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第19話:【閃きは偶然から】

「「「うっ、わぁぁぁああああああ!?」」」

「おら、おらぁぁぁあああ! さっきまでの威勢はどうしたぁぁぁあああっっっ!!」


 地雷を踏み抜くように、地面が爆ぜる。

 駆け抜けたそばから、大地が盛り上がる。

 どの時機(タイミング)で巨大蔓の突き上げ攻撃に襲われるか分からない以上、足を止めるわけにもいかない。

 結果、僕達は広大な草原を全力疾走していた。


「このっ! って、くぅ~~~~っ! また潜られたぁ!!」

「ガハハハ! そう何度も同じ手は喰わねぇーさ!」


 縦一列で駆ける僕達。

 その殿に位置するアカリは、蔓を焼き尽くそうと体を反転させる。

 だが、空振りに終わる。


(ただでさえ蔓の数が増えたのに……、なんてたちの悪い攻撃だよ!?)


 巨大蔓による、一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)

 これまでの圧し潰すための『降る』攻撃から、地中より『突き刺す』攻撃に切り替わった。

 迎撃しようにも、『毒』を打ち込む時間がないのは当然として、『火炎』攻撃も躱される。

 顔を出したかと思えば、すぐに隠れるという厄介極まりない戦法に、僕達は手も足も出なかった。


(それもこれも、全てはローレンツさんの【魔法】が原因っ!)


 本来の【ジェネレート魔法】に、こんな動きは出来ないはずだった。

 物質を創造し、『初撃』を操る。

 それがあるべき【ジェネレート魔法】の姿。

 『攻撃を躱す』とか、『地面に引っ込む』とか、そういうのはできないはずでしょ!?

 だというのに、意識を持った生物みたいに動き回る……。 


「小細工は通じない……、どうしても【魔法】の攻略が必要ってことか……っ!」


 背後で揺らめく『蔓』の群生へと振り返り、試験の合格の糸口に目を向けた。


「ダメです! マコトくん!!」

「っ!?」


 耳をつんざくサレンの警告に、僕は即座に視線を戻す。


「待っ──!」

「──ッッッ!」


 けれど、遅かった。

 声を出す暇もなかった。

 突き出す『(つる)』に足を捕まれたと思った次の瞬間、


「………………え?」

「───捉えたっ!!」


 空に舞い上げられた。


「ああああああああああああっ!!」


 真っ白になった思考が戻れば、肺の空気が絶叫として音になる。

 一瞬で空との距離を縮めた僕の視界は、青一色に染まっていた。


「~~~~~~っ!!」


 落下する僕の耳元を、騒がしく風が通り抜ける。

 空を泳ぐように手足をばたつかせるのは、いつかの崖からの転落を思い起こす。

 だけど2回目だけあって、変な慣れがあり、頭が回った。


(やられた……っ! 狙われたっ!? これが、『結び(ぼく)』が戦場に立つ弊害(デメリット)!)


 相変わらず砂嵐のような雑音にとらわれていながらも、脳内ではある言葉が反芻される。


 ──『『(むす)び人』を殺すの。……【魔法】を使わせないためにね』──


 耳元で囁かれたモネフィラさんの言葉に、僕は返す言葉を失った。


「──マコト!」

「──マコトくん!」

「アカリっ!? サレンっ!?」


 突き上げられた僕を助けるためか、二人して何もない空中へと飛び上がってしまった。


(…………やっぱりこうなるよね……っ!)


 当然だ。

 二人に、僕を見捨てるなんて選択肢はない。

 例え狙われたのがアカリやサレンでも同じことだが、動きの一番鈍い『結び人』は、二人を釣り上げるための標的にうってつけ。

 それはまるでお返しのようで、『一塊』になった瞬間を待っていたのだろう。


(となれば、次に来るの…………っ!?)


「これで一網打尽だなぁぁああああ!!」


 『蔓』による、捕縛だった。


「マコトくん! 何か手はありませんかぁぁぁぁっっっ!?」

「ごめんっ!! なんにも浮かばないぃぃぃぃ!!」

「それより二人とも私に捕まってえぇぇぇぇ! 蔓が来ちゃうぅぅぅっ!!」

「「っ!?」」


 アカリの渇望に、僕とサレンは目をギョッとさせた。

 天に足を向け、地面を見下ろす光景には、巨大蔓が作った一面の穴だらけ。

 あれだけ燃やされまいと地中に隠れていたのに、動きが制限される空中にいると知った途端、証拠にもなく多くの蔓が顔を出す。

 ただ、その数には違和感があった。


(18、19…………20……。数が足りない……!)


