかも」


 同じディスターであり、【魔法】を操る者の(よしみ)で、カイロニはロアの発言を撤回させる。

 それは安堵であり、同情。

 ディスターとして覚醒した自分なら、絶対に持ちたくない。

 変えることの出来ない【固有魔法】が、厄介な【魔法】だったとしたら。

 想像するのも御免だと、カイロニは椅子の背もたれへと深く寄りかかった。


「【サモン魔法】はあくまで魔獣を呼び出すことしか出来ない。命令を聞かすことが出来るのは、術者と魔獣との間で主従関係が生まれているからだ」


 つまり、『コイツには絶対敵わない』

 そう思い込ますことでしか、命令は出来ないということ。

 刷り込み、屈服させ、主従関係を覚えさせる。

 小型魔獣一匹一匹に施すのなら、魔力で超人化するディスターであれば難しくないだろう。

 それが、理知を持つ大型魔獣であったならどうか?


「飼い犬に噛まれる。……そうなりかねない【魔法】なんて、怖くて使えたものじゃない。それに、むやみに魔獣を呼び出すことさえ大きな危険を伴う」

「【サモン魔法】の鉄則は、自分の実力以上の魔獣は呼び出せない……、だったかしら?」

「そうだ。主人の束縛から解放された魔獣たちは、結託して反乱を起こすかもしれない。どんなに結託しても『コイツには絶対に敵わない』……、そう思わせなきゃいけないのさ」


 【サモン魔法】を忌避する点を口にするカイロニは、やっぱり同情せざるお得ないと、肩を竦めた。


「今回現れた『ガルダ』の主人は、相当な実力者ってことね……」

「あぁ。それも理知ある大型魔獣を屈服させたんだ。赤子扱い出来るほどの力でもなきゃ、大型魔獣が従うとは思えないな」


 マコトたちの話では、『ガルダ』は突然現れたと言っていた。

 けれど、魔法の発動を感じた、などの話は出なかった。

 アカリたちが感じ取れなかっただけなのか。

 あるいはすでに、…………二体(・・・)呼び出された状態だったのか。


「……っ」


 仮にそうであるなら、術者は理知ある大型魔獣を二体相手取っても余裕がある人物であるということになる。

 カイロニのセイバートゥース歴は長い。

 その歴史の中で知ったセイバートゥースたちの顔を思い返せば、出来るだろう顔がいくつか浮んだ。


「まぁ! 俺も出来るだろうけどな!」

「何よ、急に息巻いて……」


 突然の大声に胸に手を置いたロアは、続いて頬を膨らます。

 ロアに睥睨される中、夕立色に染まる空を眺めるカイロニは浅い笑みを作った。


「他国がちょっかいかけてきた、……あるいは」


 マコトたちの噂を聞きつけ、ローレンツのように仲間に加えようと動いた派閥がいるのか。

 そして浮かんだ、もう一つの考え。

 その最悪を口にするカイロニからは、陽気な雰囲気は消えていた。


「……『クタリア』の宣戦布告か」


ここまで読んでいただきありがとうございます。


これにて、第二章クラウンド編は終わりになります。

なにやら不穏な空気で終わった第二章ですが、次回からはタイトルにある【運命の人】になぞらえて、マコトたちのラブコメになります!

いわゆる日常回ですか、興味があればぜひ読んでもらえると嬉しいです!


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