 巣穴からこちらを伺う巨大蔓は、キリ良く半分だった。


「蔓の数が合わない……! 何か仕掛けてくるつもりかもっ!」

「だとしても、やらなきゃ。捕まったら意味ないよ!」


 魔法の中断を訴えた僕に、アカリは断行を決意する。

 出し惜しみをしている場合でないのも事実。

 それに失態の原因は僕にある。

 どのみちこんな状況では、思考に耽ることなんてできない。

 ならせめて、と二人を掴む手に力を入れる。

 アカリの右手にはすでに【大炎塊】が顕現し、再び青空が紅色に塗り替えられる。

 そして、炎が下った。


「てえぇぇぇ、りゃあああああああっっ!!


 咆哮と共に放たれる炎は、柱のようにアカリと大地を繋ぎ、一帯の『(つる)』を燃やし尽した。


「や、やりました…………!」


 一掃された蔓の群生を見届け、サレンは感嘆を溢す。


「ふぅんっ!」


 間もなく落下する僕とサレンを引き寄せ、アカリは着地の体勢を作る。

 その瞬間、


「ガハハハ! 油断したな!」


 ローレンツさんの哄笑を合図に、巨大蔓の残党が顔を出した。


「なぁっ!?」

「まずい!?」


 やはり仕掛けがあったと、虫の知らせにため息を吐かれるが、構っている余裕はない!

 突出した巨大蔓は真下からではなく、四方八方から。

 円蓋(ドーム)を形成するように迫る蔓は、一撃では撃ち落とせない。

 それを理解したアカリも、左右へと顔を捻るが、唯一魔法を放てる両手は、僕たちを支えるために使われている。

 つまり、


「ぐふっ!?」

「が、ぁあっ!」

「ぐ、ぐぅっ……!?」


 三人漏れなく、一本の蔓にまとめて巻き付かれた。


「これ、くらい……っ!」

「アカリお姉ちゃん…………、ダメ……っ!?」


 諦念を見せないアカリが身をよじり始めたところに、サレンの焦燥の声が響く。


「マコトくんが、います…………!!」

「っ!?」

「ぅ、ぅ…………! アカリ…………、ごめん……っっっ」


 一思いに蔓を焼き切ろうとしたのか、アカリの体温が一気に上がった。

 それだけのことで、僕の肌は灼熱だと錯覚する。

 高まる熱量と、発火の訪れにアカリと密着する肌が焼けかけ、サレンの制止がなければただでは済まなかっただろう。


「これで、一丁上がりだな」


 蔓に縛られて顔を歪ませる僕たちを、見上げるローレンツさんが浅く笑う。

「もうお終いか?」と告げる様に。


「うう~~~~~ぅぅっ!! マコト、どうしよおおおおおおっ!?」

「……っ」


 絶えず身をよじり続けるアカリの姿を横目に、僕は項垂れた。

 不甲斐なさが心を埋め尽くす……。

 共に戦おうとして、足を引っ張る始末……。

 僕と一緒に捉えることで、アカリとサレンの魔法を封じるのがローレンツさんの目的だったのだろう。

 僕の『魔力切れ』と違い、『人質』を取っての【魔法】封じ。

 ローレンツさんは、アカリとサレンだけでなく、きっちり僕との思考対決にも勝ってみせたのだ。


「くっ……!」


 今更ずるいと言うのは、お門違い。

 戦いに割って入ったのは僕自身。

 敵と見なされたことに歓喜しておきながら、狙われることは微塵も考えていなかった自分に腹が立ち、僕は唇を強く噛み締めた。

 …………その時だった。


「──ッッ!」


 炎の柱が、地中より湧き上がった。


「……え?」


 それは一つどころの話ではない。

 草原に空いたいくつもの『穴』から現れ、噴き荒れる。

 その狂乱っぷりは、僕たちを縛る蔓にも燃え広がり、


「うおっ!? 何じゃこりゃ!?」


 ローレンツさんにも、飛び火した。

 瞬時に飛び跳ねたことで、ローレンツさんに当たることはなかったが、『一撃与える』に手が届きかけた。


「あ、ぁ……」


 こんなことが出来るのは、当然アカリだけ。

 悪あがきをしていたのは、…………演技っ!?

 ローレンツさんを騙し、油断を誘い、地面からの攻撃を悟らせなかった。

 あと一歩届かなかったが、初めて追い詰めることに成功したのだ。


「アカリ、すごいよ!」


 あぁ、不甲斐ない。

 僕はなんて不甲斐ない男なのか。

 何度改めようとしても、変われない自分に嫌気が差す。

 そんな僕を置いていくように、アカリは先に進んでいく。

 僕と違い、最後までアカリは諦めていなかった。

 耐えて、吠えて、粘り続け。

 強者に臆することのない勇気をもって、ローレンツさんの懐に手を掠めた。

 そんな勇士に僕は目尻を熱くしながら、アカリへと向いた。


「……何ぃ~、これぇ~?」

「…………っ」


 けれど、そこには呆然としたアカリが首を捻っているだけ。

 そのアホっぽい声を漏らしたアカリに、僕は堪らず瞳を細めてしまった。


「マコトくん! アカリお姉ちゃん! 蔓の拘束が弱まりました!」

「え……? ってことは、……抜けられる……?」

「よくわかんないけど、さっさと下に降りよう!」

「う、うん……」


 崩壊し始める蔓に手を掛け、そのまま地上へと着地する。

 すぐ後ろでは、僕たちを縛っていた青い蔓が地面へと倒れ、徐々に炎に飲まれていく。


「『エレメント魔法』ってやっぱりすごいです! こんなことも出来ちゃうんですね!」

「あ、あはははぁぁぁぁ……。無我夢中だったけどね……」

「……っ」


 草原を渦巻く大炎海に身を置きつつ、サレンは窮地を救ってくれたアカリへ感謝を告げる。

 ただ、僕は見てしまった。

 サレンに背向け頭を擦るアカリの顔を、僕だけが見ていた。

 向けられる尊敬の眼差しに、心を痛めるアカリの苦痛に染まる顔を。


「もしかして、これって偶然……?」

「っ!?」


 一応の気づかいとして小声で尋ねれば、アカリは肩と耳をピクリッと跳ねらせた。


「そこで見栄を張らなくても……」

「だってお姉ちゃんって言ってくれてるんだよ!? 期待に応えたいじゃぁ~~んっ!」

「……」


 胸の前で手を組み、涙目で「言わないでぇ~っっっ」、と後生の頼みを訴えかけてくるアカリに、僕は嘆息を吐いて無言を貫く。

 どうやらアカリはアカリで、難儀な物を背負っているようだった。


「何はともあれ、ひとまず試験は続行かな」


 上がる黒煙と、周囲からの熱で呼吸がしづらく、堪らずしゃがみ込む。

 アカリが操っていないせいか、噴き出た炎はところ構わず草原を燃やしている。

 巨大蔓も相まって、火の丈はどんどん高くなる。

 だが姿を隠すのには、丁度いい。

 これで思考に費やす時間ができたと、僕は顎に手を置いた。


(この【炎】は、蔓を焼き払うために放った一撃が穴に入り込み、地中を通ってまた出てきた、……ってところかな?)


 それがたまたまローレンツさんの足元からも噴き出す結果になったのだろう。

 周囲を伺えば、蔓は全て死に絶え地面に伏している。

 さっきのように掴まれる心配はなさそ……、ん?


「火の手がないのに、……蔓が枯れてる?」


 燃えていないはずの巨大蔓が、根本からばったりと折れていた。

 【炎】は、『全ての穴』から出て来た訳じゃない。

 なのに『全ての蔓』が、折れている。

 『燃える』か。

『朽ち果てる』か。

 どちらかに分かれ、等しく根元から倒れていた。


「アカリお姉ちゃん、このままここにいるのは危険じゃないですか?」

「そうだね。一度ここから離れて体勢を整え……、マコト……、大丈夫?」

「……っ」


 頭の中で疑念と違和感だけが堂々巡り。

 辺りで舞う黒煙のように、頭の中で渦巻いている。

 焼ける蔓、燃える草原。

 炎の(たけ)りに熱気がさらに増し、「ここを離れよ」とアカリが僕の腕を掴む。

 けれど、このままでは無策の戦いが始まるだけ。

 まだ行くわけにいかない。

 それにさっきのは偶然だ。

 次捕まれば、本当に終わる。

 ……ここだ。

 ここなんだ……!

 今、この瞬間で決まるっ!

 この先の未来がっっ!!

 セイバートゥースとして、──『人を助ける』──のか。

 ただ貴重な存在として、──『人に助けられる』──のかが。


「あ……、そういうことか……」

「「え?」」


 僕を急かすように引っ張っていたアカリとサレンが、同時に首を捻った。

 それは奇しくも同じ体勢。

 ローレンツさんのように、しゃがみ込んでいた僕を、ひっぱり上げようとした時だった。


 × × ×


「出てこねぇ……。『ダウンタイム』にでもなっちまったか?」


 大炎海から距離を置き、隆起の激しい腕で頭を掻くローレンツは嘆息を漏らし、反省していた。

 一言でいえば、熱くなり過ぎていた。

 気弱だと感じた印象から打って変わり、短躯を生かした素早い移動と、『毒』を用いて道を切り開く度胸を見せたサレン。

 【エレメント魔法】を荒々しく使っているのに倒れることなく──おそらく持ち前の身体能力がズバ抜けていることが起因して──、早くも頭角を現したアカリ。

 そして、今は蛮勇としか言えずとも、誰もが出来る訳じゃない一歩を踏み出し、戦場に赴いたマコト。

 三人が見せた強い意志が、途中から『試験』だということを忘れさせ、ローレンツの気持ちを高ぶらせた。

 結果、辺りは焼け野原。

 これは失態だった。

 自分の国ならどうということはないが、ここは他国。

 例え神命(オラクル)で赴いたといっても、その範疇を越えている。

 今は何も言ってこないが、冷たい目を作っているだろうモネフィラを想像したローレンツは、顔をげんなりと崩した。


「まぁ、やっちまったもんは仕方ねぇ……。期待の出来る奴らだってのはわかったし、俺らの手でじっくり育ててやろーじゃねーか」


 火の丈の縮み始めた大炎海へ、ローレンツは肩を回して歩み寄り、片膝立ちで大地に手を置く。

 再び巨大蔓を作り出すために。


「ふんっ!」


 ローレンツの片手が、地面に触れる。

 手元に流れるのは、緑の魔力光。

 【ジェネレート魔法】の枠組みに従って、魔力を用いて蔓を生み出す。

 そこに絡みつくは、三本の『細い(・・・)』だった。


「どんな奴らも植物と同じ。たとえ小さく頼りなくても、『魔力(ちから)』を注ぎ続ければ、大きく育つってもんだ」


 地面に入り込んだ細い蔓が、地中で土を押し返して太さを増していく。

 やがてズシズシッと音を立て、大炎海の中で顔を出す。


「さて、三人はどこだ?」


 『ダウンタイム』で気絶しているなら命に関わる。

 けれど試験自体は続行しているため、迂闊に炎の中には入らない。

 大炎海の中は燃える蔓や黒煙によって見づらく、斬りかかられれば対処が遅れる。

 用心のための『蔓』での救出、兼索敵だった。


「お、一人見つけた……が、これはモネフィラにドヤされちまうなぁ……」


 地面を這うように巨大蔓を操るローレンツは、いうなれば目隠しをされた状態で、地面にぺたぺた手をついているのと同儀。

 『蔓』から伝う振動を頼りに、魔力強化された触覚で、探し出す。

 そうして捉えた地面とは別の感触に、ローレンツは肩を落とした。

 柔らかな感触。

 間違いなく人。

 それが三人の内の誰かを当てるのは難しいが、暴れる様子がないことから、やはり気絶しているのだろうと結論づける。


「はぁー……」


 草原を荒らしたことに加え、新人に過度な教育。

「……やりすぎ」と睥睨する結び人が思い浮かぶ。

 これは説教が待っているな、と項垂れるローレンツは、引き戻そうと『蔓』を操る。

 ──が。


「──っ!」


 唐突に、ローレンツは後方に飛び跳ねた。

 【ジェネレート魔法】は、物質を生み出し、『初撃』を操る魔法。

 そこに感覚の共有など存在しない。

 だからこそ己の触覚を頼りにマコトたちを探していたが、操る蔓に感じた違和感が、ローレンツに回避行動を取らせた。

 途端に大炎海の中では巨大蔓が倒れ、地面に衝撃が走る。

 この日初めて、ローレンツは冷や汗をかいた。


「おいおい! マジかっ!?」


 蔓に感じた違和感。

 大炎海の揺らめき。

 そして、それらを指示しただろう少年の顔を浮かべ、ローレンツは哄笑する。


「受けてやるぜぇ! アカリ嬢ちゃんよぉぉっ!!」


 いつの間にか、火の丈は高さを増し、壁として立ち塞がっていた。

 その奥から迫るのは、影。

 次第に大きくなり、咆哮を向ける存在に、ローレンツは背にする大剣へと手を掛ける。


「──……っぁぁぁぁああああ」


 炎の壁は、少女を燃やさない。

 炎の壁は、少女を妨げない。

 少女の背中を押すように。

 少女と共にするように。

 少女に道を開き、銀の刃に『炎』を灯す。


「はあああああああああああああああっっっ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


 銀の大剣と、真紅の長剣。

 お互いに上半身を捻り、これでもかと刃を後ろに引き、放つ一振り。

 次の瞬間、


「「──ッッ!!」」


 二匹の獣が、牙を鳴らした。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


アカリの放った一撃が、マコトに新たな閃きをもたらしました。

まるで探偵物のように、何気ない一言や小さな違和感が、【魔法】の謎を解く鍵へと繋がっていきます。

次回はいよいよ、その“謎”が明かされる回となります。


ブックマークや、☆☆☆☆☆も付けてもらえると嬉しいです!

応援コメントも励みになりますので、これからもよろしくお願いします。

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